建築向け塗料の基本《塗料/コーティング技術入門②》

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建築向け塗料の基本《塗料/コーティング技術入門②》

塗料が最も多く使われるのは建築物です。
紫外線や雨水から建築物を守るのに欠かせず、塗料が無ければ建物はすぐに劣化してしまうでしょう。外壁や屋根には使われており、内装に壁紙を使用しない場合は内壁にも塗料が使われています。工場や倉庫ではタイルやフローリングではなく床用塗料が好まれます。

塗料/コーティング技術の連載2回目の今回は、建築に使われる塗料の基本について解説します。
また、橋梁やプラントなど一般的な建築物以外で使われる重防食塗料についても触れていきます。

1.外壁用塗料

 

(1)外壁用塗料の仕様例

外壁用塗装の仕様例
【表1 外壁用塗装の仕様例】

 

住宅やマンションの外壁にはコンクリートやモルタル、サイディングボードなどが使われています。前者2つはセメントをベースとした材料で、サイディングボードにはセメントや金属、樹脂などをベースとした様々な種類のものが存在します。
いずれも紫外線や雨風などで経年劣化してしまうため、新築時もしくは定期の塗装が必要となります。

外壁用塗装は通常、下塗りと上塗り塗装が必要で、2~3段階にわたって塗装されます。A社の製品仕様例を見ていきましょう。

新築のコンクリート面に塗装する場合、被塗物表面をウエスなどで清潔にした後、「水系のカチオンシーラー(下塗り)」をローラーで塗装します。
4時間経過したのち、「水系の1液型ウレタン塗料(上塗り)」を同じくローラーで塗装し、3時間経過後に再度上塗りを塗装して塗装が完了します。

シーラーは被塗物の補強及び、上塗りとの密着性向上に欠かせない塗料です。上塗りは着色と保護の機能を果たします。
なお、この上塗り塗料には日本塗料工業会が提供する標準色見本帳に基づいた各色の製品が提供されているほか、原色タイプもあるため、塗装業者が現場で調色することも可能です。

 

(2)外壁用塗料の分類

外壁用塗料には「水系/有機溶媒系」、「1液型/2液型」、「ウレタン系/シリコン系」など、溶媒や液の種類、樹脂の種類など、様々なカテゴリーごとに分類されており、性能や寿命もそれぞれ異なります。
ここでは各分類法で分けた塗料の特徴について解説します。

 

① 水系/有機溶媒系

外壁用塗料は溶媒の種類によって水系と有機溶媒系に分けることができます。

有機溶媒系ではトルエンやシンナーなどの「弱溶剤」が溶媒として使われています。樹脂は有機溶媒に溶ける一方、水には溶かすことができません。

水系塗料では樹脂を乳化剤などの親水性物質でくるみ、”エマルション化”することで水中に分散させています。水系塗料で形成された塗膜はかつて、表面の仕上がりが有機溶媒系に劣り艶が出にくい、ワキなどの塗膜欠陥が出やすいなどの欠点があると言われていました。
しかし現在では研究開発が進み、必ずしも水系塗料が劣るということはありません。むしろ塗装現場における作業環境の観点から、水系塗料が好まれるようになっています。

 

② 1液型/2液型

外壁用塗料には1液型と2液型があります。塗膜の硬化過程は2種類の樹脂が反応して進みます。
1液型では反応性の両樹脂が1つの塗料に含まれているのに対し、2液型ではそれぞれ別の液(「主剤」と「硬化剤」)に分けられています。
そのため1液型の塗料は缶を開けてすぐに塗装できるのに対し、2液型では塗装する前に2つの液を現場で混ぜる必要があります。

作業性の面で見ていくと、1液型は余っても後日使えますが、2液型の場合、主剤と硬化剤を混ぜてしまった液はその日のうちに使わなければなりません。
ただし長期の保管期間を比較すると、1液型は一つの塗料に主剤と硬化剤が含まれている関係で部分的に樹脂反応が進みやすく、混ぜる前の2液型塗料の方が長期で保管できます。
なお塗膜の耐久性(対候性)は1液型よりも2液型の方が優れています。

 

③ 樹脂系による分類(ウレタン系/シリコン系など)

樹脂系による違い
【表2 樹脂系による違い】

 

外壁用塗料は樹脂系によって「アクリル系」、「ウレタン系」、「シリコン系」、「フッ素系」に分けることができます。
塗膜は紫外線や雨風で劣化してひび割れや色あせが生じ、さらに劣化が進行するとはがれが生じます。
環境にもよりますが、それぞれ塗膜の耐用年数はアクリル系が最長8年程度、ウレタン系が10年、シリコン系が15年、フッ素系が20年と言われています。後者になるほど塗料の価格も高くなっていきます。

最も安価なアクリル系は文字通りアクリル樹脂を使った塗料ですが、耐久性が低いため近年では余り使われていません。
ウレタン系は硬化剤にイソシアネート(ウレタン)を使用したもので、シリコン系は強力なシロキサン結合(-Si-O-Si-)を含む樹脂を使用した塗料です。フッ素系は樹脂中に炭素-フッ素結合(C-F)を有しており、この結合が一般的な炭化水素の構造(C-H)よりも紫外線で分裂しにくいため、塗膜の高耐久性を実現しています。

 

2.内装用塗料

まずは内壁用塗料について見ていきましょう。
A社の製品仕様を見ると外壁塗料と同様、コンクリートなどの被塗物表面をきれいにしてからシーラーを塗装し、その上に上塗り塗装を施します。水系/有機溶媒系の両方が存在しますが、換気性の劣る室内で塗ることから、内壁用塗料の多くは水系です。

また、外壁塗膜ほどの耐久性は求められないため1液型を使うことが多く、シリコン系はあってもフッ素系塗料を内壁に使うことは余りありません。
紫外線や雨水が直接あたることも少ないことから、アクリル系塗料も多用されます。
近年ではコロナ感染拡大の観点から、塗膜表面でのウイルス不活性化効果を有する抗菌・抗ウイルス塗料も人気となっています。

次に内装に使う床用塗料について見ていきましょう。
床用塗料では耐衝撃性などの物理的応力に対する耐久性や耐薬品性(工場など)が求められるため、これらの性能に優れたエポキシ樹脂系の塗料が使われることが一般的です。
また、エポキシ樹脂は安価である点が特徴的です。硬化が早く、屋内での耐久性が優れるアクリル系の床用塗料もありますが、高価なため一部の用途に限られています。

床用塗料の場合は、コンクリートなどの被塗物に密着性を高めるプライマーを塗装してから下塗り塗装を行い、その上に上塗り塗装を施します。

 

3.住宅・ビル以外の塗料

橋梁や鉄塔、工場プラントの配管・タンクはほとんど鉄でできています。
鉄は外気や雨風ですぐに錆びてしまうため、これらの建築には錆止めを主な目的とした「重防食塗料」が使われます。

 
重防食塗料も種類は多種多様で、

①厚膜で水・空気が鉄に接触するのを防ぐ、
②防錆顔料を配合する、
③鉄より反応性の高い亜鉛末を多量に含む、

などのアプローチで錆びの進行を防ぎます。

重防食塗料の仕様例
【表3 重防食塗料の仕様例】

 

B社の仕様例では被塗物にエポキシ樹脂系のジンクリッチペイントを塗った後、エポキシ樹脂系の下塗り塗装を行います。
そして中塗りに再度エポキシ樹脂系塗料を塗った後、ポリウレタン樹脂系の上塗り塗装を施します。厚く塗ることで防錆機能を果たそうとしていることがわかります。

最初に塗装するジンクリッチペイントは亜鉛末を多量に含んだ塗料であり、前記の③の原理で働きます。
なお樹脂と被塗物の密着性は防錆性能に影響することから、防食用の塗料では一般的に密着性の高いエポキシ樹脂が使われます。
ただしエポキシ樹脂は耐候性が低いため、別の樹脂を用いた上塗り塗装を施す必要があります。

なお重防食塗料を塗装する際は、塗装前に被塗物のケレン作業が必要になります。
ケレンは表面を削って汚れを落とし、凸凹をつくる作業のことで、強度の違いで1種から4種まで存在します。
塗り替えの場合は古い塗膜をはがしたり、金属表面の錆びを落としたりする目的で行われます。

 

4.基本的な性能はJIS規格で規定されている

外壁用塗料、内装用塗料、重防食塗料と様々な種類の塗料があり、各カテゴリーのなかでも樹脂系の違いや1液型/2液型などの違いがあります。
ただし建築向けに使われる塗料の性能は基本的に国が定める日本産業規格(JIS規格)に基づいており、製品カタログや一斗缶を見ると「JIS ○ ●●●●」などの表記が記載されています。

例えば、「建築用耐候性上塗り塗料 JIS K 5658 1級」の塗料による塗膜は、キセノンランプを用いた促進耐候性試験(2500時間)後の光沢保持率が80%以上でなければなりません。
製品選びに迷った際はJIS規格を参考にすると良いでしょう。

 
以上、塗料/コーティング技術、連載2回目の今回は建築用塗料について解説しました。

次回3回目は、自動車向け塗料について解説します。

 
 
(アイアール技術者教育研究所 G・Y)

 


≪引用文献、参考文献≫

  • 1)図解入門よくわかる最新塗料と塗装の基本と実際,秀和システム(2016)
  • 2)早わかり塗料と塗装技術,日本理工出版会(2010)
  • 3)「水性ファインウレタンU100」製品カタログ(日本ペイント)
  • 4)「エコフラット®100」製品カタログ(日本ペイント)
  • 5)大日本塗料(Webサイト)
    https://www.dnt.co.jp/products/feature/2.html

 

 

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