3分でわかる技術の超キホン セルロースナノファイバー(CNF)とは?

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セルロースナノファイバの基礎知識を解説

セルロースナノファイバーCNFCellulose Nano Fiber)が今注目されています。
21世紀になってから研究開発が活発化している材料です。
セルロースナノファイバーは、どんな材料なのでしょうか?

1.セルロースナノファイバーとは?

セルロースナノファイバーは、極細にまで解きほぐされたセルロース繊維です。

セルロースのファイバー(繊維)は、典型的にはとして、古くから私たちの身近に存在しています。
紙の繊維は、図1に示すように、通常は数十μmの太さ(幅)があります1)
ミクロフィブリル」と呼ばれる極細繊維が集合してこの太さになっているのです。
この集合体を解きほぐすことを「解繊」と呼びますが、集合体を形成する極細繊維が水素結合によって互いに強固に結びついているため、太さを100nm以下にまで解繊するのは容易ではありませんでした。
 

セルロースナノファイバー
【図1 コピー用紙】[※引用 1)]

 

セルロースナノファイバー
【図2 セルロースナノファイバー】[※引用 2)]

ところが東京大学の磯貝教授らがTEMPO酸化法という新しい処理法を用いて最小3-4nmの太さにまで解繊する画期的な技術を2006年に見出しました2)。これが図2に示すセルロースナノファイバーCNFです。
現在、CNFは太さ3-100nmまで解繊されたセルロース繊維と定義されています。
 

2.CNFは期待の新素材

磯貝教授らの発見を契機に、日本では製紙会社を中心に企業でのCNFの研究開発が活発化しました。
現在CNFは「植物由来の素材で鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度等の特性」を持つ材料と位置づけられ、環境省のリードの下で実用化を目指した国家的なプロジェクトが進行中です3)

CNFは被膜材料の透過特性改良材機械材料の補強材等、幅広い分野での利用が期待されています。
 

3.ナノ化でどの特性がどの程度向上する?(事例紹介)

多くの人にとって関心があるのは、セルロース繊維のナノ化、即ち、太さ(幅)が従来の数十μmあるいは数百nmから100nm以下(極端な場合は3-4nm)にまで解繊されることにより、どういう用途でどんな改良が可能になるのかでしょう。今回多くの報告書を参照したのですが、CNF無添加と添加の場合とを比較したものがほとんどであり、ナノ化の効果を具体的に確認できませんでした。

そこで、CNF利用に関する特許調査を実施し、特許の実施例の記載から具体的データを抽出する作業を行いました。これにより判明した事例を以下に紹介いたします。
 

(1)皮膚外用剤の保水性向上

第一工業製薬は、セルロースファイバー0.2wt%/1,3-ブチレングリコール10wt%/水(残部)の組成の皮膚外用剤を調製し、セルロースファイバーの保水性成分としての効果を検討しています4)
セルロースファイバーの幅を変数にした際の水分蒸散量が表1の結果であったと報告しています。セルロースファイバーの幅を100nm以下のCNFの水準、殊に4nmまで下げることにより水分蒸散量が大きく低下すること、即ち保水性が向上することが分かります。
 

セルロースナノファイバー
【表1 皮膚外用剤の保水性】

 

(2)気体バリヤー性の向上

凸版印刷は、図2の構造の多層膜でセルロースファイバー膜の気体バリヤー機能を評価しています5)
セルロースファイバーの幅を変数にした際の気体透過度が表2の結果であったと報告しています。セルロースファイバーの幅を3μmから4nmにまで下げると、酸素透過度も水蒸気透過度も低下すること、即ちバリヤー性が向上することが分かります。
 

セルロースナノファイバー
【図2 気体透過度測定用の多層膜の構造】

 

セルロースナノファイバー
【表2 多層膜の気体バリヤー性】

 

(3)日焼け止め化粧料の透明性の向上

第一工業製薬は、セルロースファイバー0.2wt%/酸化チタン20 wt%/1,3-ブチレングリコール10wt%/水(残部)の組成液から膜厚10μmの膜を形成し、日焼け止め化粧料の透明性を評価しています6)
セルロースファイバーの幅を変数にした際の可視光透過率が表3の結果であったと報告しています。
セルロースファイバーの幅が100nm以下のCNFの水準になると、透明性が大きく向上することが分かります。
 

セルロースナノファイバー
【表3 日焼け止め化粧料の透明性】

 

(4)ポリプロピレン樹脂補強効果

大王製紙は、ポリプロピレン83wt%/無水フタル酸7wt%/セルロースファイバー10wt%の組成の複合材料を作製し、プロピレン樹脂補強効果を検討しています7)
セルロースファイバーの幅を変数にした際の、曲げ弾性率向上度(補強無しのポリプロピレンの値に対する比率)が表4の結果であったと報告しています。幅60nm未満のCNFよりも幅1μm超のセルロースファイバーの方が効果が高いことが分かります。
 

セルロースナノファイバー
【表4 ポリプロピレン樹脂の補強】

 

4.今後のCNF利用はコストダウンがカギ?

現在のCNFはまだ高価でありコストダウンが必要とされています8)
その潜在的な機能を十分に発揮できる適切な応用分野を見極めつつ、コストも考慮しながら利用が進んでいくものと予想されます。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
 
 


《参考文献・サイト》


 

 

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