3分でわかる CO2水素化によるメタノール合成の基礎知識《カーボンリサイクル技術》

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メタノール

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素(CO₂)を再資源化する技術が注目されています。
CO2を回収し、利用・貯留する技術は「CCUS」(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)と呼ばれますが、本記事ではCO2の「利用」に該当し、CO2を原料として有用化学品を製造するメタノール合成技術を解説します。

1.CO2の利用・3つのパターン

回収したCO2の利用には主に以下の三つがあります。

  • 直接利用:二酸化炭素レーザーやドライアイスとして利用する
  • EOR(Enhanced Oil Recovery、原油増進回収):回収したCO2を油層に圧入して、圧力差により、原油の回収率を上げる
    (※関連記事:CCS、EOR、そして超臨界《環境技術の用語解説》はこちら)
  • カーボンリサイクル:回収したCO2を化学品、燃料、コンクリート材料などの製造に用いて、日常生活の様々な場面で活躍可能

 

CCUS(CO2回収・利用・貯留技術)の概念図
【図1 CCUS(CO2回収・利用・貯留技術)の概念図 ※本編の内容は青の部分】

 

CO2の利用は、化学品の分野で更に多岐にわたっています。農業や藻類のCO2を利用するバイオマスに由来する化学品、ポリカーボネート、ウレタン等のプラスチック、オレフィンなどの汎用化学品などがあります。その中でも、基幹物質であるメタノールの合成は最も注目される利用の一つです。

 

2.基幹物質「メタノール」の製造方法

メタノールは二酸化炭素のカーボンリサイクル過程でつくることができる基幹物質であり、様々な業界で重要な基礎原料として使用されるため、世界で安定な需要が見込まれます。例えばプラスチック、肥料、薬剤の原料として利用されます(図2)。

 

二酸化炭素の有効利用:メタノール合成ルートとその展開
【図2 二酸化炭素の有効利用:メタノール合成ルートとその展開】

 

メタノールの生産ルートはいくつかあります。
まず、石炭のガス化や天然ガスを利用して、メタノールを生成する従来のルートがあります。この方法では化石燃料が大量に使用されるため、炭素排出量が最も高くなります。一方、CO2と水素を用いて、メタノールを製造する技術は炭素排出量が低くなります。

水素源を区別して、さらに ①再生可能エネルギーを使用して水の電気分解による製造する「グリーン水素」と、②CCUSと組み合わせた天然ガス改質プロセスを使用して得られる「ブルー水素」があります。

グリーン水素と、バイオマス由来または炭素回収技術で回収されたCO2を利用する場合、炭素排出がほとんどないメタノール合成が可能です。このタイプのメタノールは「グリーンメタノール」または「再生可能メタノール」と呼ばれます。CO2を水素化してメタノールにする技術は、グリーンメタノールを製造するのに必要なコア技術となっています。

[※関連記事:3分でわかる グリーン水素の基礎知識

 

3.CO2の水素化によるメタノールの製造

CO2の炭素原子は低エネルギー状態で化学的に安定しており、反応性が低いため、反応させることは困難と考えられていました。しかし、研究により反応が起こりやすい2つの方法が開発されています。

一つはCO2を反応性の高いCOに変換する方法RWGS経由プロセス)で、もう一つは触媒反応によりCO2とH2をワンステップでメタノール化する方法直接水素化プロセス)です。

 

(1)RWGS経由プロセス(Reverse Water Gas Shift → メタノール合成)

RWGS」(”Reverse Water Gas Shift”, 逆水性ガスシフト反応)とは、水電解で得られた「H2」と、発電所や工場の排出ガスに由来する「CO2」から、「CO」と水を生成する反応です。通常の水蒸気改質(水とメタンから水素と一酸化炭素を生成する反応)とは逆のプロセスです(式1)。
その後、従来のメタノール合成ガス製造方法により、COとH2を含む合成ガスを生成してメタノールを製造します(式2)。

  • 反応1(RWGS反応): CO2+H2 → CO+H2O(RWGS)  ・・・ (1)
  • 反応2(メタノール合成): CO+H2 → CH3OH   ・・・(2)

しかし、RWGS反応経由のメタノール製造は追加の反応工程が必要であり、プロセスの複雑化やエネルギー効率の低下が課題となります。

 

(2)直接水素化プロセス(Direct Hydrogenation)

現在、CO2水素化によるメタノール合成の主流は、CO2と水素を原料として直接用いて、圧縮、合成、ガス分離、蒸留などを経てメタノールを製造するワンステップでのメタノール製造法です(式3)。
CO₂を直接水素で還元してメタノールを得るプロセスです。プロセスがシンプルで設備設計の自由度が高く、将来的な商用化に向けた研究が進んでいます。

 CO2+H2 → CH3OH+H2O  ・・・(3)

ここで、メタノール転化率に関して面白い研究結果があります。
合成ガス中のCO含有量は高くても、転換率は高くないですが、逆に、合成ガスにCO2を混ぜる方は変換率が100倍も高めることができます。

同位体標識法を使用して反応機構を分析すると、COからメタノールへの変換には高い反応エネルギー障壁があるため、実際には反応装置内でCOが最初にCO2に変換され、次にメタノールに変換されます。反応機構の解明は、CO2からメタノールを直接製造するのに必要な触媒開発の基礎となりました。
このメタノール製造に用いる主な触媒として、以下のものがあります。

 

① 銅系触媒

1960年代にイギリスの帝国化学工業 (ICI) が開発したもので、Cu/ZnO/Al2O3を用いて、CO2からメタノールへの水素化反応を触媒しました。(反応条件:200~300℃, 5~10MPa)
触媒として機能する成分がCuのため「銅系触媒」と呼ばれます。

ZnOは水素の吸収、銅の分散を改善し、比表面積を広げることができると考えられます。
また、Al2O3は、主に、構造添加剤として機能し、触媒の総比表面積と機械的安定性の向上に貢献します。

 

② インジウム系触媒

インジウムベースの触媒(In2O3)は、優れたメタノール選択性と高温での安定性を有することで注目されています。例えば、300℃、5MPaの反応条件下では、インジウム系触媒のメタノール選択率は高い値を示すことが報告されています。
ただし、RWGS反応の抑制と思われる原因により、同じ反応条件下では、インジウム系触媒は銅系触媒よりメタノールの収率は低くなります。

 

③ 固溶体触媒

現在、固溶体触媒は、ZnO-ZrO2をベースとしたバイメタル固溶体酸化物触媒を主に指します。
これらの触媒は、銅系触媒に比べて水中での銅の凝集を抑制し、触媒の安定性を向上させる効果があります。

 

④ 貴金属触媒

CO2のメタノールへの水素化における貴金属触媒の役割は、近年広く注目を集めています。
貴金属触媒は強力なH2解離能力を有し、金属と合金を形成したり、酸化物と金属酸化物界面を形成したりすることが可能であり、CO2水素化によるメタノールの生成において高い反応性を示します。
特に、パラジウム系触媒が最もよく使われる貴金属触媒です。

 

4.CO₂水素化によるメタノール生成のプロジェクト事例

カーボンリサイクルにおいて、CO2水素化からメタノールへの転換を取り組んだプロジェクトして、アイスランドのCarbon Recycling International社(CRI)が、世界で初めてCO2と再エネ由来の水素からメタノールを製造するプラントを運用して注目されました。地熱発電所の排ガスから回収し、水素は再生可能電力で電気分解して製造する、完全再エネベースの合成燃料です。
このプロジェクトでは、毎年約5,600トンの二酸化炭素を利用して、約4,000トンのメタノールを生産できるとされています。

 

5.まとめ

CO₂の水素化によるメタノール合成は、温室効果ガスを資源に変える「カーボンリサイクル」の重要技術の一つです。触媒開発や再エネ水素の供給体制整備が進めば、将来のグリーンケミカル・グリーン燃料製造においても大きな役割を担うことが期待されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1) 科学技術振興機構 研究開発戦略センター調査報告書二酸化炭素資源化に関する調査報告
    https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20380140/
  • 2) 日本政策投資銀行, DBJ Research, カーボンニュートラルに向けたメタノールへの期待
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms/61/9/61_803/_article/-char/ja/
  • 3) WENDER I, Reactions of Synthesis Gas Fuel Processing Technology, 1996, 48, 189-297.
  • 4) Carbon Recycling International(WEBサイト)
    URL:https://carbonrecycling.com/projects/george-olah
  • 5) Duyar et al., Methanol Synthesis from CO₂: A Review of Catalytic Pathways, MDPI, 2023.

 

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