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アンテナ特性の基礎:利得・指向性・放射パターンをわかりやすく解説

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アンテナ特性の解説(利得・指向性・放射パターン)

アンテナを理解するうえで避けて通れないのが、その性能をどう評価するかという問題です。
無線通信では、単にアンテナが存在するだけでは不十分で、どの方向に、どれだけ効率よく電波を放射・受信できるかが重要になります。
この性能を表すために用いられるのが、「利得」「指向性」「放射パターン」といったアンテナ特性です。
今回は、アンテナ設計や評価の現場で頻繁に使われるこれらの用語について、意味と考え方を基礎からわかりやすく解説します。

1.アンテナ特性とは何か

アンテナ特性」とは、アンテナが電波をどのように放射・受信するかを定量的・定性的に表した指標の総称です。同じ周波数で動作するアンテナであっても、形状や構造が異なれば、放射の仕方や通信できる範囲は大きく変わります。

アンテナ特性を理解することは、

  • 通信距離を見積もる
  • カバーしたい方向を決める
  • 不要な方向への放射を抑える

といった実務上の判断を行う上で欠かせません。

 

なぜアンテナ特性が重要なのか?

無線通信では、送信電力をむやみに上げることはできません。法規制や消費電力、発熱などの制約があるためです。そのため、限られた電力を「どの方向に、どれだけ集中させるか」が重要になります。
アンテナ特性は、この電力の使い方を可視化するための指標だと考えると分かりやすいでしょう。

 

2.利得とは何か

アンテナ特性の中で、最もよく使われる指標の一つが「利得」です。

 

(1)利得の基本的な考え方

利得」とは、アンテナが特定の方向にどれだけ強く電波を放射・受信できるかを表す指標です。単位はdB(デシベル)で表されます。

よく誤解されますが、利得が高いからといって、アンテナ自体が電力を増幅しているわけではありません。
利得は、電波をある方向に集中させた結果として強く見えることを表しています。
利得は例えるなら、裸電球と懐中電灯の違いに近いものがあります。消費電力が同じでも、裸電球は近くの領域に全方向へまんべんなく照らし、懐中電灯は光を前方に集めることで、遠くまで明るく照らします。

ここでは、利得のイメージをつかむために、全方向に電波を放射するアンテナと、特定方向に電波を集中させるアンテナを例に説明します。

 

利得のイメージ
【図1 利得のイメージ】

 

なお、ここで示している等方性アンテナは、全方向に完全に均一な放射を行う仮想的な(理論上の)アンテナであり、実在するものではありません。実際の装置で用いられる全方向性アンテナは、等方性アンテナに近い放射特性を持つものとして設計されています。

 

(2)基準となるアンテナ

利得は、必ず何かを基準として定義されます。
代表的な基準には次の2つがあります。

  • 等方性アンテナを基準とした利得(dBi)
  • 半波長ダイポールアンテナを基準とした利得(dBd)

等方性アンテナとは、全方向に均一に電波を放射する仮想的なアンテナです。実在はしませんが、比較の基準として用いられます。
またdBiとdBdの関係性(換算式)としては、
dBi = dBd + 2.15
となります。

 

(3)利得が高いことの意味と注意点

利得が高いアンテナは、特定の方向への通信距離を伸ばすことが可能です。
一方で、利得が高くなるほど、放射される方向は限定され、カバー範囲は狭くなる傾向(利得が低いとカバー範囲が広くなる傾向)があります。
したがって、用途に応じて「高利得が良い」「低利得が良い」を使い分ける必要があります。

 

3.指向性という考え方

アンテナ特性を理解するうえで、「利得」と並んで重要なのが「指向性」です。
指向性」は、アンテナがどの方向にどれだけ強く電波を放射・受信するかという方向依存の性質を表します。
アンテナは、すべての方向に同じ強さで電波を放射しているわけではありません。
この「方向による強弱の違い」を把握することが、アンテナ選定や配置を考えるうえでの出発点になります。

 

(1)指向性が意味するもの

指向性とは、単に「向きがある」という意味ではなく、電波エネルギーの分布の仕方を表す概念です。ある方向には強く放射され、別の方向には弱くなるという偏りが、アンテナごとに異なります。これは、電波の送受信の強さが方向によって異なる性質を示しています。

例えば、無線LANルーターのアンテナは、部屋全体を均一にカバーする必要があるため、水平方向に比較的均一な放射特性を持つよう設計されています。一方、基地局間通信や無線中継では、特定方向にだけ通信できればよいため、強い指向性を持つアンテナが用いられます。

 

(2)全方向性アンテナと指向性アンテナの違い

アンテナは、その指向性の強さによって、大きく次の2種類に分類されます。

  • 全方向性アンテナ
    全方向性アンテナは、特定の平面(多くの場合は水平方向)に対して、ほぼ均一に電波を放射し、またむらなく全方向から受信します。
    円筒状の放射パターンを持つことが多く、携帯端末や無線LAN機器など、利用方向が一定でない用途に適しています。
  • 指向性アンテナ
    指向性アンテナは、特定の方向に電波を集中して放射し、特定の方向から受信します。
    八木・宇田アンテナやパラボラアンテナが代表例で、通信距離を伸ばしたい場合や、不要な方向への放射を抑えたい場合に用いられます。

 

指向性のイメージ
【図2 指向性のイメージ(全方向性アンテナ vs 指向性アンテナ)】

 

この違いは、アンテナが「どれだけ広い範囲をカバーするか」と「どれだけ遠くまで届くか」のトレードオフとして捉えることができます。

 

(3)指向性と利得の関係とは?

指向性と利得は、非常に密接に関係しています。
一般に、電波を特定の方向に集中させるほど、その方向における利得は高くなります。ただし、これはエネルギーを増やしているわけではありません。
指向性と利得の関係は、供給する限定された電力を、どの方向に、どれだけ配分するかという考え方を示します。全方向に分散していたエネルギーを、限られた方向に集めているに過ぎません。

この関係を理解しておくと、

  • 「高利得=高性能」とは限らない
  • 用途に応じた利得・指向性の選択が必要

といった判断がしやすくなります。

 

(4)指向性がもたらすメリットとデメリット

指向性があることには、明確なメリットとデメリットがあります。

《メリット》

  • 特定方向への通信距離を伸ばせる
  • 不要な方向への放射を抑えられる
  • 干渉やノイズの影響を受けにくくなる

《デメリット》

  • カバーできる範囲が狭くなる
  • アンテナの向きや設置位置の影響を受けやすい
  • 移動体用途には不向きな場合がある

そのため、屋内通信、固定通信、移動体通信など、用途によって最適な指向性は異なります。

 

(5)指向性は送信だけでなく受信にも関係する

指向性は、送信時だけでなく受信時にも同様に影響します。
アンテナは、強く放射できる方向からの電波を、より効率よく受信します。
この性質により、指向性アンテナを用いることで、特定方向からの信号だけを選択的に受信し、不要な方向からのノイズを抑えることができます。

 
ここまで、アンテナの指向性について、その意味や利得との関係、用途による違いを見てきました。
指向性とは、アンテナが「どの方向に強く、どの方向に弱く電波を放射・受信するか」という性質を言葉で表した概念です。しかし、指向性をより具体的に理解するためには、数値や言葉だけでなく、視覚的に把握することが欠かせません。そこで用いられるのが、次章で解説する「放射パターン」です。

 

4.放射パターンとは何か

上述のように「放射パターン」は、アンテナの指向性を視覚的に表現したものです。「どの方向に強く、どの方向に弱いか」という性質を、図として表すことで、アンテナの特性を直感的に理解できるようになります。

 

(1)放射パターンの基本

放射パターンは、通常、角度を横軸放射強度を縦軸にして描かれます。

放射パターンを見ることで、

  • どの方向が最も強いか
  • どの方向が弱いか

を一目で把握できます。

 

(2)2次元パターンと3次元パターン

放射パターンには、2次元表示と3次元表示があります。
2次元パターンは特定の断面を示したもので、理解しやすい反面、全体像は分かりにくい場合があります。
3次元パターンは、空間全体での放射特性を表しますが、情報量が多く、読み取りには慣れが必要です。

 

放射パターンの表示イメージ
【図3 放射パターンの表示イメージ(2次元と3次元)】

 

(3)主ローブとバックローブ・副ローブ

放射パターンには、パラメータとして最も強い方向を示す「主ローブ」と、反対(後ろ)方向に延びる「バックローブ」や、それ以外の方向に現れる「副ローブ」が存在します。
バックローブや副ローブが大きいと、不要な方向への放射や干渉の原因になることがあります。

 

主ローブ、バックローブ、副ローブ
【図4 主ローブ、バックローブ、副ローブ】

 

5.近傍界・遠方界とアンテナ特性の関係

アンテナの特性評価は主に「遠方界」を前提として行われます
(※近傍界・遠方界については「アンテナとは何か?基本原理と役割を初心者向けに解説」をご参照下さい)

 

(1)なぜ遠方界で評価するのか

近傍界では、電界・磁界が複雑に分布し、方向ごとの放射強度を定義することが困難です。
十分に距離が離れた遠方界では、電界と磁界が一定の関係を保ちながら伝搬するため、利得や放射パターンを明確に定義できます。

 

(2)測定と評価の前提条件

アンテナ特性の測定では、測定距離や環境条件が重要になります。
測定環境としては、電波暗室などが利用されます。大きなアンテナの測定には屋外での測定が用いられます。
また測定に際しては、シグナルジェネレータ(送信側)、スペクトラムアナライザ(受信側)などの測定機器を使用します。
これらの詳細は、後続回で改めて解説しますが、「アンテナ特性は遠方界で評価する」という前提は、ここで押さえておくべき重要なポイントです。

 

6.アンテナ特性をどう使うか

利得・指向性・放射パターンは、単なる数値や図ではありません。
用途に応じてアンテナを選定・設計するための判断材料です。

  • 広いエリアをカバーしたいのか
  • 特定方向だけ通信したいのか
  • 干渉を避けたいのか

これらの要求に応じて、アンテナ特性を読み解くことが求められます。

 

7.まとめと次回予告

本稿では、アンテナ特性の中でも特に重要な「利得」「指向性」「放射パターン」について解説しました。
これらは、アンテナを評価するための共通言語ともいえる存在ですので、しっかりと理解しておきましょう。

次回は、アンテナ特性をさらに定量的に扱うために欠かせない「インピーダンス」「VSWR」「帯域幅」といったパラメータを解説します。
アンテナが「つながる・つながらない」を左右する要素として、非常に重要な回になります。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)

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