3分でわかる技術の超キホン アンテドラッグ/ソフトドラッグとは
目次
アンテドラッグ/ソフトドラッグとは?
アンテドラッグとは、特定の部位でのみ強く作用し、体内に吸収されることで急速に不活性化し、効果を失う薬剤のことをいいます。
アンテドラッグは1982 年にLee&Soliman により提唱され、「不活化する物質」を意味するもので、薬の分子構造に工夫を加えることで製造され、薬の元々持っている副作用の予防を目的としています。ソフトドラッグは1977 年にProf.Bodor によって提唱された「不活性代謝物に単代謝変換する安全性の高い薬物」を指します。
アンテドラッグもソフトドラッグも「副作用のない医薬品」を目指したものであり、アンテドラッグとソフトドラッグは同義で使われることがあります。
アンテドラッグ/ソフトドラッグの実例
(1)ステロイド薬
アンテドラッグの代表的な薬としては、塗り薬としてのステロイド薬が挙げられます。
ステロイド剤は、副腎分泌機能の低下や免疫抑制作用などの重大な副作用のために適用が制限されますが、アンテドラッグステロイドは、ステロイド構造の中に代謝されやすい部位を導入すること等によって、局所の臓器滞留性や薬効の増大、さらに、全身性副作用の軽減が図られることにより、薬の有効性と安全性を期待することができます。
プレドニゾロンを例として挙げます。
≪プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル≫
ヒドロコルチゾンをシード化合物としたもので、A環に二重構造を導入することにより活性を増強させ、さらに、局所作用に対して全身作用が低下することを考慮して、プレドニゾロン酢酸エステルの17位水酸基に吉草酸をエステル結合して、アンテドラッグとしたものです。
(プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル)
アンテドラッグの性格をもつステロイド外用剤には、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン製剤、吉草酸酢酸プレドニゾロン製剤、ジフルプレドナート製剤、プロピオン酸ベクロメタゾン製剤などがあります。
アンテドラッグステロイドは全身性の副作用の軽減に貢献し、ステロイド療法を大きく進歩させたといえます。
(2)メチルフェニデート
構造的には、アンフェタミンに類似し、ピぺリジン環を持つメチルエステル体となっています。
肝臓カルボキシルエステラーゼで加水分解されて、不活性なカルボン酸体となり、半減期2~4 時間で消失するとされています。
安全性の高い医薬品として、小児の注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療に広く臨床応用されています。
(メチルフェニデート)
(3)クレビジピン酪酸エステル(日本未承認)
フェロジピンをリード化合物として設計されました。
カルシウム拮抗薬は安全性も有効性も高いものの、経口投与用に開発されたため、作用時間が長く、用量調整が難しいというデメリットがありました。そこでフェロジピンの側鎖に加水分解されやすい基を導入することにより、短時間作用型としたものです。投与初期の半減期は1 分、消失相の半減期は約15 分となっています。
アンテドラッグ/ソフトドラッグのメリット
アンテドラッグ/ソフトドラッグは、生体内の代謝を利用して、薬理効果・副作用低減をコントロールすることができるというメリットがあります。また、従来欠点のあった薬を、より安全な医薬品に変える可能性も期待されます。
アンテドラッグ/ソフトドラッグの考え方は、今後も安全性の高い医薬品の開発において非常に有効な手段となると考えられます。
なお、アンテドラッグ/ソフトドラッグ同様に、生体内の代謝を利用するものとしては、プロドラッグがありますが、別の機会に取り上げたいと思います。
アンテドラッグ等に関する特許・文献を検索してみると?
(※いずれも2019年5月におけるヒット件数です)
(1)J-Platpatによる特許検索
①全文: アンテドラッグ ソフトドラッグ →161件
発明の効果として、ソフトドラッグ特性を呈する化合物が得られた等の特許が散見されました。
②請求の範囲: クレビジピン →29件
このうちC07分類の中に、クレビジピンの製造方法の特許が見られました。
(2)J-stageによる文献の調査
①全文: アンテドラッグ →50件
「アンテドラッグ/ソフトドラッグのドラッグデザインの実例と展望」「プロドラッグ・アンテドラッグによるDDS創薬」等々の文献が得られました。
②全文: アンテドラッグ 設計 →17件
「エステラーゼを標的とした医薬品設計」「新薬開発への薬剤学的アプローチ」等々の文献が得られました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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