【早わかり電子回路】D-A変換回路とA-D変換回路
「D-A変換回路」はデジタル信号からアナログ信号に変換する回路で、「A-D変換回路」はアナログ信号からデジタル信号に変換する回路です。これらの回路は、現在では、様々なところで使われています。
例えば、CDなどでは、音楽を録音する時は音をマイクで捉え(アナログ信号)、その後、CDに録音し(デジタル信号)、聞く時はスピーカやイヤホンなどで聞きます(アナログ信号)。
この時、必ず、D-A変換回路、A-D変換回路が必要になるのです。
今回は、このD-A変換回路、A-D変換回路について説明します。
1.D-A変換回路
D-A変換回路は、デジタル信号をアナログ信号に変換する回路です。代表的な回路例をご紹介します。
(1)電流加算型D-A変換回路
図1は、電流加算方式と呼ばれるD-A変換回路の回路例です。
【図1 D-A変換回路の回路例】
図1において、抵抗Rが非常に小さい値だとすると、スイッチS0だけがオンの時には、抵抗Rに1mAの電流が流れます。
同様に、スイッチS1がオンの時には、抵抗が1/2なので、電流は、2mA流れます。スイッチS2、スイッチS3では、それぞれ、4mA、8mA流れます。
図2に各スイッチがオン状態の時に、流れる電流値を示します。
【図2 各スイッチがオン状態の時に、流れる電流値】
ここで、複数のスイッチをオンした場合には、抵抗Rには、各スイッチに対応した電流の和が流れます。
したがって、抵抗Rの両端から出力される電圧V0は、スイッチ入力(デジタル信号)に対応したアナログ信号となります。
例えば、1001(S3、S2、S1、S0)というデジタル信号は、S3とS0をオンにするので、8+1=9mAの電流が抵抗Rに流れます。
これは、デジタル信号の1001がアナログ信号の9(10進数)に対応していることを意味します。
このようにして、デジタル信号をアナログ信号に変換することができます。
(2)はしご型D-A変換回路
図3は、はしご型(ラダー型)と呼ばれるD-A変換回路の回路例を示したものです。
【図3 D-A変換回路の回路例】
図3において、抵抗値Rと2Rの抵抗が、はしごのように並べられています。
オペアンプは、電流を流すためのインピーダンス変換用として用いています。出力電圧Eoを出力します。
はしご型抵抗の性質を見てみましょう。
はしご型回路は、図3のA、B、C、Dのどの接続点においても等価的に2Rの抵抗が3方向に接続されているというものです。
例えば、E4、E3、E2、E1の4ビットが0010に設定されているとするとE2入力だけが“1”なので、C点における抵抗の接続状態が分かります。
その状態を順にみていくと、
- まず、E4=0ですのでE4はGNDに接続されているものと見なします。
- A点での2Rの抵抗2つは並列に接続されているためRになります。
- B点からA点方向を見るとRが直列に接続されているため2Rになります。
- 同様にして、E3=0ですのでE3はGNDに接続されているものと見なして、B点での2Rの抵抗は並列に接続されているためRになります。
- C点からB点方向を見るとRが直列に接続されているため2Rになります。
- 同様にして、E1=0ですのでE1はGNDに接続されているものと見なされ、D点での2Rの抵抗は並列に接続されているためRになります。
- C点からD点方向を見るとRが直列に接続されているため2Rになります。
- E2(=1)に電圧Vを加えると、C点に電流 I=V/3Rが流れ、C点でそれぞれ、I/2に分かれます。A,B,D点も同様に見ていくと成り立つことが分かります。
次に、流れる電流についてみていきます。
図4は、E4、E3、E2、E1が0010に設定されている場合の電流Iの様子を示した図です。
【図4 電流Iの様子】
図4において、はしご型抵抗の性質から電流が各接続点で1/2になっていく様子が分かります。
デジタル入力が0010のとき、E2に加えられた電圧Vにより、I=V/3Rなので、
Eo=2R×I/8=2R×(V/3R)/8=(2/24)V
となります。
同様にして、デジタル入力が0001のとき、Eo=(8/24)V、デジタル入力が0100のとき、Eo=(4/24)V、デジタル入力が0100のとき、Eo=(1/24)V、となります。
すなわち、デジタルの値(8、4、2、1)× V/24の関係があることがわかります。
したがって、このはしご型D-A変換回路は、
Eo=(8/24)E4+(4/24)E3+(2/24)E2+(1/24)E1
となり、最後に24を掛ければ、デジタル入力をアナログ出力に変換することができます。
2.A-D変換回路
A-D変換回路は、アナログ信号をデジタル信号に変換する回路です。
アナログ信号をデジタル信号に変換するには、標本化、量子化、符号化という処理を経ることになります。
- 標本化とは、例えば、アナログ信号を短い時間間隔で区切って、それぞれの時間における電圧の大きさを読み取るなど、元のデータからある規則でデータを抽出することです。
- 量子化とは、抽出して得られた値を適当な値に近似(四捨五入など)する操作のことです。
- 符号化とは、量子化したデータを2進数に変換してデジタル信号にする操作のことです。
アナログ信号をデジタル信号に変換する際、アナログ信号に含まれる最大周波数の2倍以上の周波数で信号を標本化(サンプリング)すると、もとのアナログ信号の連続波形を再現できます。これを「標本化定理」といいます。
(1)二重積分型A-D変換回路
電圧-時間変換方式のA-D変換回路には複数の種類がありますが、ここでは、二重積分型A-D変換回路について述べます。電圧-時間変換方式は、精度が高いですが動作は低速です。
図5は、二重積分型A-D変換回路の回路例です。図6は、回路の動作原理を示す図です。
【図5 二重積分型A-D変換回路の回路例】
【図6 二重積分型A-D変換回路の動作原理】
図5において、オペアンプと抵抗RとコンデンサCで積分回路を構成しています。
コンパレータは比較器で、この場合は、電圧ゼロを検出します。
図5、図6を用いて動作原理を見てみましょう。
- スイッチS3をオンにしてコンデンサCを放電し、積分回路をリセットします。
- スイッチS3をオフ、S1をオン、S2をオフにして、入力電圧V1を積分回路に加えます。積分回路からは、入力電圧V1の積分値が出力されます。この時の積分時間を、カウンタを用いて一定にします。例えば、カウンタがN個のクロックパルスをカウントする間の時間だけ積分時間をとるということにします。
- スイッチS1をオフ、S2をオンにして、積分回路にマイナスの基準電圧Vを加えます。すると、積分回路からの出力は、ゼロになるまで一定の傾きで変化します。この時、基準電圧Vを加えてから出力電圧がゼロになるまでの時間を、カウンタでカウントします。例えば、カウンタがn個のクロックパルスをカウントしたとします。コンパレータは、出力電圧がゼロになるのを検知する働きをしています。
- 基準電圧Vを加えたときに出力電圧がゼロまで変化していく場合のグラフの傾きは、基準電圧Vに依存して一定であり、ゼロになるまでの時間(パルス数n)は、入力電圧V1に比例するので、n=N×V1/Vが成り立ちます。したがって、アナログの入力電圧V1をデジタル量のnに変換できたことになります。
- カウンタからの出力nをデコーダによりデジタル値として表示できます。
このように、2通りの積分期間があるので、「二重積分型A-D変換回路」と呼ばれています。また、アナログの入力電圧V1をデジタル量のn(時間)に変換しているので、「電圧-時間変換方式」とも呼ばれます。
(2)並列比較型A-D変換回路
電圧比較方式のA-D変換回路として、並列比較型A-D変換回路を見てみましょう。
電圧比較方式は、高速でA-D変換できる特徴がありますが、回路規模が大きくなってきます。
図7は、並列比較型A-D変換回路の回路と動作を説明する図です。
【図7 並列比較型A-D変換回路の回路と動作】
並列比較型A-D変換回路は、図7のように、主にコンパレータとエンコーダで構成されています。
図7において、基準電圧Vrに対する入力電圧Viを入力すると、エンコーダからデジタル出力が出力されます。
図7のように、基準電圧Vr=8Vとして、入力電圧Vi=5.4Vとします。
基準電圧Vrは、同じ抵抗値の抵抗Rで8つに分割されています。
すると、抵抗によって、1Vから7Vの電圧を作成できます。この作成された電圧と入力電圧ViとをCP0からCP6のコンパレータで比較します。
入力電圧Viの方が大きい場合にコンパレータの出力を“1”となるようにして、その出力をエンコーダに入力すると、デジタル出力が得られます。
この場合は、101(2進数)=5(10進数)となります。
このように、並列比較型A-D変換回路は、入力信号を一斉に比較できるため、非常に高速な変換が可能となります。但し、ビット数が増えると多くのコンパレータが必要となります。
[※関連ページ:コンパレータに関する解説はこちら]
以上、今回はD-A変換回路、A-D変換回路について述べてきましたが、実際には、他に多くの種類のD-A変換回路、A-D変換回路があり、用途に合わせて選ぶことができます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 E・N)