【中国特許分析】ハイシリコン(海思)の特許出願動向は?《中国最大級のファブレス半導体企業》
ハイシリコン社(海思半导体有限公司, HiSilicon Technology Co., Ltd)は、2004年に設立された中国最大級のファブレス半導体企業です。
前身はファーウェイ(華為)の集積回路設計センターで、1991年から集積回路設計・研究開発を始めました。
本部は中国深圳市で、それ以外北京、上海、アメリカのシリコンバレー、スウェーデンにも設計拠点を置いています。
今回は、ハイシリコン社による特許出願の状況についてご紹介します。
[※ハイシリコン社のHP(中国語サイト)より: https://www.hisilicon.com/cn/ ]
目次
1.ハイシリコン(海思)社の概要
ハイシリコン社は、無線ネットワーク、固定ネットワーク、デジタルメディア等の分野用の半導体チップ及びソリューションを提供しています。
現時点では、ハイシリコン(海思)が開発したチップの殆どがファーウェイ(華為)に供給しているようですが、2018年に上海に拠点を設立し、ファーウェイ以外向けの営業活動も行っています。
会社設立以来の10年連続の赤字時期を乗り越え、2014年以後ついに利益を出し、2018年は年間売上75億ドルに、2019年には110億ドルまで増益が続いています。さらに2020年5月には、ハイシリコン(海思)の第1四半期の売り上げが約27億ドルとなり、半導体業界の世界トップ10に入ったようです。
ハイシリコン社の主な製品ラインナップと事業領域
主なチップ製品には、スマートフォン・移動端末用のKirin(麒麟)シリーズ、AIプロセッサ用のAscend(昇騰)シリーズ、ARMベースのクラウドコンピューティングプロセッサ用のKunpeng(鯤鵬)シリーズ、5G通信ベースバンド用のBalong(巴竜)シリーズ、WiFi・ネット接続プロセッサ用のGigahome(凌霄)シリーズなどがあります。
中でも、Kirin960(麒麟960)は、Android Authorityにおいて「2016年度のベストのAndroid携帯プロセッサ」と評価されたこともあります。Kirin960(麒麟960)は、ファーウェイ(華為)スマートフォン「mate9」に搭載されています。ファーウェイ(華為)のスマートフォンでは、Kirin(麒麟)シリーズのチップ以外に、ハイシリコン(海思)が独自開発した電源管理チップである、RFフロントエンド用PA、RFトランシーバー等も搭載されています。
次世代NB-IoT(Narrow Band Internet of Things)チップソリューションのBoudicaシリーズは、高集積度、低消費電力、安全性を誇ります。3つの独自研究開発したCPUを保有し、主周波数は最大80MHzに達します。Baseband、RF transciver、PA、iSIM、PMU、内部メモリを内蔵し、BLE5.0とGNSSに適合し、機器のメンテナンス、近端接続、測位ニーズに対応することができます。
また、スマートビジョンチップ及び部品、スマートIoTチップ及び部品、スマートメディアチップ等の家庭電化製品から、交通/自動車まで、複数分野のインテリジェンス端末に使用するソリューションを提供しています。デジタルメディア分野では、SoCネットワーク監視用チップ、テレビ電話用チップ、DVBチップ、IPTVチップと、それらの関連ソリューションを提供しています。
2.ハイシリコン社の特許出願状況
今回、この注目されているハイシリコン(海思)社の特許出願状況を調査しました。
[使用データベース:incoPat]
検索した結果、ハイシリコン(海思)には、中国特許104件、米国特許16件、PCT特許6件、欧州特許3件の公開公報が検出されました(表1を参照)。意外と少ない印象を受けます。
検索式①:((AP=(海思半导体 OR HISILICON)) OR (AEE=(海思半导体 OR HISILICON))) 検索対象:特許・実用新案 使用DB:incoPat AP/AEE:出願人/譲受人 |
中国(104) アメリカ(16) 世界知的所有権機関(6) 欧州特許庁(3) |
【表1.ハイシリコン(海思)の世界範囲内の特許公開状況及び検索式】
ハイシリコン(海思)の104件の中国特許のうち、有効特許(特許登録されかつ生存している特許)は44件で、審査中特許を含むと合計66件、特許生存率は63%です。
また、特許と実用新案はそれぞれ102件と2件となっています(表2を参照)。
総公開 件数 |
出願種別 | 法律状態 | |||||
特許 | 実用新案 | 有効 | 審査中 | 失効 | 生存率 | ||
2021年3月 現在 |
104 | 102 | 2 | 44 | 22 | 38 | 63% |
【表2.ハイシリコン(海思)の中国特許の出願種類と法律状態(ステータス)】
中国特許の年別公開件数を調べると、2002年から出願が公開されています(図1を参照)。
会社設立自体が2004年であるため、2004年以前の出願は親会社ファーウェイから譲渡されたものです。
2008年と2018年に二つのピークがあり、公開件数はそれぞれ12件と20件です。
また、出願種別は特許が殆どで、実用新案は2002年と2008年に1件ずつだけでした。
【図1.ハイシリコン(海思)の中国特許年別公開状況】
ハイシリコン(海思)の中国特許に関する法律事件についてみると、譲渡/権利者変更が32件ありました(表3を参照)。元々はファーウェイ(華為技術有限会社)の出願で、ハイシリコン(海思)に譲渡されたものがメインです。
それ以外に、他社からハイシリコン(海思)に、ハイシリコン(海思)からファーウェイ(華為技術有限会社)に譲渡したものも一部ありました。
譲渡/権利者変更(32件) | ||
出願人 | 譲受人/変更後 | 件数 |
華為技術有限会社 | 深圳市海思半導体有限公司 | 28 |
泰斗微電子科技有限公司 | 深圳市海思半導体有限公司等 | 3 |
深圳市海思半導体有限公司 | 華為技術有限会社 | 1 |
【表3.ハイシリコン(海思)の中国特許に関する法律事件】
3.ハイシリコン(海思)社の中国特許出願のIPC大分類状況
ハイシリコン(海思)の中国特許によく使われているIPC分類をまとめました(表4を参照)。
デジタル情報の伝送において受信情報中の誤りを検出または防止するための配置に関する分類(H04L1/00)、データ交換ネットワークにおけるパケット交換方式に関する分類(H04L12/56、※H04L12/56がIPC改定で2013年1月にH04L12/70-12/955に移行している)、画像通信におけるクライアントの内部構成部品に関する分類(H04N21/426)などがよく使われています。
ただし、ハイシリコン(海思)の公開件数自体が少ないこともあり、サブグループ単位で集計すると、統計的なバラツキが大きい結果になります。
サブクラス単位で見ると、デジタル情報の伝送(H04L)、無線通信ネットワーク(H04W)、電気的デジタルデータ処理(G06F)、伝送(H04B)、画像通信(H04N)などに特許出願が集中しています。
【表4.ハイシリコン(海思)の中国特許に付与されるIPC分類ランキング】
IPC分類 (一部) |
定義 |
H04L | デジタル情報の伝送,例.電信通信 |
H04L1/00 | 受信情報中の誤りを検出または防止するための配置 |
H04L12/00 | データ交換ネットワーク |
H04L12/54 | ・蓄積交換方式 |
H04L12/56 | ・・パケット交換方式 ※H04L12/56は、IPC改定で2013年1月にH04L12/70-12/955に移行している |
H04W | 無線通信ネットワーク |
H04W52/00 | パワーマネージメント |
H04W52/02 | ・パワーセービング装置 |
H04N | 画像通信,例.テレビジョン |
H04N21/00 | 選択的なコンテンツ配信,例.双方向テレビジョンまたはビデオオンデマンド |
H04N21/40 | ・コンテンツの受信またはコンテンツとの相互作用に特に適合したクライアントの機器,例.STB[セット・トップ・ボックス];それらの操作 |
H04N21/41 | ・・ クライアントの構成;クライアント周辺機器の構成 |
H04N21/426 | ・・・ クライアントの内部構成部品 |
H04B | 伝送 |
H04B7/00 | 無線伝送方式,すなわち放射電磁界を用いるもの |
H04B7/24 | ・ 二つ以上の地点間の通信のためのもの |
H04B7/26 | ・・ 少くとも一つの地点が移動できるもの |
H04J | 多重通信 |
H04J3/00 | 時分割多重化方式 |
H04J3/16 | ・ 一伝送サイクル内の個々のチャンネルに対する時間割り当てが可変であるもの,例.複数の信号の組合せが次々に変ってゆくのを調整するもの,伝送チャンネルの数を変化させるもの |
H04L | デジタル情報の伝送,例.電信通信 |
H04L12/00 | データ交換ネットワーク |
H04L12/02 | H04L12/02 |
H04L12/24 | ・・ 保守または管理のための配置 |
H04L25/00 | ベースバンド方式 |
H04L25/02 | ・ 細部 |
H04L27/00 | 搬送波変調方式 |
H04L27/26 | ・ 多周波符号を用いる方式 |
H03 | 基本電子回路 |
H03M | 符号化,復号化または符号変換一般 |
H03M13/00 | 誤りの検出または誤りの訂正のための符号化,復号化または符号変換;符号理論の基本的仮定;符号化の限界式;誤り確率の評価方法;通信路モデル;符号のシミュレーションまたは試験 |
G06F | 電気的デジタルデータ処理 |
G06F13/00 | メモリ,入力/出力装置または中央処理ユニットの間の情報または他の信号の相互接続または転送 |
G06F13/14 | ・ 相互接続または転送のための接続要求 |
G06F13/16 | ・・ メモリバスに対するアクセスのためのもの |
G06F13/18 | ・・・ 優先制御によるもの |
【表5.IPC分類説明】
4.ハイシリコン(海思)社の技術効果/課題
incoPatのデータベースのキーワード機械検索に基づいて、技術効果ごとに特許公開件数をまとめました(図2を参照)。
複雑性、コスト、効率、スピード、消費電力などの効果/課題に集中しているのが分かります。
もちろん、これはあくまで機械的処理による参考レベルの情報です。
より精確に分析するには、サーチャーが公報を目視で確認して分類付けしていく必要があります。
【図2.技術効果ごとの中国特許公開件数】
5.ファーウェイ(華為)で検索してみる
ファーウェイ(華為)グループ全体はトップ出願ボリュームを有しているのに対して、ハイシリコン(海思)のみの特許出願が極端に少ないと、不安になりますよね?
そこで、ハイシリコンのIPC分類を参照しながら、ファーウェイ(華為)が同じチップ/集積回路分野での中国特許公開状況を簡易的に調べてみました(表5を参照)。
その結果、3千件以上が検出されました。
検索式② | 件数 | |
1. | AP=(“华为公司” OR “华为技术有限公司” OR “HUAWEI TECHNOLOGIES CO., LTD.” OR “深圳华为技术有限公司” OR “深圳市华为技术有限公司” OR “深圳市华为技术软件有限公司” OR “华为软件技术有限公司” OR “HUAWEI TECH” OR “Huawei technologies Co Ltd” OR ・・・(※多かったので省略) | 139,882 |
2. | (IPC=(H04L OR H04W OR G06F OR H04B OR H04N)) AND TIABC= ( 芯片 OR 晶片 OR 集成电路 OR IC OR 集成基板 OR 微电路 OR 微处理器) | 208,713 |
3. | #1 and #2 | 4,527 |
4. | 出願番号合併 | 3,177 |
【表5.ファーウェイ(華為)のチップ/集積回路に関する中国特許・実用新案検索式】
ファーウェイ(華為)のチップ/集積回路に関する年別出願公開件数を見ると、2019年と2020年が特に多くなっており、600件前後の出願が公開されています(図3を参照)。
ハイシリコンの年別公開件数を、遥かに上回っています。
ファーウェイ(華為)が通信機器のトップメーカーとして、4G関連の特許を大量に保有し、電気通信規格の策定にも関わっていることは、ハイシリコン(海思)の急成長とも密接な関係があると考えられます。
チップ製品において、営業面ではハイシリコンとして独立しているようですが、特許面においてはファーウェイグループと明確に分けられていない可能性も考えられます。
そのため、ハイシリコン社の特許調査をする際は、具体的な調査対象技術に応じて、ハイシリコン単独ではなく、ファーウェイ全体を対象範囲に含めて調査することをお勧めします。
【図3.ファーウェイ(華為)のチップ/集積回路に関する中国特許・実用新案年別公開状況】
今回の調査は、中国最大級の半導体ファブレスメーカーであるハイシリコン(海思)社の大まかな特許出願状況を俯瞰することを目的とした、出願人/譲受者を中心とした簡易的な検索による分析結果に過ぎません。より精度の高い特許情報を確認するには、対象分類(改定前のものを含む)と中国語キーワード(技術用語の網羅とシソーラス[類義語]の確認)を十分に検討・選定したうえでの、本格的な検索が必要となります。
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(日本アイアール株式会社 特許調査部 X・W)
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