【センサのお話】水素センサの検出原理・方式を解説!FCV用途に必要な特性とは?
燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle、FCV)では、空気中の酸素とタンクに充填された水素を燃料電池スタックで反応させて発電を行います。
FCVにおける発電システムの制御と、システム外への水素のリーク(漏れ)を検出するために水素センサを用います。ホンダのクラリティでは熱伝導式、トヨタのMIRAIでは接触燃焼式と呼ばれる水素ガス検出方式が適用されています。
今回のコラムでは、水素センサの検出原理とFCV適用のための特性について説明したいと思います。
目次
1.FCVと水素センサ
FCVでは、水素貯蔵タンク、燃料電池、そして全体システムで水素のリークを検出し、その濃度レベルに応じて、リーク水素の排除、ドライバーへの通知・警告、システムのフェイルセーフ制御や動作停止などを行います。
また、FCVを用いる場合には、水素ステーションなどの関連施設においても、水素の漏れをセンサにより検知して対応しなければなりません。
ガス検知センサとしては、家庭用のガスもれや不完全燃焼ガスCOを検知するセンサが低コストで実現されていますが、FCVや水素ステーションでの水素ガス発生を検知する技術には様々なアプローチがあります。
2.水素センサの原理と構成(主な方式)
水素センサにはどのような原理のものがあるのかを、FCVに適用されるものを中心に説明します。
(1)接触燃焼式
水素ガスが、触媒効果を持つ白金PtやパラジウムPdなどと接触して生じる燃焼熱の変化を利用します。
燃焼熱による温度変化を抵抗値変化により検知する場合には、燃焼による温度変化と、雰囲気温度の変化による温度変化とを区別する機構が必要になります。
(2)熱伝導式(気体熱伝導式)
水素ガスの熱伝導度が高いことを利用し、水素ガス量の増加により標準ガス(空気)と検出部ガスの熱伝導度の差が増加することを用います。
(3)半導体式
金属酸化物半導体の表面での、水素ガスの吸着による電気伝導度の変化を利用します。
半導体表面にシリカ膜を形成したセンサは、他のガスが混在する中での水素の検出に優れ、「熱線半導体式センサ」と呼ばれます。
(4)個体電解質式
酸素センサなどでは、基準電極として一定濃度の気体(酸素)を気体電極として使用しますが、個体電解質式水素センサでは、基準電極として個体電極を用い、水素ガスへの感応材料として固体電解質を使用します。
水素ガスは両極の吸着酸素と反応し酸化反応が起こりますが、陽極での酸化反応のほうが陰極より大きく、電圧が発生します。
(5)熱電式
接触燃焼式センサと同じように、触媒反応による温度変化を利用しますが、センサ素子全体の温度変化を抵抗変化として検出するのではなく、素子内部の局部的な温度差の変化を熱・電圧変換(ゼーベック効果)により電圧信号に変換します。
(6)光学式
水素が合金薄膜と反応し、光反射率が変わることを利用します。
(7)金属との反応を利用した方式
パラジウムPdなどの金属が水素を吸蔵した結果、電気抵抗値、重量、体積などが変化することを利用したり、パラジウムPdなどの表面への水素の解離吸着により電場が変化することを利用します。
(8)MEMSを用いる方式
センサ素子をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用い超小型素子とするものです。
ケイ素Si基板上に、温度制御用のヒータや温度センサなどを集積します。
ヒータ制御の状態をモニタできますので、自己故障診断が可能になります。
MEMS容量式では、水素吸蔵金属の体積膨張により電極間距離が変化し、電極間の静電容量が変化することを検知する素子を超小型化します。
(9)その他の方式
さらに、上記以外の水素ガス検出方法として、以下のような様々なものがあります。
- 電気化学式
- 赤外線吸収スペクトル式
- プロトン受容式
- 定電位電界式
- 薄膜サーミスタ式
- 音波式
- 光ファイバー式
- 還元反応検知式
- 弾性表面波式
- 水素透過金属膜式
- Pd系金属ガラス膜式
- MOSFET式
- EMF(Electromotive force、起電力)変化式 など
3.FCV用として水素センサにもとめられる特性
水素センサをFCVシステム用として車両に搭載するには、以下に述べる特性に対して開発を行わなければなりません。
① 水素濃度検知可能範囲
検出された水素ガス濃度によりFCVの制御や通知・警報を変えなければなりませんので、100ppm 以下の低濃度域から1%以上の高濃度域までの検出が必要となります。
② 選択性
他のガスに対して、水素を選択・識別できなければなりません。
③ 高速応答性
水素濃度変化を1~3秒以内程度で検出できなければなりません。
④ 高速起動性
車両始動時やシステム電圧低下後の復帰時において、即座にセンサ機能開始ができなければなりません。
⑤ 動作温度
ヒータでセンサ素子を加熱するセンサでは、250℃などのセンサ素子動作温度が設定されます。
素子の周囲の温度変動によりセンサ出力が大きく変動する場合には、温度変動に対する出力電圧補正を行う必要があります。
⑥ 低消費電力
FCVのような電動車両では、多くの電動部品やセンサを用いるため車両の電費向上のためには、消費電力を1W以下程度に低減しなければなりません。
ヒータを用いるタイプのセンサでは特にヒータ作動のための電力消費を低減することが必要です。
⑦ 機械的強度
車両に搭載される他の部品同様、車両での振動や衝撃に対する機械的強度が必要となります。
⑧ 車両環境耐性
センサ雰囲気の温度(-40℃~125℃)への耐性や、耐水性、耐湿性、耐塵性などが必要となります。触媒方式では、水分や水素以外のガスによる触媒被毒に対する耐性も必要です。
⑨ 自己診断機能
車両搭載センサでは、コントローラで行うセンサの故障診断とともに、センサ自身による自己診断機能が求められる場合があります。
⑩ 搭載性
⑪ 劣化寿命
⑫ 低コスト
水素センサはFCVのキーテクノロジー
国連で決められた国際目標であるSDGs 〈エスディージーズ、Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標〉では、17のグローバル目標を定めています。
そのうちの7番目にあるのが、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保」です。この目標の達成のために、水素社会やFCVは貢献できます。
水素センサ技術は、燃料電池スタックや水素タンクの技術とともに、FCVのキーテクノロジーとして進化・発展していくと思われます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
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