温室効果ガスはCO₂とメタンだけじゃない!N₂O・SF₆の特徴と温暖化への影響

二酸化炭素は温室効果ガスの代名詞であり、その効果はよく知られており、排出量削減に向けた様々な対策が進められています。またメタンも温室効果が高いガスとして知られています。
しかし、温室効果ガスは他にもあります。
本記事では、赤外線吸収という温室効果ガスの基本事項に立ち返って考察すると共に、一酸化二窒素と六フッ化硫黄という温室効果ガスの特性について解説します。
1.大気による赤外線吸収
温室効果ガスの問題を考える上でのキーワードは赤外線です。
地表から放出される赤外線が、大気中のどのガスによりどの程度吸収されるのかが基本になります。
(1)大気中に温室効果ガスが存在しない仮想状態
まず、温室効果ガスが存在しない仮想状態について考察しましょう。
図1は地球の地表を想定して300K(27℃)でのプランクの理論に基づく黒体放射分布を示したものです。
大気が窒素N2および酸素O2と少量のアルゴンArだけの場合には、これらの気体による赤外線の吸収はほとんどないため、図1は温室効果ガスが存在しない仮想状態での地表からの赤外線放射の強度分布だと読み替えることが出来ます。

【図1 温室効果ガス不存在下(仮想状態)での地表からの赤外線放射の強度分布 (27℃での黒体放射分布)】
(2)実際の大気の赤外線強度分布スペクトル
実際の大気の赤外線強度分布は、どうなっているでしょうか?
これについては米国NASAが人工衛星を用いて宇宙空間で実測したデータがあります1)。
図2は、NASAの人工衛星によって観測された、地球から宇宙空間へ放出される赤外線の強度分布です。

【図2 人工衛星で観測された地球からの赤外線強度分布】
図1と比較すると、図2では波長15μm付近が大きく窪んでいることが分かります。
この15μmはCO2ガスが赤外線を吸収する波長です。CO2による赤外線吸収が非常に大きいこと、換言すれば温室効果ガスとしてのCO2の影響の大きさを図2が表しています。
なお9.6μm付近の吸収はオゾンO3によるものです。
このようなガスによる赤外線吸収の違いには、分子構造や分子振動が関係しています。その仕組みについては、関連記事「分子構造と振動のタイプからみた温室効果ガスの働きとは?」で詳しく解説しています。
2.CO₂以外のガスの効果
CO2以外の温室効果ガスとして代表的なものにCH4、N2O、SF6(これ以外にフロン系ガス)があります。これらのA:地球温暖化係数(CO2を1とする相対値)2)、B:平均濃度3)を、CO2の値と共に表1に示します。
【表1 温室効果ガスの効果の比較】
(※表1の地球温暖化係数は、IPCCの評価報告書等に基づく100年間の評価値を使用しています。SF₆については、表1ではAR6公表当時に使用されていた25,200を掲載していますが、4章では2025年の訂正後の数値である23,500を記載しています。)
表1には、各ガスの地球温暖化係数と大気中の平均濃度を示しています。地球温暖化係数は、同じ質量のガスを排出した場合の温暖化への影響を比較する指標です。各ガスによる赤外線吸収範囲は図2中に色帯として示してあります。
なお、表1の「A×B相対比」は、地球温暖化係数と大気中濃度を単純に掛け合わせた値を、CO₂を1として相対的に示した参考値です。実際の温暖化への寄与を示すものではなく、各ガスの温室効果の大きさを正確に比較できる指標ではありませんのでご注意ください。
メタンについてはご存じの方も多いと思います。(※メタンの基礎知識と温暖化への影響については、関連記事「メタン(≒天然ガス)はCO2排出量が少ない化石燃料?地球温暖化係数は?」をご参照ください。)
表1で注目していただきたいのは、N2Oの地球温暖化係数がメタンを大きく上回っている点です。N2Oは、大気中の濃度は低いものの、温暖化への影響が大きいガスです。
SF6の大気中濃度は極めて低いものの、このガスが問題視される理由は後述します。
3.一酸化二窒素 N₂O
N2Oというガスはあまりなじみがないかもしれません。このガスはどこから発生するのでしょうか?
その発生源は複数ありますが、人為的な排出源としては農業生産が大きな割合を占めています。
図3は、アンモニウム塩を含む窒素肥料を土壌中に与えた場合の、脱窒過程によるN₂O発生を中心に示したイメージ図です。

【図3 農業での窒素肥料使用からのN2O発生】
アンモニウムイオンNH4+の一部は農作物に吸収されますが、土壌中の微生物によって硝化され、硝酸イオンNO3–に転化するものもあります。この硝化過程でもN2Oが発生する場合があります。
また、NO3–は作物に吸収される以外に、微生物によってN2Oへ、さらにN2へと変化します。この工程は「脱窒」と呼ばれます。硝化および脱窒の過程で生成されたN2Oの一部は、大気中に放出されます4)。
農作物栽培での窒素肥料使用は作物の増産に有効ですが、N2Oの排出増加を招くという側面もあります。またN2Oの大気寿命は約120年と見積もられており、一度放出されると長期間大気中に残ります。
N2Oの排出対策としては、硝化抑制剤の肥料への添加が進められています。ニトラピリン、DCD、DMPPの3種の硝化抑制剤が有効だと報告されています5)。
4.六フッ化硫黄 SF₆
SF6は化学的に極めて安定なことに加えて、空気の数倍という高い絶縁性能を持ち、さらに電流が遮断される際に発生するアーク放電を瞬時に消す能力が非常に高いガスです。このため、変電所にあるガス絶縁開閉装置や遮断器の内部に封入されており、装置の劇的な小型化・安全化を実現してきました。
SF6は大気中濃度が極めて低いため、現時点での温暖化への寄与は小さいと考えられます。それでもこのガスが警戒されているのは以下の理由によります。
- 1)地球温暖化係数が23,500と極めて高いこと
- 2)大気寿命が約1,000年と著しく長いこと
即ち、大気中のSF6濃度が高まると、温暖化への影響が極めて長期間続くためです。このガスの排出を抑えることは、将来の温暖化を防ぐための重要な対策と言えます。
SF6対策としてはF-ケトンガス(地球温暖化係数が1未満)等の代替ガスの検討が進行中です6)。
皆さんが地球温暖化対策について学ぶ際に、今回の解説がお役に立てば幸いです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) NASAのwebsite, iris-nimbus-4-level-1-radiance-data-v001-irisn4rad-at-ges-disc,
https://data.nasa.gov/dataset/iris-nimbus-4-level-1-radiance-data-v001-irisn4rad-at-ges-disc/resource/05b33def-898c-427e-9ff7-59b806e09b29 - 2) IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書(AR6 / 2021年発表)
- 3) WMO(世界気象機関)『温室効果ガス年報(Greenhouse Gas Bulletin)No.21』(2025年後半発表)
- 4) 山地 憲治 監修, カーボンニュートラル2050アウトルック, 日本電気協会(2022), p280 農耕地・畜産の温室効果ガス削減
- 5) 大林 翼 他, 農耕地土壌における硝化による温室効果ガス一酸化二窒素(N2O)の発生とその対策―硝化制御による N2O 発生抑制剤開発の基盤構築―, 土と微生物77(2)51-60(2023)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssm/77/2/77_51/_pdf/-char/ja - 6) 浦井 一, 電力用開閉装置におけるSF6ガス代替技術の開発動向, 大同大学紀要 58, 1-12(2022)


































