歯車の損傷形態と防止対策|摩耗・ピッチング・折損の原因を解説 [歯車設計の基礎⑤]

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歯車の損傷、原因と対策|歯車はなぜ損傷するのか、どのようにして防止するのか 損傷形態から設計を見直す[歯車設計の基礎⑤]

歯車設計に関する当連載では、第3回で「歯車の強度計算」について、第4回では「歯車の振動・騒音対策」について解説してきました。
歯車は、必要な強度を満たし、振動や騒音にも配慮して設計することが重要です。しかし、実機に組み込まれた歯車は、設計時に想定した条件どおりに運転されるとは限りません
運転中には、歯面の摩耗やピッチング、き裂、折損など、さまざまな形態の損傷が発生することがあります。これらの損傷は、単に歯車自体の強度不足だけで発生するものではありません。潤滑条件、荷重変動、材料選定、支持系の剛性、組立精度など、複数の要因が重なって発生する場合も多くあります。

本記事では、歯車の主な損傷形態を体系的に整理し、発生原因と設計・運用上の防止対策を解説します。

1.歯車の損傷形態

歯車の損傷は大きく分類すると、歯面の摩耗・疲労・変形などとして現れる歯面損傷と、歯そのものが破断する折損の2つに分けることができます。
それぞれの損傷をさまざまな種類に細分化して、主な損傷の形態と原因を簡潔にまとめると下表のようになります。防止対策については2章・3章で解説します。

 

【表1 歯車の主な損傷形態】

大分類 中分類 種類 損傷の形態
歯面損傷(劣化) 摩耗 アブレシブ摩耗 歯面のすべり方向に発生する線状の溝すり傷
過度の摩耗 進行が速く、歯が大きく減肉する現象
干渉摩耗 歯の角と相手歯元面の干渉による擦り減り
スクラッチング 歯面をすきで掘り起こしたような引っかき傷
スコーリング 焼き付きと引き裂きの交互発生による条痕
歯面疲労・腐食 フレッティングコロージョン 接触微振動部に発生。酸化物発生を伴う
電食 歯面の接触放電によって生じるピット
ピッチング 疲労などにより発生する斑点状の剥離痕
変形・き裂 圧痕 異物嚙み込みなどにより歯面に生じるくぼみ
打痕 歯先や歯元に生じる微細な塑性変形
クラック 表面に生じるき裂
折損 過負荷折損 過大荷重による短時間で発生する破壊
歯幅端部の折損 片当たりにより発生する端部の折損
スミア折損 歯面の凝着・剥離を起点として生じる折損
疲労折損 歯元の応力集中部に生じたき裂が進展して起こる破壊

 

2.歯面損傷の種類と防止対策

歯面損傷は、摩耗、歯面疲労・腐食、変形・き裂など、発生要因や損傷の現れ方によっていくつかの種類に分けられます。
ここでは、代表的な歯面損傷の特徴と、防止のために設計・運用上考慮すべきポイントを整理します。

 

(1)摩耗

① アブレシブ摩耗・スクラッチング

アブレシブ摩耗」とは、潤滑油中に含まれる硬質の微粒子や、外部から歯面間に入り込んだ硬い異物によって、歯面が削られる現象です。歯面のすべり方向に沿って筋状の傷が発生するという特徴があります。

スクラッチング」は、アブレシブ摩耗の一種であり、歯面に引っかき傷のような損傷が生じる現象です。

原因としては、ケーシングと回転軸とのすき間に設ける軸封(シール)が不十分であること、潤滑油の清浄度管理が不十分であること、潤滑油フィルタが設置されていないことなどが考えられます。

対策としては、異物の侵入防止と潤滑油の清浄度管理が基本となります。具体的には、十分なシール構造の確保、潤滑油フィルタの設置、潤滑油の定期的な点検・交換などが有効です。そのうえで、硬質異物による損傷を抑える補助的な対策として、歯面硬度の高い材料の採用や、浸炭焼入れなどの表面硬化処理も有効です。

[※関連記事:アブレシブ摩耗、アドヘッシブ摩耗、そして疲労摩耗《トライボロジー用語解説》

 

② 過度の摩耗・干渉摩耗

過度の摩耗は、歯面の強度不足や歯当たり不良による局部的な接触などによって、歯面の摩耗が急速に進行する現象です。摩耗が進むと歯形が変化し、振動や騒音の増大、かみ合い精度の低下につながります。

干渉摩耗は、歯車の歯先や角部が、相手歯車の歯元面などと干渉することによって、歯面や歯元部分が擦り減る摩耗です。

設計面では、次のような対策が挙げられます。

  • 歯数、歯幅、モジュールなどを再検討し、歯面に作用する面圧を低減する
  • 歯面修整やクラウニングにより局部的な歯当たり発生を防止する
  • 強度の高い材料を採用する
  • はすば歯車、まがりばかさ歯車を採用することにより、かみ合い率向上を図る
  • 軸やケーシングの剛性を上げることにより歯当たりを改善する

 

③ スコーリング

スコーリング」とは、潤滑油膜が十分に形成されず、歯面の金属同士が直接接触することで発生する凝着摩耗です。歯面の一部が焼き付き、引き裂かれることで、溶着痕や条痕が現れます。

原因としては、高速運転や高荷重に伴う摩擦熱によって歯面温度が上昇し、潤滑油の粘度が低下することが挙げられます。また、潤滑方式の不適切さや、潤滑油の選定不良によって油膜形成が不十分になる場合もあります。

対策としては、次のようなことが挙げられます。

  • 設計諸元を見直して面圧値が適正範囲に収まるようにする
  • 潤滑方式を改善する(例えば、油浴方式から強制給油方式へ変更する)
  • 運転条件に適した潤滑油粘度を選定する

 

(2)歯面疲労・腐食

① ピッチング

ピッチング」とは、接触荷重が繰り返し作用することによって歯面に疲労が生じ、表面の一部が剥離して斑点状のピットが発生する現象です。

運転開始後すぐに歯面に発生し、その後なじみによって進行が停止するものは、初期ピッチングと呼ばれます。初期ピッチングは必ずしも有害とは限りません。一方、運転を継続しても進行が止まらない進行性ピッチングは、振動や騒音の増大、歯面損傷の拡大につながるため、有害な損傷として扱う必要があります。

なお、歯面疲労や表面層の剥離に関連する用語として、次のようなものがあります。

  • フロスティング: 高荷重で油膜厚さが薄い状況下で生じる微細なピッチング
  • スポーリング: 表面下で材料疲労が発生し、大きな面積にわたり金属片が歯面から脱落
  • ケースクラッシング: 浸炭焼入れなどで形成された表面硬化層が、広い範囲で損傷・剥離する事象

ピッチング防止対策として次のようなことが挙げられます。

  • 表面硬度を上げることにより耐荷重性を向上させる
  • 歯幅、歯数、モジュールなどを見直し、歯面に作用する面圧を低減する
  • 潤滑油の選定や潤滑方法を見直し、十分な油膜を確保する

 

② フレッティングコロージョン

フレッティングコロージョン」は、日本語では「微摺動摩耗腐食」と呼ばれます。接触する2面間で微小な相対すべりが繰り返されることにより、接触部に摩耗粉や酸化物が発生し、表面が損傷する現象です。単に「フレッティング」と呼ばれることもあります。

歯車では、停止中や微小振動を受ける状態で接触部に微小なすべりが生じると、接触面に摩耗粉が発生します。この摩耗粉が酸化して接触表面に堆積すると、摩耗や表面損傷がさらに進行しやすくなります。

フレッティングコロージョンの防止対策としては、次のようなことが挙げられます。

  • 支持系の剛性を向上させることにより微振動接触の発生を抑制する
  • 組立精度や歯当たりを改善し、局部的な接触を避ける
  • 表面改質により、摩耗や表面損傷を低減する
  • 潤滑方法を改善し、接触部の摩耗を抑制する

 

③ 電食

電食」とは、かみ合う歯面間に電位差が生じ、微小な放電によって歯面にピット状の損傷が発生する現象です。特に、電動機で駆動される装置では、軸受や歯車を通じて電流が流れることにより、歯面に電気的な損傷が生じる場合があります。

対策としては、駆動電動機との接続部に絶縁カップリングを採用する、適切にアースをとる、軸電流対策を行うなど、電流が歯車を通じて流れにくい構造とすることが重要です。

 

(3)変形・き裂

① 圧痕

圧痕」は、硬質の異物が歯面に噛み込むことなどにより、局部的に面圧が高くなり、歯面が塑性変形してくぼみが生じる現象です。

対策としては、歯面硬度の高い材料を採用することや、浸炭焼入れなどの表面硬化処理を行うことが挙げられます。また、潤滑油の管理を徹底し、異物の混入を防止することも重要です。

 

② 打痕

打痕」は、歯先、歯元、歯幅端部、または歯面上の特定箇所に、くぼみや突起を伴う微細な塑性変形が生じる現象です。歯当たりが不均一な場合や、変動荷重によって歯面同士が打ち合う場合に発生することがあります。歯に大きな変動荷重が作用し、歯面が互いに打ち合うことを「歯打ち」といいます。打痕は、この歯打ちによって生じることがあります。

対策としては、歯打ちを抑制するために、バックラッシュを適正な範囲に設定することが重要です。また、軸やケーシングの剛性を高め、振動を低減することも有効です。

起動停止頻度が高い場合など、ある程度の変動荷重の発生が避けられない用途では、衝撃係数を適切に見込んで強度計算を行い、歯面強度を高めることも有効です。

 

③ クラック

クラック」は、歯元や歯面の応力集中部に、繰り返し荷重によって微小き裂が発生する現象です。特に歯元に発生した疲労き裂は、そのまま運転を継続すると進展し、疲労折損につながるおそれがあります。

[※関連記事:き裂の進展と応力拡大係数について丁寧に解説

対策としては、応力集中を低減するために、歯元付け根部の形状を適切に設計することが重要です。例えば、歯元付け根部の半径をできるだけ大きくする、転位歯車として設計して歯元が急に細くなる切り下げの発生を避ける、といった形状面での配慮が挙げられます。また、適切な熱処理や表面改質を行うことにより、歯面硬度や疲労強度を向上させることも有効です。

[※関連記事:金属疲労・疲労破壊が発生するメカニズムとその対策

 

3.歯の折損の種類と防止対策

歯の折損は、過大な荷重や繰り返し応力、片当たり、歯面損傷の進展などによって、歯の一部または全体が破断する損傷です。歯面損傷に比べて機械の機能低下に直結しやすく、重大な故障につながるおそれがあります。
ここでは、代表的な折損形態と主な防止対策を整理します。

 

(1)過負荷折損

過負荷折損」は、想定外の衝撃荷重や過大荷重が作用することにより、ごく短時間で歯が破断する現象です。破面は比較的粗く、塑性変形を伴うことがあります。

 

① 歯車設計側で取るべき対策の例

  • 運転条件に適合した衝撃係数を設定し、過負荷や衝撃荷重を考慮した強度計算を行う
  • モジュール、歯幅、歯数、歯形などの設計諸元を見直し、歯元曲げ強度を高める
  • 必要に応じて、より強度の高い材料や適切な熱処理・表面処理を採用する
  • 歯幅を広げる場合は、片当たりが生じないように軸やハウジングの剛性、組立精度、歯当たりもあわせて検討する

 

② 装置側・運用側で取れる対策の例

  • 運用上、急激な回転速度変化や、回転方向の急転換を避ける
  • トルクリミッターを設置して、急激なトルク上昇が歯車に伝達されないようにする

 

(2)歯幅端部折損

歯幅端部折損」は、歯幅方向の端部に荷重が集中し、端部から歯が折損する現象です。平歯車やすぐばかさ歯車で発生しやすく、歯幅方向の片当たりが主な原因となります。

対策としては、クラウニングを施し、歯幅端部への荷重集中を抑えることが有効です。また、軸やハウジングの剛性を高めること、組立精度を確保すること、歯当たりを適切に調整することも、片当たりの抑制に効果があります。

 

(3)スミア折損

スミア折損」は、歯面の局部的な凝着・剥離によって生じた傷を起点として、き裂が進展し、折損に至る現象です。

摩擦熱による歯面の溶着という点では、2.(1)③で説明したスコーリングと類似しています。ただし、スミア折損では、溶着・剥離によって生じた傷がき裂の起点となり、最終的に歯の破断に至る点が異なります。

対策としては、スコーリングと同様に、歯面の直接接触や過度な温度上昇を抑えることが重要です。具体的には、面圧の低減、潤滑方式の改善、運転条件に適した潤滑油粘度の選定などが挙げられます。

 

(4)疲労による折損

疲労折損は、歯元の応力集中部に疲労き裂が発生し、繰り返し応力を受けることでそのき裂が進展し、最終的に歯が破断する現象です。破面には、き裂進展の様子を示すビーチマークやストライエーションが観察されることがあります。

対策としては、2.(3)③で説明したクラックへの対策と同様に、歯元の応力集中を低減することが重要です。歯元形状の適正化、切り下げの回避、材料・熱処理・表面改質の見直しなどにより、歯元の曲げ疲労強度を高めることが有効です。

 

4.まとめ

歯車の損傷は、面圧や曲げ応力といった強度上の問題だけで発生するものではありません。材料や表面処理、製作・組立精度、軸や支持系の剛性、潤滑状態、運転条件など、さまざまな要素が複合的に影響して発生します。そのため、歯車を設計する際には、単に強度計算を行うだけでなく、実際の使用環境や運転条件を踏まえ、発生し得る損傷形態をあらかじめ想定しておくことが重要です。また、損傷が発生した場合には、その損傷が摩耗、歯面疲労、変形、き裂、折損のいずれに該当するのかを把握し、原因に応じた対策を講じる必要があります。

ここまで5回にわたり、歯車設計の基礎について解説してきました。本シリーズが、歯車の設計や、歯車を用いた機械・装置の設計に取り組む際の参考になれば幸いです。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 

【連載:機械設計マスターへの道】歯車設計の基礎シリーズ

 
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