CO2回収技術を徹底比較!吸収/吸着/膜分離による回収方法の原理、CCUSの位置付けを解説
大気中のCO2濃度増加による地球温暖化の問題が深刻化する中で、その解決を目標にCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術)の検討が世界各国で進行中です。
本記事では、CO2排出の現況とCCUSの位置付け、CO2回収方法の各論について解説します。
目次
1.二酸化炭素(CO2)排出の現況
まず大気中のCO2濃度と年間CO2排出に関して、現況を確認しましょう。
【図1 大気中のCO2濃度と年間CO2排出(近年)】
【図2 大気中のCO2濃度と年間CO2排出(産業革命以降の長期)】
図1は1990年以降の近年の、即ち1992年に国連環境開発会議(地球サミット)が開催される等、CO2排出抑制の必要性が世界で意識されるようになって以降のデータです1)。
大気中のCO2濃度は増え続けて2024年時点で420ppmに達しています。年間CO2排出は小さな増減はあるもののほぼ一様に増加し、400億トン/年に迫っています。地球の大気中のCO2総量は現時点で、2万1600億トン(=2.16兆トン)となります。
図2は産業革命以降の長期的視点で大気中のCO2濃度と年間CO2排出が増加していることを示したものです2)。
この長期の増加傾向を、近年CO2排出抑制が叫ばれる中でも地球規模では止められていないのが現実です。
2.「CCUS」とは? 混同しやすい用語と併せて整理
上述の状況で、大気中のCO2濃度低減と年間CO2排出削減を目的に「CCUS」(CO2回収・利用・貯留技術)の検討が進行中です。
この分野には「CCS」や「CCU」等の関連する技術用語も存在し、相互に関連していますが、これらは区別して扱うことが望ましい概念です。その定義を表1に示します。
【表1 CCUS関連用語の定義】
略称 | 正式名称 | 二酸化炭素の処理 |
CC | Carbon dioxide Capture | 回収 |
CCS | Carbon dioxide Capture and Storage | 回収+貯留 |
CCU | Carbon dioxide Capture and Utilization | 回収+有効利用 |
CCUS | Carbon dioxide Capture and , Utilization and Storage | 回収+有効利用+貯留 (CCU+CCS) |
またCCSとCCUについては、①CO2排出源のCO2からと、②大気中のCO2からとを明確に区別することも重要だと考えられます。
図3は、今後50年程度の長期的視点でCCSとCCUが果たすとみられる役割をイメージ化したものです。
【図3 CCSとCCUが果たすとみられる役割】
CO2排出は人類がエネルギーおよび化学原料の供給源として化石原料(石炭・石油・天然ガス)を使用することによって生ずるものです。従ってCO2排出を削減し、さらに究極的にはゼロにするには、化石原料の使用をやめるのが根本的な解決法となります。
即ち、エネルギーおよび化学原料の供給源の役割を、再生可能エネルギーを軸とする非化石エネルギーで100%まかなうことが出来るようになれば、CO2排出をゼロに出来ます。その時にはCO2排出源からのCCSとCCUは不要になります。
CO2排出ゼロが達成されても、大気中のCO2からのCCSとCCUは継続されると考えられます。ただしCCSには緊急避難的な側面があり、永遠に継続されるものではなく、ある時期に歴史的な役割を終了するものと予想されます。
3.CO2回収技術(CC)の概要と回収方法の特徴比較
表2は、CO2排出源からのCO2回収法に関して、主要な方法を比較したものです。
【表2 CO2排出源からの主要なCO2回収法の比較】
分類 | 混合物からのCO2分離法 | CO2脱離法 | 消費 エネルギー |
CO2純度 (相対的) |
|
①吸収 | 化学吸収 | エタノールアミン等のアミン水溶液でCO2吸収 | 高温に加熱して脱離 | 大 | 高 |
物理吸収 | メタノール等のCO2溶解度の高い溶剤で吸収 | 低圧にして脱離 | 大 | 高 | |
②吸着 | 物理吸着 | ゼオライト等の多孔質体にCO2を吸着 | 高温または低圧で脱離 | 大 | 高 |
固体吸収 | 多孔質体に担持したアミンでCO2吸収 | 高温に加熱して脱離 | 小 | 高 | |
③膜分離 | 有機 | 高分子分離膜によるCO2選択的透過 | (脱離不要) | (可変) | 低 |
無機 | ゼオライト膜等によるCO2選択的透過 | (脱離不要) | (可変) | 低 |
ここでは①吸収と②吸着をしっかり区別しましょう。
①吸収では液体を利用し、②吸着では固体を利用するとお考え下さい。
その際、②吸着中の「固体吸収」という表現が紛らわしいと感じられるかもしれません。固体吸収とはシステムとしては固体ではあるものの、ミクロ的には化学吸収の原理を利用しているケースです。
現時点では、大部分のCO2回収法プロジェクトで①吸収が使用されており、今後も使用されると推定されますが、消費エネルギー量が多いのが課題です。②吸着中の固体吸収は、消費エネルギーの低減が可能な次世代技術として研究開発が活発に行われています。
大気からの直接回収(DAC=Direct Air Capture)では少し状況が異なります。
大気中のCO2濃度420ppm(0.042%)にまで高まったことが問題視されているのですが、一方で0.042%という濃度は、火力発電所の排ガスのCO2濃度が10%程度なのと比べれば極めて低い値です。このため、一定量のCO2を回収するのに大量の空気を送風することが必要になり、現状ではCO2排出源からの回収よりもかなり高コストとなります。
従って別法の検討も併せて必要になります。現時点において、大気からの直接回収で有力視されているのは、(1)アルカリ水溶液を用いる吸収法と(2)アミン系の固体吸収法です。
4.吸収法によるCO2回収
吸収法は大規模化への対応が容易であり、CO2回収量100万トン/年規模の装置が既に実用化されています。
吸収法は「化学吸収」と「物理吸収」に大別されます。
(1)化学吸収の原理
吸収の中でも主流の方法であり、アミンの水溶液が使用されています。アミンとCO2間での式(1)または(2)の化学反応を利用しています。
式(1) R2NH + CO2 ⇄ R2NCOO― (カルバメート)+ R2NH2+
式(2)R2NH + CO2 + H2O ⇄ HCO3― (バイカーボネート) + R2NH2+
図4はそのプロセスの概略フローです。CO2と他ガスを含む未精製ガスを、アミン水溶液が上部から流れ落ちる吸収塔(50℃前後に設定)に導入し、アミンとCO2反応物の形成によりCO2を選択的に吸収します。CO2を吸収したアミン水溶液は、アミンとCO2の反応物が分解する温度(110℃前後)に設定された再生塔に送られ、ここでCO2が回収されます。
【図4 化学吸収によるCO2回収プロセス】
(2)物理吸収の原理
物理吸収の方法も有力です。メタノール、ポリエチレングリコール等のCO2との親和性が高い溶剤が使用されています。
図5はその概略フロー図です。化学吸収と似たプロセスですが、ヘンリーの法則(一定量の溶媒に溶ける気体の質量は、その気体の圧力に比例する)を利用している点で異なります。
即ち、CO2と他ガスを含む未精製ガスを、メタノール等の溶剤が上部から流れ落ちる吸収塔に導入する際に、圧力を高く保持します。これにより、CO2を高濃度で溶解することができます。
この高濃度溶液が、低圧に設定された再生塔に送られCO2が分離回収されます。
【図5 物理吸収によるCO2回収プロセス】
化学吸着も物理吸着も完成度の高い技術ですが、①大量のアミン水溶液または溶剤の循環、および ②吸収・再生時の加熱または昇降圧に伴う消費エネルギーの大きさが課題です。
5.吸着法によるCO2回収
吸着法では、液体を使用する吸収法とは異なり、固体吸着剤が使用されます。
(1)物理吸着の原理
物理吸着のプロセスを図6に示します。
吸着・脱着塔を用いて、吸着と脱着の両工程が実施されます。CO2と他ガスを含む未精製ガスを吸着・脱着塔に導入し、CO2を選択的に吸着させます。次に、再生用ガスを吹き込んでCO2を脱着させることにより回収します。同一塔内で吸着と脱着を切り替えて実施するプロセスです。
【図6 物理吸着によるCO2回収プロセス】
物理吸着では吸着剤としてゼオライトが利用されています。ゼオライトのCO2吸着性能には水が共存すると大きく低下するという弱点がありますので、除湿が必要になります。この除湿に大量のエネルギーを要するのが、この方法の課題です。
[※関連記事:3分でわかる ゼオライトの基礎知識|用途・機能・効果など要点解説 ]
(2)固体吸収の原理
「固体吸収」という表現が分かりにくいかもしれません。図7の固体吸収材のイメージ図をご覧ください。
固体吸収は、マクロ的には、固体であるシリカやアルミナ等の多孔質担体を利用した吸着なのですが、ミクロ的には多孔質担体の細孔に担持させたアミンによる化学吸収と言えます。消費エネルギーの大きい化学吸収の改良技術と見ることが出来ます。
固体吸収には次の2つのメリットがあるので、消費エネルギーの低減が期待されています。
- 熱容量の大きい水(比熱4186 J/kg・K)やエタノールアミンアミン(比熱2720J/kg・K)の代わりに比熱の小さい多孔質体(例えばシリカゲルの比熱は920 J/kg・K)を主材として使用することで、蒸発潜熱や顕熱の低減が可能になります。
- 主材である多孔質体の比表面積が大きいので、気液の接触に有利です。このため固体吸収は有望な次世代技術として研究開発が活発に行われています。
【図7 固体吸収材のイメージ図】
6.膜分離法によるCO2回収
膜分離法では、膜による下記2点の分離効果を利用してCO2を回収します。
- 1)細孔径による分子ふるい分離:
ガスの動的分子径はH2:0.29nm、CO2:0.33nm、N2:0.36nm、CH4:0.38nmです。 - 2)CO2と膜材料との親和性による分離:
膜分離法のイメージを図8に示します。この方法には吸収法と比較して純度が劣るというデメリットがあります。
【図8 膜分離法のイメージ図】
分離膜には高分子材料による有機膜とゼオライト等の無機膜の両者がある中で、無機膜には膜コストは高いものの透過性が有機膜よりもはるかに高い(10-100倍)という特徴があります。ゼオライトの中では近年CHA型(細孔径0.38nm)の研究が活発です。
次回は、CCS(CO2の回収と貯留)の基礎知識と主なプロジェクトについて解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 下記データに基づいて作成
・CO2濃度:アメリカ海洋大気庁Global Monitoring Laboratoryホームページ
https://gml.noaa.gov/webdata/ccgg/trends/co2/co2_mm_mlo.txt
・CO2排出:EUのEmissions Database for Global Atmospheric Researchホームページ
https://edgar.jrc.ec.europa.eu/report_2024 - 2) アメリカ海洋大気庁ホームページ
https://www.climate.gov/news-features/understanding-climate/climate-change-atmospheric-carbon-dioxide