3分でわかる技術の超キホン エポキシ樹脂の基礎知識(特徴/合成方法/用途/技術課題)
1.エポキシ樹脂とは
「エポキシ樹脂」とは1分子中に2個以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する化合物の総称です。
図1はそのイメージ図です。
【図1 エポキシ樹脂のイメージ】
エポキシ樹脂では、エポキシ基と反応する官能基を有する化合物(多官能アミン等)を硬化剤に用います。
図2はそのイメージ図です。
【図2 エポキシ樹脂の硬化(イメージ図)】
多官能アミン以外に、多官能フェノールや酸無水物も硬化剤として利用することが出来ます。
エポキシ樹脂の特徴(メリット)
エポキシ樹脂に共通する長所として下記の点を挙げることができます。
- 硬化収縮が小さく、寸法安定性に優れる
- 金属や磁器などに対する接着力が強い
- 電気絶縁性がある
- 機械的強度が強い
エポキシ樹脂の2020年度の国内生産量は約10.8万tに達しています1)。
フェノール樹脂とともに、熱硬化性樹脂を代表する樹脂と言えます。
2.エポキシ樹脂の合成法
エポキシ樹脂の合成法は、エポキシ基を樹脂本体に導入する手法により、図3に示す2法に大別されます。
- A:グリシジル基を樹脂中に置換反応で導入
工業的にはこの方法が主流です。水酸基等の官能基を有する化合物(通常は2個以上のフェノール基有する化合物)とエピクロロヒドリンを反応させます。塩素が不純物として含まれるのが欠点です。 - B:樹脂脂中の二重結合を酸化
酸化には過酸化水素等の過酸が使用されます。副生物の処理が面倒のため工業的には不利ですが、塩素が含まれないという利点があります。
【図3 エポキシ樹脂の合成法】
合成に用いるフェノール(ビスフェノールAなど)
A:グリシジル基導入法で使用する2個以上のフェノール基を有する化合物として代表的なものはビスフェノールAです。全エポキシ樹脂の70%はこのビスフェノールAを用いたものとされています。
その合成法を図4に示します。
【図4 代表的なエポキシ樹脂(ビスフェノールA型)の合成法】
同じビスフェノールA型であっても、図4におけるnの値により樹脂分子中のエポキシ基の含量が異なり、硬化物の架橋密度も変化します。
そこで、エポキシ基1当量あたりのエポキシ樹脂の重量である「エポキシ当量」(単位g/eq)が、用途に応じた適切な架橋密度を得るための指標として使用されています。
ビスフェノールA以外でエポキシ樹脂の合成に利用されている主なフェノールと、そのフェノールへの変更により得られる利点を表1に示します。
【表1 特殊エポキシ樹脂(ビスフェノールAを他のフェノール化合物に変更)】
3.エポキシ硬化物の用途
エポキシ樹脂の硬化物は、前述の長所を活かして、下記の幅広い分野で使用されています。
- 塗料
- 接着剤
- 成型・注型材料
- 積層板(ガラス繊維との複合化)
- 炭素繊維との複合材料
これら用途の詳細については近刊の成書をご参照ください2)。
4.エポキシ樹脂の課題はリサイクル?
エポキシ樹脂にも課題があります。
他の熱硬化性樹脂と同様に、可塑性樹脂に比べてリサイクルが困難な点です。
環境意識の高まりに伴い、エポキシ樹脂においても経済的で有効なリサイクル法の開発が求められています。
その中で国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)から図5に示すエポキシ樹脂リサイクルシステムが報告されています3)。
このシステムでは、下記の手法が用いられました。
- 1) 分子内にジスルフィド(S-S)結合を含んだエポキシ樹脂を用意する
- 2)通常どおり硬化させる
- 3)硬化物にチオール(S-H)結合を有する化合物を加え、ジスルフィドとチオールとの交換反応により硬化物を分解する
- 4)ジスルフィド結合の再生により、硬化物を得る
【図5 NIMSによるエポキシ樹脂リサイクルシステム ※引用3)】
リサイクルによる硬化物の架橋密度の低下が懸念されます。
しかし図6に示すように、1回目と2回目のリサイクルで溶剤膨潤度の増加は僅かであり、架橋密度はほぼ維持されていたと報告されています。
【図6 リサイクルによる膨潤度の変化 ※引用3)】
エポキシ樹脂の分野では、今後、特性を活かした用途開発と並行してリサイクル技術の開発も進むと予想されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編 2020年
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/gaiyo/resourceData/02_kagaku/nenpo/h2dbb2020k.pdf - 2) エポキシ樹脂の設計技術と市場2022, シーエムシー出版(2022)
- 3) Hsing-Ying Tsai etc, Environmentally friendly recycling system for epoxy resin with dynamic covalent bonding, Science and Technology of Advanced Materials 22(1), 532-542(2021)
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14686996.2021.1897480