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2024/12/3(火)9:30~16:30
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今回は自動車の企画設計あるいはコンセプト設計について、”UX“(ユーザーエクスペリエンス)という切り口から考えてみたいと思います。
目次
UX(User Experience、ユーザーエクスペリエンス)は、ユーザーが製品やシステムを体験した際の感覚や感情などを良いものにすることです。
道具の例で言えば、「使いやすかった」、あるいは「使って楽しかった」というような感覚や感情です。
道具の機能・性能自体に対して、UXは道具を使うユーザーに与えるフィーリングです。
車で言えば、移動(走る・曲がる・止まる)は機能ですが、「〇〇感」と呼ばれるような特性はUXです。
また車のカタログで言えば、性能諸元表に記載してあるような内容ではなく、うたい文句的な文章で説明がなされているような内容です。
ただ一般的にUXデザインで討議されているように、道具のUXの最終ゴールは、その道具に対するユーザー満足度向上です。車のUXの最終ゴールでも、ユーザーが使用体験を通して感じる満足度を向上するということになります。
今回のコラムでメインに取り上げている「〇〇感」と呼ばれるような特性を向上することはその一部です。
車を使用した時に良い感覚や感情を得たいというのはユーザーのニーズですから、これに関係する要素を改良したり、新規に加えることは、自動車におけるUX関連のニーズへの対応開発となります。
車の仕様変更や新コンセプトにより、いかに付加価値や競争力を高めるかを考える場合には、まずは図1に示すような自動車全体に対するニーズの領域を考え、対象とする車に最低限必要とされるもの(あるいは積極的に絞り込むもの)、進化させるもの、そして新たに加えるものを考えます。
【図1 車に対するニーズ】
これらのニーズ領域において、全体顧客満足度ではなく、細かいUXに焦点を置いて考えてみましょう。
図1の中で、特に「〇〇感」と「・・・をするのに便利」に関係する領域を示したものが図2の赤枠です。
【図2 車のUX領域】
「〇〇感」の方は、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)に関係します。
例やアイデアを挙げると、次のようになります。
様々な感覚が複合して生じる感情には、例として以下のような要素があります。
「利便性・娯楽性」のニーズへの対応に関しては、操作性を向上することが含まれます。
車では各種操作部やタッチパネルが含まれます。レイアウトデザインやタッチパネルであれば、分かりやすく、少ないアクションで目標情報やエンターテインメントにたどりつけることが求められます。音声指示やゼスチャ指示でも、簡単で間違いなく、少ない指示で目標にたどり着けるかが評価基準になります。
このような要素はUXの一部として、UI(User Interface、ユーザーインタフェース)とも呼ばれます。
車内での居住性や操作性では、運転席やその他のシートに座り、長時間に色々なものを操作することを考えると、操作時の姿勢変化による体への負荷を軽減する必要があり、エルゴノミクス(人間工学)的に合理的な考えやアイデアも有効です。例えば座り心地が良く、疲れないシートです。
利便性では、シーン(一連の状況や場面)を考えることにより、アイデアが生じます。
例えば、リモコンキーを所持するユーザーが車の後ろで、車体の下に足に差し入れると、リアゲート(トランク)が開口するという機構は、両手で荷物を持って一度おろさずに荷物を入れられるので便利です。
便利感と機能がオッバーラップする例では、AC100V電源やUSB端子の装備があります。
飲み物ホルダーや小物入れでは、「有って便利」に加え、位置やデザインにより使い心地を良くするということが求められます。
UXはユーザーの主観的な印象に基づいています。
これは、良い悪いがユーザーの主観により決まることを意味します。
音や振動は、NVH(Noise, Vibration, Harshness / 騒音、振動、不快感)としてまとめられ、自動車の開発においては、低減していかなければならないものとされています。
一方、実用的な目的ではなく、楽しむため、あるいは趣味・趣向性の面から求められる音や振動があります。
二輪車では、特に趣味性の高いバイクで、「鼓動」と呼ばれ、音や振動を楽しむという考えがあります。
音は感受性により、ノイズにもサウンド(メロディー)にもなります。
趣向性より、音を肯定的にあらわす言葉として以下があります。
UX開発では、その達成度評価が重要なプロセスの一つです。
感応評価は、そのための重要な手法です。
音の分野では、悪い方の音については、周波数分析に加え感応評価が用いられてきましたが、良い音に対しても適用されることなります。
音の感応評価の例として、レーティングなどにより感応評価結果の数値化を行い、複数評価者の結果の平均値や最低値に対して、設定された目標達成基準値と比較するという方法があります。
電子デバイスを用いて、車の音を人工的に生成するというものがあります。
軽の電気自動車が、スポーツカーのような音を出して走ったら楽しいですね。
現在実用化されている電子デバイスによる合成音の例は、スポーツ指向の車で、モードを切替えた時にベースの排気音に人工音を加え、より迫力のある音を運転席で楽しめるというものです。
これまで自動車には、段階的に導入された騒音規制があり、音源であるエンジン音やタイヤ音などの低減が行われてきましたが、騒音の小さくなった電動車では、逆に付加価値のある音を加えるということができます。この場合の音は、「ノイズではなくサウンドです」ということになりますね。
自然の音では、潮騒、小鳥のさえずり、小川のせせらぎなどが、心地よく人気のある音とされています。「感応的に良い音」を創るには、人間の「心地よさ」という感覚のメカニズムに対する理解を深めていくことが求められると思います。過去の感応評価結果をAIに学習させて、生成AIで新しい音を創作させるという手法もあるでしょうか。
ちなみに、EVなどモータ走行のできる車では、歩行者、特に目の不自由な方に接近危険性を音で伝えるために、車両接近通報装置(AVAS :Acoustic Vehicle Alerting System)の装着が義務付けられています。
工場で用いる電動フォークリフトなどでは、走行音としてメロディーを発生するものもありますが、一般の道路では、適用が難しそうです。聞いて不快ではなく、警戒感を起こさせる音(音量、音質)が求められます。
UX的価値の向上のための開発は、現在ある多様なシーン(一連の状況や場面)を分析して、「使いにくい」「使ってそれほど楽しくない」という負の部分を見つけ改良することに加え、今は無い、使いやすく、使って楽しいものを新たに考えることも重要です。
例えばキャンプシーンを考えた、車の付属装備も含めたアイデアは既に色々と出されています。
アイデアとして、プロジェクタで車の天井に車の停車位置で見える星の説明を映すというのも楽しいですね。
新しいUX要素の発見には、潜在的ニーズ(needs)を発見することとともに、車とは異なる分野のシーズ(seeds, 種、ネタ)を車に適用できないかという切り口も役立ちます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)