3分でわかる技術の超キホン 二酸化チタンの光散乱特性は?その用途と粒子径の制御について解説

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二酸化チタン:その光散乱特性の利用

二酸化チタン(TiO2)は光触媒として注目されていますが、本稿ではこの材料の光散乱および光吸収に焦点をあてて解説します。
 

1.二酸化チタンの特性

二酸化チタンにはルチル型アナターゼ型の2種類があり、厳密には両者を区別して個別に議論することが望ましいのですが、本稿の考察への影響は小さいので、ここではまとめて扱います。

図1は二酸化チタンを含む金属酸化物およびその他の材料の屈折率を比較したものです1)
二酸化チタンの屈折率は2.49であり、金属酸化物の中で最も高い値を有しています。ダイヤモンドの2.41をもしのぐ高い屈折率が二酸化チタンの特徴です。同じ金属酸化物でも二酸化ケイ素SiO2の屈折率が1.46と低いのとは対照的です。

 

各種材料の屈折率の比較
【図1 各種材料の屈折率の比較】

 

二酸化チタンフィルムの紫外可視光吸収スペクトルを、二酸化ケイ素のものと共に図2に示します2)
二酸化チタンは波長400nm以上の可視領域に吸収が無いだけでなく、UV-Aでの吸収も僅かわずかであることが分かります。一方UV-Bでは二酸化ケイ素とは異なり強い吸収を示しています。

 

二酸化チタンの紫外可視光吸収スペクトル
【図2 二酸化チタンの紫外可視光吸収スペクトル】

 

2.粒子による光散乱

図3のように媒体中に粒子が分散している状況では、光散乱が、粒子の屈折率をn1、媒体の屈折率をn2とした時の屈折率比n1/n2の上昇と共に増加することが知られています。

 

媒体中の粒子による光散乱
【図3 媒体中の粒子による光散乱】

 

散乱の大きさを表す光散乱係数Sが、光の波長λと粒子径Dとの相対的な関係に応じて、図4にように変化することも知られています3)
粒子径Dと波長λが近い時に起こるMie散乱において光散乱係数Sが高くなります。Dがλの約1/2の時にSが極大値を持ちます。
またDがλよりもはるかに小さい状況で起こるRayleigh散乱ではSはDの6乗に比例しますので、Dの低下に伴いSは急激に減少します。

 

粒子径Dと波長λと相対関係が光散乱係数Sに及ぼす影響
【図4 粒子径Dと波長λと相対関係が光散乱係数Sに及ぼす影響】

 

以上述べた知見を踏まえて、二酸化チタンの利用(光触媒分野は除く)の現状を考察してみましょう。

 

3.二酸化チタンの用途(A):白色顔料

二酸化チタンの最大の用途は白色顔料です。
日本酸化チタン工業会によれば、二酸化チタンは白色顔料として全世界で年間700万t以上生産・消費されており、日本国内では年間約18万t生産され、このうち国内出荷量は約12万tとなっています4)
図5は国内出荷量の内訳を示したものです。塗料やインキを中心に幅広い分野で使用されています。

2.49という非常に高い屈折率を有し、可視光領域に吸収を持たない二酸化チタンの特性がこの背景にあることはご理解いただけると思います。
では、白色顔料として利用する際の粒子径はどの範囲にあるでしょうか?

粒子径Dが波長λの約1/2の時に光散乱係数Sが極大となると、先に述べました。
散乱を最大化して白色度を高めるためには、Dを可視光の波長400-780nmの半分程度にすればよいはずです。
実際、白色顔料用の二酸化チタンの粒子径は200-300nmの範囲にあります。

 

二酸化チタンの用途別国内出荷量(2021年)
【図5 二酸化チタンの用途別国内出荷量(2021年)】

 

 

4.二酸化チタンの用途(B):化粧品分野での紫外線散乱剤

二酸化チタンは化粧品の紫外線散乱剤としても使用されています。

その際には、白色顔料として使用する場合とは異なり、可視光の散乱は極力抑えて可視光を透過させることによって高い透明性を保つ必要があります。その一方で有害な紫外線(UV-AおよびUV-B)は散乱と吸収によりしっかりブロックすることが求められます。
そのためには粒子径をどう制御すべきでしょうか?

図4をご確認ください。
可視光を散乱させずに透過させるには二酸化チタンの粒子径を可視光の波長よりもずっと小さくすれば良いことになります。粒子径を小さくするほど、可視光の透明性は高まるはずです。
しかし、一定以下になると可視光だけでなくUV-Aも一部透過させることになります。
このため、UV-B防御と透明性を重視するケースでは20nm程度が適しており、UV-A防御を重視するケースでは透明性は低下しますが70-90nmが適しているとされています5)

 
以上、二酸化チタンの特性とその利用についてご紹介しました。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

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