3分でわかる技術の超キホン テトロドトキシンとは
テトロドトキシンとは?
ご存じのフグ毒です。
「河豚は食いたし命は惜しし」と言われますが、たった2~3mgで人を死に至らしめます。
当たれば死ぬことから、別名「テッポウ」とも言われておりますね。
今もって解毒剤のない大変恐ろしい毒です。
でも、学問的にはなかなか興味深いものがあり、特に日本人が大きく関わっているのです。
テトロドトキシンの概要
一般にフグの産卵期 (冬~春) の卵巣や肝臓に多く含まれています。その名の通り、テトロドトキシンは、フグの学名である“Tetraodontidae”と「毒」を表す“Toxin”から由来していると言われています。
白色柱状晶で分解点は 249℃、水溶性で、pH 4~5くらいで最も安定であり、アルカリに弱い性質です。
テトロドトキシンは、フグ科の魚類だけでなく、ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、バイ、ヒトデ、スベスベマンジュウガニ等の海洋生物のほか、イモリやカエルなどの両生類からも発見されています。
ふぐ毒は、ふぐの種類や臓器の種類、漁獲海域によっても毒力が異なる場合があるとされています。
毒性について
毒性 LD50(ip) : 10μg/kg
テトロドトキシンは青酸カリの500から1000倍の毒性を示す猛毒であり、耐熱性があるため、通常の加熱調理では壊れません。人間の致死量は、2から3ミリグラムといわれています。
ふぐ中毒の経過は、非常に早く、食べてから死亡するまでの致死時間は、通常は4~6時間で、最も短い事例で、1時間半という致死時間が報告されています。
テトロドトキシンを摂取すると、正常な神経伝達ができなくなり、筋肉が麻痺します。口や舌のしびれから、嘔吐、運動麻痺、そして呼吸麻痺が起こり死に至ります。
治療法について
解毒剤はありません。
口舌のしびれ程度であれば、催吐を行い、テトロドトキシンを体外に出します。死因は呼吸麻痺ですので、人工呼吸を早めに行えば助かる可能性もあります。血圧低下にはドーパミンの投与が有効な場合があります。
ふぐ毒化
ふぐがなぜ毒化するかについては、まだよく分かっていません。
テトロドトキシンは、属性的にはアルカロイドで、ふぐが体内で作っているわけではないのです。
海洋細菌のいくつかの種類に、テトロドトキシン産生が認められており、最終的にこれらの細菌をふぐが摂取することにより毒を蓄積すると考えられていますが、実証はされていません。何故フグだけが多量の毒を持っているのかも不明とされています。
食物連鎖の追跡(トレーサー実験)を研究されている方もおられるようです。
日本におけるフグ毒の研究
日本人はフグ料理が好きです。そのためフグ毒の研究は、日本で古くから行われていました。1909年に東京帝国大学・田原先生によりフグ毒が単離され、テトロドトキシンと命名されました。1964年には名古屋大学・平田先生らによってフグ毒の化学構造を明らかにするなど日本が世界をリードする形で進んできました。そして合成化学でも・・・
[化学構造式]
全合成
1960年代から多くの研究者がフグ毒の全合成に挑戦していますが、フグ毒の合成は、失敗の連続でした。ノーベル化学賞を受賞した米国ハーバード大学のウッドワード教授(天然物合成の世界的権威として知られる超有名な先生です)がフグ毒合成にチャレンジしてギブアップしたことは、この分野では有名な話です。「最も合成が難しい化合物の一つだ」とも言われています。
その中で・・・
(1)1972年に名古屋大学の岸義人先生が全合成に成功したのが世界で最初の成功例でした。
(2)2003年名古屋大学の磯部・西川先生が行った全合成は、30年ぶり2度目の成功でした。岸先生とは全く違う合成法で、混合物ではないフグが持っているフグ毒だけを選択的に合成する「不斉合成」という手法を用いたものです。
このように、フグ毒の研究は、日本人研究者の活躍が目覚ましい分野のひとつなのです。
テトロドトキシンに関する文献を検索してみると
2018年8月の段階で、文献データベース”J-GLOBAL”で「テトロドトキシン」で調べると、文献がなんと4181件もヒットしました。別名や同義語を含めて検索すると5321件でした。
全合成や不斉合成の文献が多いようです。
なお、日本特許庁の特許データベース”J-PlatPat”で、「テトロドトキシン」の特許を調べてみると、全文検索では955件、請求範囲に限定すると72件ヒットしました。
医薬医療分野の特許分類(IPC分類)である「A61K」が付与されている特許が目立ちます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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