3分でわかる技術の超キホン 超分子とは?「自己組織化」の主な例を紹介
分子の一つ一つは特に機能しないものの、弱い分子間相互作用によって自ら集まって安定的な構造体を与え、特異な機能を示す化学物質があります。
その構造体を「超分子」(supramolecular)と呼び、自ら集合することを「自己組織化」と呼ばれます。
1.超分子の研究
超分子化学における先駆的な業績が認められ、1987年に以下3名の化学者がノーベル化学賞を授与しました。
- Charles John Pedersen:「有機の王冠」クラウンエーテル(crown ether)化合物の発見
- Jean-Marie Lehn:クリプタンド(cryptand)化合物の発見と超分子の概念の提唱
- Donald James Cram:ホストーゲスト化学の先駆者
[図1.クラウンエーテル、クリプタンド類化合物の例]
クラウンエーテル及びその後のクリプタンド類化合物には「ポケット」のような空間ができ、内側に位置する酸素原子に非共有電子対があるため、サイズに合った金属カチオンと錯形成して、安定な錯体が構築されます。この錯形成の過程は、金属カチオンの捕捉とも理解できます。
例えば、金属塩は、普通は有機溶媒に溶けませんが、空間のサイズが合うクラウンエーテルあるいは更に立体的なクリプタンドが存在すると、金属カチオンが捕捉されて、多くの有機溶媒に溶けるようになります。
空間のサイズによって、ポケットに内包できる分子(イオン)が限られるため、相手の分子の「情報」を認識できることにより「ホスト-ゲスト化学」が確立されます。
これらの性質を利用することで、触媒を使う有機合成やイオン分離などの場面に応用することができます。
超分子の更なる研究による有名な開発例として、人工酵素やドラッグデリバリー・システム(DDS)等が挙げられます。
2.主な自己組織化の相互作用
普通の有機化合物は強い共有結合でできていますが、超分子の空間構成に関わる力は、金属配位結合、静電荷作用、水素結合、π(n)π-スタッキングと疎水性作用などの弱い分子間相互作用です。
主な自己組織化の例として、以下のものが挙げられます。
(1)静電的相互作用
「静電的相互作用」とは、双極子間相互作用を含め、静電的及び電気の偏りから生じた双極子の間の相互作用です。
(2)ファンデアワールス相互作用
「ファンデアワールス相互作用」は、中性分子や原子の間に働く引力で、共有結合に比べてとかなり弱い結合ですが、大きい分子ほど結合・凝集力は強くなります。
(3)金属配位結合
「金属配位結合」は、金属とアニオンの配位による生じた比較的強い結合です。自己組織化の有力な方法の一つです。
最外殻の電子軌道にはd軌道の遷移金属が多く使われ、生じる結合には方向性があるため、分子設計により、幾何学的に整った構造を持つ超分子組成体をつくることができます。
また、遷移金属に特有な電子、光、磁気活性を示す可能性があり、分子エレクトロニクス材料への応用に見込みがあります。
(4)水素結合
X-H…Y(X,Y=N, O, S, F, Cl等):電気陰性度の高い原子と共有結合する水素原子は電気陰性度が低くなり、その近くに孤立電子対を持つN, O, S, F, Cl等の原子が存在すると、超分子の自己組織化における重要な役割を果たす水素結合ができます。
例えば、DNAの二重らせん構造は、水素結合とπ-πスタッキングにより形成されます。
[図2.分子間水素結合による自己組織化]
(5)芳香環スタッキング
芳香族化合物は堅固な平面構造を有するため、面と面が重なるface-to-face型と、構造と交互に積み重なるherringbone型がよく見られます。
いずれも、π-πスタッキング相互作用が大きく寄与します。
[図3.face-to-face型とherringbone型]
(6)疎水作用
ひも状の有機分子の片側には疎水性と親水性部分がそれぞれ導入され、両親媒性分子となります。
これらの分子は水の中で自ら集まり、疎水部が内側、親水部が外側となった球状の構造になり、ミセルが形成されます。
油性の汚れをミセルの内側に内包して洗浄力を高めるといった界面活性剤への応用などが多く見られます。
[図4.疎水作用を駆動力とする自己組織化]
以上、今回は「超分子」の基礎知識を簡単にご紹介しました。
相互作用は複数を組み合わせ超分子構造を実現できる場合が多く、また分子設計による微調整やコントロールも可能なため、新たな超分子開発における有力な手段となります。
次回は、自己組織化で何ができるのか、具体的な利用分野について解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)