3分でわかる技術の超キホン イネいもち病への対策(農薬/品種改良)
別コラム「イネいもち病の概要と感染メカニズム」で、いもち病の病原菌の生態や感染のメカニズムについてご紹介しましたが、今回はいもち病に対抗する手段である農薬・殺菌剤、品種改良などについて簡単にまとめてみましょう。
いもち病と農薬
いもち病には農薬が使用されます。最近は、予防と防除の両面において薬剤使用が中心となっています。
予防としては植物病害抵抗性誘導剤(プラントディフェンスアクティベーター)が、防除としては殺菌剤が主流となっています。
植物病害抵抗性誘導剤(プラントディフェンスアクティベーター)
植物病害抵抗性誘導剤とは、植物の防御システムを活性化することのできる薬剤です。作用の特徴からは「予防剤」に分類されます。即効性は期待できませんが、長期間に渡って効果が持続するという特徴があります。
植物病害抵抗性誘導剤は、病原菌への直接的な抗菌作用を示さず、寄主植物(イネ)に全身獲得抵抗性(systemic acquired re-sistance,SAR)を与えることで病害の発生を防除する薬剤です。
植物病害抵抗性誘導剤の機能は、植物を病原菌の侵入を撃退できる状態(プライミング状態)にします。
具体的には、処理された植物の感染特異的タンパク質(PR-タンパク質)を活性化し、それらをコードする遺伝子のmRNA増幅惹起などの植物の各種抵抗性反応を誘導することが知られています。
イネいもち病に対する植物病害抵抗性誘導剤として、プロベナゾール、イソチアニル、アシベンゾラル-S-メチルなどの薬剤が挙げられます。
殺菌剤
イネのいもち病を防除する方法は、1930年代頃から行われ、種籾をホルマリンで消毒する方法などが用いられていました。
第二次大戦後は有機水銀剤がよく使われましたが、1960年代に水俣病の原因が有機水銀(別種)であることなどから危険性が指摘され使用禁止となり、代わりブラストサイジンやカスガマイシンなどの抗生物質が見いだされ用いられるようになりました。
また1950年代にはジチオカーバメート系、1960年代にはアゾール系やベンズイミダゾール系など多くの病害に有効な薬剤が開発され、最近でもQoI剤など新しいものが開発されています。
主に用いられている殺菌剤としては、下記が挙げられます。
- 種子消毒剤
イプコナゾール
- 育苗箱施薬剤
イソチアニル、イソチアニル、プロベナゾール
- 本田防除剤
トリシクラゾール、ピロキロン、フェリムゾン
耐性菌の問題
近年では広く用いられている殺菌剤に対して抵抗性を持つ耐性菌が相次いで発見されており、問題となっています。
2001年に初めてMBI-D剤に対する耐性菌の出現が報告され、いまでは日本全国で確認されています。また2013年にはでストロビルリン系剤に対する耐性菌の出現が報告され他県でも確認されています。
薬剤耐性獲得のメカニズムについては、ストロビルリン系剤耐性菌については遺伝子変異が確認されており、塩水選および種子消毒の徹底や、系統の異なる薬剤(殺菌剤)の使用が推奨されています。
イネの品種改良
農薬に頼らない方法として、イネの品種改良も行われています。
すなわち、いもち病に強く、かつ良食味である品種の研究が進められています。
「ちゅらひかり(奥羽366号)」、コシヒカリBL、「中部125号」などが発表されています。
最近の研究では、いもち病菌から感染の鍵となる遺伝子「RBF1」(アールビーエフワン)が発見され、RBF1遺伝子の働きを阻害する物質が見つかれば、新たないもち病防除方法の開発につながることが期待されています。
また、いもち病にかかりにくくするためには、イネの病害抵抗性を高める遺伝子が作るタンパク質をリン酸化してやる必要があることがこれまでの研究で分かっており、低温でもリン酸化を阻害する酵素が作れないイネを作ることに取り組まれています。・・等々いもち病の研究が進められています。
いもち病の対策技術について特許・文献を調査してみると?
(※いずれも2018年6月時点における検索結果です)
文献調査
JSTの化学文献データベース「J-GLOBAL」で検索すると・・・
- キーワード:いもち病 農薬 ⇒文献698件、特許45件
特許調査
特許庁のデータベース「J-Platpat」で日本特許を検索すると・・・
- 請求の範囲:いもち病
- 請求の範囲:遺伝子 ゲノム 耐病性
⇒(両キーワードのand演算)44件
いもち病抵抗性遺伝子に関する特許が検出されました。
- (病害*抵抗+ディフェンス*アクティベーター)/AB
⇒256件
「植物病害抵抗性誘導剤」「プラントアクティベーター」等に関する特許が検出されました。
- いもち病/AB*(抗菌剤+殺菌剤)/AB
⇒626件
「農園芸用殺菌剤組成物」等に関する特許が検出されました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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