【早わかりポンプ】容積形ポンプの基礎知識(種類別の原理・構造・特徴)
連載第1回「ポンプの基本原理と分類」の中で、ポンプの分類として、ターボ形ポンプの他に、容積形ポンプ、その他の形式のポンプがあるということを書きました。
今回は、「容積形ポンプ」(容積型ポンプ、容積式ポンプ)について見ていくことにします。
目次
1.容積形ポンプとは?
「ターボ形ポンプ」は、羽根車が作り出す遠心力や揚力を利用して、流体にエネルギーを与えます。
これに対して「容積形ポンプ」は、流体を吸い込んで一定の空間に閉じ込め、空間体積の減少による圧縮作用により流体にエネルギーを与えるもので、「排除形ポンプ」とも呼ばれます。
エネルギー伝達の過程において流れを伴わないのが容積型ポンプの特徴です。
2.容積形ポンプの用途
「ターボ形ポンプ」は、吐出し量・全揚程の広い範囲をカバーしており、液体を扱うほとんどの用途に適用することが可能です。
一方、「容積形ポンプ」は主にターボ形ポンプが苦手としている特殊な用途で活躍しています。
その用途としては、次のようなものがあります。
(1)小流量・高圧力
小流量、高揚程になるとターボ形ポンプの比速度Nsが小さくなります。
Nsが100(m3/min,m,min-1)より小さくなると効率が低下して不利となります。
このような領域では容積形ポンプが適用されます。
また吐出し圧力が100MPaを超えるような超高圧(極小水量)の用途にも容積形ポンプが適しています。
(2)定量吐出し(Metering Pump)
薬液注入など、プロセスに一定量の液体を正確に送りたい場合に、容積形ポンプが適しています。
(3)高粘度液の移送
粘度が高くなると、ターボ形ポンプの効率、揚程が低下してきます。
動粘度が増大してレイノルズ数Reが2000~1000以下になると効率低下が著しく、ターボ形ポンプの適用は困難となり、容積形ポンプが適用されます。
3.容積形ポンプの特性
ターボ形ポンプの場合は、横軸に流量Q、縦軸に全揚程HをとったQHカーブで特性を表します。
これに対して、容積形ポンプの特性は、横軸に圧力、縦軸に流量をとって表しますので、ターボ形ポンプとは、横軸・縦軸の変数が入れ替わる形となります。
容積形は、圧力変化に対して流量の変動が極めて少ない特性を持っています。
定量吐出し用途に適用することができるのはこの特性のためです。
また、吐出し管を全閉して運転すると、吐出し圧力が無制限に上昇して、ケーシングや配管が破損したり、原動機が過負荷になったりします。
したがって、容積形ポンプの設置に際しては、安全弁などの過負荷防止装置が必要になります。
往復形のピストンポンプと回転形のベーンポンプには、吐出し量一定の定容量形と、吐出し量を変えることのできる可変容量形があります。
定容量形で流量を変えたい場合は、回転数を変化させるか、あるいはバイパスにより不要な流量を逃がすことにより調整します。
4.容積形ポンプの分類・種類
容積形ポンプは、往復形と回転形に大きく分類され、往復形・回転形各形式ポンプには次のような種類のものがあります。
5.各種容積形ポンプの概要(原理・仕組み・構造・特徴)
(1)ピストンポンプ・プランジャポンプ
吸込み弁と吐出し弁を備えたシリンダ内を、「ピストン」または「プランジャ」が往復動して液を移送するポンプです。
ロッドが短く、受圧面積に対する摺動面積比が小さいものを「ピストン」と呼び、低圧用途に使用します。
また、ロッドが長く、受圧面積に対する摺動面積比が大きいものを「プランジャ」と呼び、高圧用途に使用します。
これらはクランク機構を用いて、駆動機の回転を往復運動に変換します。
「単動単ピストン」「復動単ピストン」「3連単動プランジャ」などの種類があります。
往復ポンプでは、流体はピストンまたはプランジャの押し込み行程中のみ吐き出され、引き抜き行程中は流量がゼロとなります。このため、圧力脈動が発生します。
複動、3連とシリンダ数が多くなれば緩和されますが、配管系に悪影響を及ぼすので、脈動低減のためにアキュムレータ(畜圧器)を設置します。
ロッド直径をD[m],行程(ストローク)をL[m],往復数をN[1/s] とすれば、ロッドとシリンダのすき間からの漏れが無いとしたときの理論吐出し量Qthは、
Qth=πD2LN/4[m3/s]
となります。
(2)ベーンポンプ
ケーシング内に偏心状態で置かれたロータを持ち、ロータには半径方向または若干傾いた方向に、数枚~10数枚程度の溝が等間隔に設けられて、羽根板(ベーン)が挿入されます。偏心状態のためにベーンは、ロータ回転につれて溝内を出入りします。
吸込み口で隣り合うベーンの間の空間に流入した流体は、ベーンとケーシングで囲まれた空間に閉じ込められて圧力が上昇し、ロータの回転に伴い、吐出し口から送り出されます。
ベーンは溝内部のばねの作用、あるいは溝底に吐出し圧を導入することによりケーシング内面に押し付けられて摺動すき間からの漏れを低減させます。
(3)歯車ポンプ(ギアポンプ)
1対の歯車がかみ合いながら回転して、吸い込み口から歯と歯の間の空間に流入した流体が、歯とケーシング内周面で囲まれる空間に閉じ込められて圧力が上昇し、吐出し口から送り出されます。
歯先円直径をD2,歯底円直径をD1,歯幅をB、回転速度をNとすれば、歯先とケーシングのすき間からの漏れが無いとしたときの理論吐出し量Qthは、
Qth=π(D22-D12)BN/4
となります。
(4)スクリュウポンプ(スクリューポンプ)
軸方向に細長い螺旋状のねじが切られた1対のロータが、ケーシング内部で互いにかみ合いながら回転して流体を移送する2軸(駆動ねじ1従動ねじ1)・3軸(駆動ねじ1従動ねじ2)スクリュウポンプは、ねじの回転に伴って、閉じ込め空間が軸方向へ移動して吸込み・吐出しを繰り返します。
ステータ内面が螺旋状のめねじ、ロータが螺旋状のおねじになっていて、ロータを回転すると、ロータとステータの間の空間体積が一定のまま吸込み側から吐出し側へ流体を移送する1軸スクリュウポンプは、ロータ形状が蛇に似ていることから「スネークポンプ」と呼ばれます。
スネークポンプは、他のポンプでは扱うことが困難な、高粘度の流体移送に使われます。
(5)可変容量形ポンプ
① 斜板・斜軸形プランジャポンプ
回転軸を中心に、数本のプランジャを配置して、左図のようにプランジャと連結する円板を回転軸に対して傾ける(斜板)か、右図のようにプランジャの軸を回転軸に対して傾ける(斜軸)構造として、傾き角度αを変化させることにより、プランジャの工程(ストローク)を変えて同一回転速度における吐出し量を可変とすることが可能です。
傾き角度αがゼロのときプランジャは往復動をしなくなるので、吐出し量ゼロとなります。
また傾き方向を変えることにより、吸込み・吐出しの方向を逆とすることができます。
② 可変容量ベーンポンプ
ケーシング(カムリング)を移動させることによりロータの偏心量を変えて、流量を最大からゼロ(偏心なし)まで連続的に変化させることが可能です。
可変容量形ポンプを用いることにより、インバータなどの回転速度変化手段を導入することなく、負荷に応じて吐出し量を調整することが可能となるので、設備投資を抑えつつ省エネルギー化を図ることができます。
国内統計によれば、容積形ポンプは、ターボ形ポンプに比較すると、生産金額では約半分です。
しかし、生産台数はほぼ同等となっていて、極小流量・超高圧、定量吐出し、高粘度液移送、などの用途を中心に活躍しています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)