ラジカル重合の概要をわかりやすく解説!特徴/素反応/重合速度/主なモノマーなど

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ラジカル重合

本記事では、付加重合(ラジカル重合・カチオン重合・アニオン重合の3形式)中の「ラジカル重合」について、その概要を解説します。

(※付加重合の基礎知識については「高分子重合の種類(分類)と付加重合の概要」をご参照ください。)

1.ラジカル重合とは?《ラジカル重合の特徴》

ラジカル重合は、開始反応・成長反応・停止反応・連鎖移動の4つの素反応からなる点は他の付加重合同様ですが、ラジカルの反応であるため、他の付加重合にはない下記の特徴があります。

 

(1)酸素阻害を受ける

酸素分子はそれ自体がビラジカルであるため、重合の活性点であるラジカル部位と酸素との反応(式1-1)の速度が、モノマーとの反応(式1-2)の速度を上回ります。
したがって、重合原料中に酸素が存在すると重合が阻害されます。この酸素阻害はラジカル重合の弱点と言えます。

ラジカル部位と酸素との反応、モノマーとの反応

 

(2)水分の影響を受けない

ラジカルは、カチオンやアニオンとは異なり、水の影響を受けませんので、ラジカル重合は原料中に水分が存在しても問題なく実施可能です。この点は実用的に重要です。
ラジカル重合には乳化重合や懸濁重合のプロセスでも実施できるという利点があります。

 

(3)開裂で発生するラジカルが反応の起点

ラジカル反応は(式1-3)で例示したように、開始剤の開裂によって発生するラジカルが反応の起点になります。一つの開裂によって通常2個のラジカルが発生します。

ラジカル反応

 

(4)ラジカル同士の反応で停止

ラジカルは、再結合反応(式1-4)または不均化反応(式1-5)により、即ちラジカル同士の反応によって消失することが知られています。

再結合反応、不均化反応

 

2.ラジカル重合の素反応

1.(3)と1.(4)の事項を踏まえて、ラジカル重合の素反応は表1のように表されます。

1)開始反応は下記の2段階となります。
 1-1)開始剤が開裂した開始剤ラジカルを生成する反応
 1-2)開始剤ラジカルがモノマーに付加する反応
2)成長反応が重合の鍵を握っています。モノマーの大部分はこの段階で反応します。
3)停止反応は、再結合と不均化の両方があり、どちらも一つの反応で2つの成長ラジカルが消費されます。

 

【表1 ラジカル重合の素反応】
ラジカル重合の素反応

 

3.ラジカル重合の重合速度(反応速度)

ここでラジカル重合の速度、換言すればモノマーの消費速度を考察します。
表2は、表1の素反応を数学的処理がしやすいように書き改め、速度式を記載したものです。
記号の意味は下欄の記載をご参照ください。

 

【表2 ラジカル重合の素反応と速度式】

素反応とその速度式
1) 開始反応 1-1)I2 → 2I・
1-2)I・ + M → P1
Ri=2kdf [I2]
RP1=ki [I・] [M]
2) 成長反応 Pn・ + M → Pn+1 Rp=kp [P・] [M]
3) 停止反応 Pn・ + Pm・ → Pn+m
Pn・ + Pm・ → Pn+Pm
 

Rt=2kt [P・]2

4) 連鎖移動 Pn・ + T1-T2 → Pn-T1 +T2 Rct=kct [P・][T1-T2]

《記号等》

I2 : 開始剤、 [I2 ] : 開始剤の濃度、 I・ : 開始剤ラジカル、 [I・] : 開始剤ラジカルの濃度
R:Rate=反応速度、 i:initiation=開始、 Ri:開始剤由来のラジカル生成速度
k:反応速度定数、 d:dissociation=解離,開裂、 kd : 開始剤の開裂反応の反応速度定数
f:生成したラジカルが働く効率、 
M :モノマー、 [M] :モノマー濃度
P1・:モノマー連結1個のポリマーラジカル、 RP1:モノマー連結1個のポリマーラジカルの生成速度
ki:モノマー連結1個のポリマーラジカルの生成速度定数
Pn・:モノマー連結n個のポリマーラジカル、 Pn+1・:モノマー連結n+1個のポリマーラジカル
p :propagation=成長、 Rp :成長反応の速度、 kp :成長反応の速度定数
P・ :ポリマーラジカルの合計量、 [P・] :ポリマーラジカルの合計量の濃度
Pm・:モノマー連結m個のポリマーラジカル、 Pn+m:モノマー連結n+m個のポリマー(停止) 
Pn :モノマー連結n個のポリマー(停止)、 Pm :モノマー連結m個のポリマー(停止) 
t :termination=停止、 Rt :停止反応の速度、 kt :停止反応の速度定数
T1-T2 :連鎖移動剤、 [T1-T2] :連鎖移動剤の濃度
Pn-T1:モノマー連結n個のポリマー末端にT1が結合(停止)、 T2・:連鎖移動剤由来のラジカル
ct :chain transfer =連鎖移動、 Rct :連鎖移動の速度、 kct :連鎖移動の速度定数

表2の速度式においては、ポリマーラジカルの反応性は連結しているモノマーの数に依存せず一定であるという仮定を置き、ポリマーラジカルの合計量の濃度を[P・]と表している点にご留意下さい。

モノマーが消費される反応に関わる速度式は

  • 開始反応の RP1=ki [I・] [M] と
  • 成長反応の Rp=kp [P・] [M] の2つがありますが、

Rp >> RP1 であることが知られています。

よって、成長反応Rp=kp [P・] [M] のみで重合速度が表現できるとして進めます。

 
このRp=kp [P・] [M]をより理解しやすい形に書き換えるために、以下の仮定をさらに加えます。

  • 仮定1):連鎖移動反応は、この反応により生成するT2・による再開始反応が十分速いため
    全体の重合速度に影響を与えない。
  • 仮定2):重合中は定常状態にあり、[P・]は一定である。

仮定2)から Ri=Rt 即ち 2kdf [I2]=2kt [P・]2となります。
よって
[P・]=(kdf/kt )0.5[I2]0.5  と表されますので、これをRpの式の[P・]に代入すると
Rp=kp(kdf/kt )0.5[I2]0.5 [M]  (式3-1)
となります。

この(式3-1)で重合速度が表現されることになります。
実際に多くのラジカル重合において、重合速度をこの式で説明できることが確認されています。

 

4.主なラジカル重合モノマーとその特徴

ここで代表的なラジカル重合のモノマーの成長速度定数kpを見てみましょう。
各モノマーを30℃において単独重合した際のkpを、kp= Aexp[-EA/RT] のアウレニウス式で表した際の A:頻度因子、EA:活性化エネルギー と共に表3に示します1)

 

【表3 代表的なラジカル重合モノマーの成長速度定数1)

モノマー ラジカル重合の成長反応 重合性
kp (30℃)
(Lmol-1s-1)
A ×107
(Lmol-1s-1)
EA
(kJmol-1)
ラジカル カチオン アニオン
エチレン
CH2=CH2
16 1.88 34.3 × ×
ブタジエン
CH2=CHーCH=CH2
57 8.05 35.7
スチレン
CH2=CHC6H5
106 4.3 32.5
メタクリロニトリル
CH2=C(CH3)C≡N
20 0.27 29.7 ×
クロロプレン
CH2=CClーCH=CH2
500 2.0 26.6
メチルメタクリレート
CH2=C(CH3)COOCH3
390 0.19 22.9 ×
酢酸ビニル
CH2=CHOCOCH3
4000 1.3 20.5 ×
メチルアクリレート
CH2=CHCOOCH3
15000 1.6 17.4 ×

表3からエチレンのkpが相対的に小さいことが分かります。エチレンは最も単純な構造のモノマーであってポリエチレンは主要ポリマーの一つですが、常温常圧の温和な条件下では、ラジカル重合はほとんど進行しません。ラジカル重合でポリマーを得るためには高圧の反応条件が必要になります。

これに対してメチルメタクリレート、酢酸ビニル、メチルアクリレートは高いkpを有しています。
また、メチルメタクリレートやメチルアクリレートのような共役系に分類されるモノマーには、成長ラジカルが安定なため、連鎖移動反応が起きにくいという特徴があることも知られています2)。このため分子量の高い(長鎖の)ポリマーを得るのが容易です。

 

以上、今回はラジカル重合の概要について解説しました。

次回の連載では、ラジカル重合における開始剤・禁止剤の種類と構造をご説明します。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1) S. Beuermann etc, Rate coefficients of free-radical polymerization deduced from pulsed laser experiments, Progress in Polymer Science 27(2), 191-254(2002)
  • 2) 遠藤剛ら, 高分子の合成(上), 講談社(2010)

 

 

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