3分でわかる フェノール合成法の基礎知識|なぜクメン法が主流なのか?

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フェノール合成の基礎知識

フェノール(C6H5OH)は重要な基礎化学品であり、フェノール樹脂の原料等として幅広い分野で利用されています。(※フェノール樹脂の基礎知識についての解説記事はこちら)

本記事ではフェノールの合成法について解説します。

1.代表的なフェノール合成法はどれ?

フェノールの原料は通常はベンゼンです。
ベンゼンとフェノールについては、ご存じの方も多いと思いますが、両者を比較したものを表1に示します。

 

【表1 ベンゼンとフェノール】
ベンゼンとフェノール

 

ここで、読者の皆さんに質問します。
図1に示したフェノールの各種合成法をご覧ください。

 

ベンゼンからのフェノール合成法
【図1 ベンゼンからのフェノール合成法】

 

現在の代表的な(工業的に実施されている)ベンゼンからのフェノール合成法は図1中のABCのどれでしょうか?
両者の差は酸素原子Oの有無のみであるため、ベンゼンを酸化すれば簡単にフェノールが合成できるように思えます。ではA法かB法なのでしょうか?

正解はC法です。
A法とB法は酸化により一段階でフェノールを得る方法であり、「直接法」と呼ばれます。
これに対しC法はクメンという中間体を経て3段階で合成する間接法であり、「クメン法」と呼ばれています。この名に聞き覚えのある方もいるかもしれません。
クメン法は3段階になることに加えて、アセトンの副生を伴うという課題もあります。
それにもかかわらず工業的に採用されているのはなぜでしょうか?
それは、直接法が見た目ほど易しくはなく、難題を抱えているからです。

 

2.フェノールの直接合成はなぜ難しいのか?

ベンゼンからのフェノール直接合成が難しい理由は下記の2点に集約されます。

 

(1)ベンゼン環が極めて高い安定性を持つこと

ベンゼンは炭素原子のsp2混成軌道が6個環状に結合し、π電子が環状に非局在化した非常に安定な構造を有しています。この安定性のため、ベンゼンのC-H結合は強く(その結合エネルギーは460〜470 kJ/molで、エタンの約410 kJ/molよりも大きい)、単純な酸化では反応しにくいという問題があります。また反応しても、過酷な酸化条件では選択的な水酸化ではなく、環開裂などの副反応が起こりやすくなります。

 

(2)OH基の電子供与性により過剰反応が起こること

酸化によりフェノールが一旦生成した状態を想定してみましょう。
フェノールのOH基は電子供与性を持ちますので、原料のベンゼンよりも反応性がはるかに高くなります。
従って、酸化条件下ではフェノールの状態に留まらずに、2個のOHを有するカテコール等にまで更に酸化されてしまうことも起こります。選択的にフェノールのみを生産する上での障害となります。

 

3.クメン法が優れている点

直接法の上述の問題点を回避できるのがクメン法です。クメン法については優れた解説が多数ありますので、クメン法の全体像を学びたい方はそちらをご参照ください1),2),3)
本記事では、クメン法の特長が顕著に発揮されている3段階目の分解反応に焦点を当てます。

図2はクメンヒドロパーオキシドの分解反応(C1からC7へ)の反応機構を示したものです。この中のC3→C4→C5の部分が「フェニル転位」と呼ばれる、クメン法の核心部分です1)
ベンゼン環の直接酸化は受けずに、フェニル基が転移するという経路を経て、酸素がベンゼン環に導入されることが分かります。ベンゼンのC-H結合の切断は起こさずに、温和な条件でフェノールが得られます。
また、この段階は酸化反応ではないため、生成したフェノールが更に酸化されにくいという利点があります。

これらの利点があるため、クメン法が採用されています。すなわち、ベンゼンの直接酸化という困難な課題を回避しつつ、選択的に酸素を導入できる点がクメン法の本質的な優位性です。

 

クメン法におけるクメンヒドロパーオキシドの分解反応の機構
【図2 クメン法におけるクメンヒドロパーオキシドの分解反応の機構】

 

4.直接法でフェノールの工業生産を目指した研究開発

一方で、直接法によるフェノールの工業生産は化学者の夢でもあります。
直接法の研究開発は以前から活発に行われてきました。

直接法の中にN2O(亜酸化窒素)を用いる方法があります。
Feを導入したZSM-5というゼオライトが触媒として使用されます。反応式を図3に示します。

 

N2Oを用いる直接法
【図3 N2Oを用いる直接法】

 

この方法は高度に制御された酸化法であり、副生成物がN2のみのクリーンな方法でもあるため、理想的な直接法と評価されたこともありました。
しかし工業化には至っていません。N2Oが高価であること、触媒が失活しやすいことが理由とされています。

直接法の研究開発は現在も世界中で継続されています4)
その中から画期的な技術が生まれて、クメン法が支配する現況を一変させる可能性もありますので、今後の進展に期待しましょう。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


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