3分でわかる技術の超キホン ワンポット合成(One-pot synthesis)とは?
目次
1.ワンポット合成法(one-pot synthesis)とは?
「ワンポット合成法」(one-pot synthesis)とは、反応物を一気にあるいは順次に反応容器に入れて、複数のステップを連続的に反応させる化学反応法です。この方法は、後処理と中間化合物の精製過程が不要なため、時間や溶媒などを節約することが可能で、効率の向上に繋がることから、広く支持されています。
よく見かけるのは金属試薬(反応剤、触媒)が精密合成の選択性を制御することです。例えば、有機反応においては、立体選択性などを精密に制御して目的物を得るために、段階的な方法が多く用いられます。図1のように、出発物質Aと反応剤Dから反応性の高い中間体へと変換した後、副生物を取り除いて、物質Bと反応させ、目的生成物を得るといった方法です。
この方法の問題点としては、(1)中間体の単離操作、(2)各段階で溶媒のロス等の浪費、が挙げられます。特に、中間体の反応性が高すぎて安定的に存在できない場合は、目的物収率の低下に繋がります。
これに対してワンポット合成は、全て(化合物A,Bと反応剤C)を混ぜただけで目的生成物を精密に合成することができ、エネルギー消費を最小限に抑えることが可能です。
しかし、その選択性が難しいポイントとなります。なぜなら、Aのみと反応してBとは反応しないなどの都合の良い反応剤はなかなか存在しないからです。
多段階ワンポット合成を達成する鍵は「官能基に対する反応順次を制御選択する」能力をもつ反応剤や触媒を開発することです。
【図1 ワンポット合成のイメージ図】
2.ワンポット合成法の具体例
①アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成
まず、有機フッ素医農薬中間体のワンポット合成法を例として説明します。
2015年に東京工業大学の小池隆司氏のグループは、フォトレドックス触媒の触媒作用を活用して、求電子的トリフルオロメチル化剤と内部アセチレン類から、立体選択的なトリフルオロメチルアルケニルトリフラートの合成に成功しました。この反応の特徴は、導入されるトリフルオロメチル基とトリフラート基が、トランス付加型の生成物を高い選択性で得られることです。得られた生成物を中間体として、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を適用することで、四置換トリフルオロメチルアルケンを立体選択的に合成することが可能となります。
この反応は、フォトレドックス触媒反応後、中間体を精製せずに、同じ反応容器内にパラジウム触媒とカップリング剤を加えるワンポットで合成することができました。(図2)
【図2(*) アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成】
(*)出典:東京工業大学HP「ワンポットの短工程で有機フッ素医農薬中間体を合成―アセチレン類からの立体選択的な合成に成功―」からの引用
②アルキル置換ベンゼンの合成
α-アニオンを環状エノンと反応させ、続いて塩化ベンゾイル、t-ブトキシドカリウムと反応させたところ、アルキル置換芳香族化合物が得られました。
【図3 アルキル置換ベンゼンのワンポット合成法】
このプロセスでは、素反応をワンポットで連続して行うことにより、中間体を単離精製する際の物質損失を最小限に抑え、高い収率で目的生成物を得ることに成功しました。
③Shotgun Processのワンポット合成法
アルデヒド、アルファ、ベーター不飽和エステル、ヒドロキシルの3つの反応点を持つ基質に対して、Sc(OTf)3 触媒の存在下、アリル化、Diels-Alder 反応、アセチル化を同時に行ったところ、3種類の反応がスムーズに進行し、単一生成物を得ることに成功しました(図4)。
【図4 Shotgun Processのワンポット合成法】
④アセチレンのワンポット合成法
スルホンのアニオンとアルデヒドとのアルドール型反応生成物を求電子剤でトラップして、塩基を加えることによりアセチレンの簡便なワンポット合成ができます(図5)。
【図5 アセチレンのワンポット合成法】
なお、複数の反応点を持つ基質を化学変換する場合に、「保護・脱保護」という方法論が古くから利用されてきました。もし複数の反応を同時に進行させることができれば、より一層簡略化されるプロセスとなります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)