3分でわかる技術の超キホン 微細藻類とは?特長や研究課題など要点解説

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再び注目を浴びる「微細藻類」今後の課題について解説

原油価格高騰や地球温暖化により、微細藻類(Microalgae or microphytes)に関する研究が再燃しています。

微細藻類」とは、「植物プランクトン」とも呼ばれ、大きさが1mmから1μm程度の藻類です。

この記事では、微細藻類が日の目を見るようになってからそれなりの年数が経った今、研究開発を進めていくうえでの方向性についてその課題を解説します。

1.微細藻類の特長

なぜ微細藻類が注目されるかというと、以下の特長を持っているからです。
 

(1)生産効率が高い

例えば、夏場に池が緑色に濁ることがあります。これは微細藻類の増殖によるものです。
微細藻類は、水温、窒素、リンなどの肥料成分、太陽光の条件があえばすぐに増殖します。
植物の中でも微細藻類は増殖速度が速く、生産効率が高いといえます。

 

(2)農地と競合せずに培養可能

微細藻類を培養するには土地が必要ですが、その土地は農地として利用できないところでも問題ありません。

植物を育てる農業において水は不可欠で、かつては、日照りで不作になったり、農業用の水利権を争ったりするようなことがありましたが、微細藻類は低水深、低流速、低投入エネルギーで培養できます。

アメリカで開発された微細藻類の培養槽は、アリゾナの砂漠地帯でも培養可能なように、地面を数十㎝掘り下げ、ゴムシートを引いたものです。実際の培養槽における水の流れがサーキットレース場に似ていることから「レースウエイ型培養槽」と呼ばれています(図1)。

微細藻類の培養槽
【図1 微細藻類の培養槽 ※引用1)

 

(3)海水でも生育可能

微細藻類の中には海水でも生育するものや、真水、海水どちらでも生育可能なものが多く存在します。
真水が不要なところは大きなメリットです。

 

(4)連作可能

微細藻類は、同じ土地で連続して培養し収穫できるところに利点があります。

お米も連作が可能なので、日本人は連作可能のありがたみをあまり感じませんが、小麦は毎年同じ農地で育てることはできずに「輪作」といって、別の種類の作物をいくつか同じ土地で何年かに1回のサイクルで育てる手法を用いています。輪作により、土壌の微量成分や微生物のバランスをとり、病害虫の発生を抑制していますが、かなりの手間がかかります。

 

(5)燃料を直接生産する種が存在

アルコールや、油分、水素などの燃料を直接生産し、しかも、微細藻類の細胞外へ産出する特性により、微細藻類を殺さずに燃料を集めることができます。

 

(6)高価かつ高機能の製品としての利用

微細藻類は一つの細胞に生きるためのすべての栄養素を含んでいる完全栄養食です。さらに、研究によって家畜の成長促進効果や、健康食品としての免疫力アップや生活習慣病の改善効果などが認められています。
そのため、食糧や健康食品、飼料、餌料などの高価な高機能をもつ製品としての利用もできます。

 

2.微細藻類の研究の歴史

様々な特徴を持つ微細藻類については、これまで多方面からの研究がなされてきました。その歴史を簡単に振り返ってみます。

微細藻類の研究は、戦後1945年ごろから、食料難を解決するために食料としての大量培養の方法が研究されたのが皮切りです。海外でも同様にソ連が戦前から食料や家畜の餌料向けに大量培養を検討していました。

1950年にカルビンが光合成の研究で炭酸固定回路を解明し、1961年にノーベル化学賞を受賞しました。その光合成機能解明の研究材料が微細藻類の一種の「クロレラ」であったことから、藻類の生化学関係の研究が流行し、その過程でクロレラの家畜の成長促進効果や健康増進効果が確認されました。

1960年代の米ソ宇宙開発競争では、微細藻類を用いて二酸化炭素(CO2)から酸素(O2)を生産するシステムの研究が行われ、1970年代の石油ショックを契機に「バイオマスエネルギー」の生産を目的に微細藻類の屋外大量培養法の研究が行われてきました。

1980年代にスペースシャトルが開発され宇宙で大人数が長期間生活するためのシステムとして、微細藻類を用いてCO2とO2のガス交換機能に加えて、食糧生産や排水中の窒素やリンを処理する、「閉鎖生態系生命維持装置」の開発が行われました。

1990年代に地球温暖化問題の課題解決のために、発電所やセメント工場から排出されるCO2を固定し、燃料やその他有価物へ再利用する技術に関する研究が、多くの研究機関で行われました。

21世紀に入ってからは、ユーグレナ社が設立され、機能性食品分野で大きく売り上げを伸ばし一般消費者への認知度が向上しました。2010年代は地球温暖化対策への対応遅れと取組強化に対してパリ協定が締結されたことを背景に、再び微細藻類を温暖化対策へ適用する研究に注力されるようになりました。

 

3.微細藻類研究における今後の技術課題

では、これからの微細藻類研究の活路について紹介いたします。
 

(1)温暖化問題対策

地球規模で議論されている温暖化問題対策は、微細藻類研究においても最もクローズアップされている課題です。現状は、ビーカースケールからパイロットスケールの段階であり、実用化に向けての取り組みがなされていますが、以下のような問題が残っています。

 

① 大規模かつ安定な培養法の確立

この問題に対して、外部からの微生物汚染を防ぎ、微細藻類の生育に適した環境に調整しやすい密閉型のバイオリアクターの開発が進んでいます。
あるいは、野生の微細藻類の種類の中から、長期安定培養に向いた種類の微細藻類を探索するなどといった、課題解決法が図られています。

 

② 上記①で大量に生産された微細藻類を有効利用するプロセスの開発

具体的には、培養槽で生育した藻類を分離して燃料を生産したり、有価物を生産するプロセスの開発が発展途上といえます。
図2のように、微細藻類培養槽から得られた藻体を、メタン発酵により燃料であるメタンを作り発電所で燃料として再利用することが考案されています。
また、メタン発酵で得られる栄養塩(窒素、リン)は培養槽にてリサイクルし、培養に必用なCO2も発電所からリサイクルするプロセスまで考究されています。

微細藻類の高効率バイオリアクターとそれを利用した火力発電所ガス交換システム
【図2 微細藻類の高効率バイオリアクターとそれを利用した火力発電所ガス交換システム ※引用2)

 

(2)食料生産

気候変動や環境に起因する食料不足に加えて、紛争が引き起こす価格高騰による食料問題に直面している今、微細藻類を利用した食料生産が非常に注目されています。

 

① 収穫した藻類を食料として流通加工する手法の開発

藻類の保存性や流通性の向上させる方法として、フリーズドライ後、ペレット化するなどの方法が実用化されていますが、まだまだ開発の余地があります。
加えて、他の食品の添加物としての利用がメインとなっている今、藻類単体として多くの人に食べてもらえるような商品の開発も必要とされています。

 

② 餌料としての開発

微細藻類は家畜や養殖魚類、ユーグレナにおいては昆虫食の餌料として適用されていますので、より適した藻類の選定も進める必要があります。
家畜や魚類の成長が早く、味がよくなるよう、さらに栄養のバランスがとれ、かつ、微細藻類が無駄なく利用される給餌法の開発なども探求されるべきです。

 

(3)健康食品

既にユーグレナやクロレラ、その他数種の藻類は、完全栄養食、健康増進効果、生活習慣病の改善効果、免疫賦活効果などが認められ、健康食品や機能性食品として販売されています。

これらは製品が高価で販売でき収益性が高いので、新たな機能を探索した新しい健康食品や機能性食品の開発につなげる道もあります。

 

4.SDGsの課題達成に向けて

微細藻類研究の活路は以上に述べたことに留まりません。SDGsのNo.11「住み続けられる街づくり」や、No.12「作る責任使う責任」の目標を達成すべき構想もあります。

図3のように、従来より開発されてきた「閉鎖生態系生命維持装置(CELSS:Closed Ecological Life Support System)」を、地産地消や地域振興に適用が試みられています。

有人宇宙活動における生命維持システムの開発
【図3 有人宇宙活動における生命維持システムの開発】

完全に地域でエネルギーの生産と消費、つまり、食べ物の生産と廃棄物のリサイクル、及び水のリサイクルを行える持続可能な街づくりを実施することで、街に居住する人々が、作る責任と使う責任を果たせるようにしようとしています。
 

(アイアール技術者教育研究所 A・H)

 


《引用文献・参考文献》

  • 1)濱崎彰弘, 微細藻類の大量培養法の検討, 13回バイオマス科学会議論文, p117-118(2018)
  • 2)濱崎彰弘, ”微細藻類の高効率バイオリアクターとそれを利用した火力発電所ガス交換システム”, 14回バイオマス科学会議論文,p19-20(2018)
  • 3)佐藤他, ”将来有人宇宙活動における生命維持システムの開発”, 三菱重工技報 vol.27 pp527-530(1990)

 

 

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