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「代替肉」とは一般の方にはあまり馴染みのない用語かもしれません。
代替肉は、一般に大豆など植物由来の肉(植物ミート)と、培養技術を用いた培養肉に大別されます。
前者は既に実用化・市販され、我々もよく利用しています。
後者は最近外国で発売され話題となっていますが、まだ開発途上の段階にあるといえます。
日清食品ホールディングスの下記サイトに、『「代替肉」の開発レベル段階』としてわかりやすく説明されていますので、まずこちらのページをご覧いただくと、これらの関係が理解しやすいと思います。
[※日清食品サイトURL:https://www.nissin.com/jp/sustainability/feature/cultured-meat/]
目次
植物ミート(植物肉)は、一般的に「大豆ミート」、「大豆肉」、「ソイミート」、「フェイクミート」、「プラントベースミート」、「疑似肉」、「アナログミート」、「オルタナティブミート」、「ミートレスミート」などと呼ばれています。
その原料は大豆、小麦、エンドウマメ、ソラマメのタンパク質が一般的です。
スーパーマーケットでも一般に販売されているので、皆さんもよくご存じと思います。
植物タンパク質を利用して、肉様食品(疑似肉)を作成する技術はかなりの歴史があるようで(※既に1970年代の特許出願も複数存在しています)、現在も盛んに開発が進んでいるようです。
例えば、特許情報を確認してみると
などの技術が見受けられます。
植物ミートのマーケットは世界的にも国内においても今後成長が見込まれ、食肉メーカーや植物性タンパク質業界からも注目される市場でありながら、業界団体もないため、原材料や製法についてのルール作りが課題であると言われています。
例えば、植物由来といっても原材料に卵や乳などの動物由来材料を含む商品もあるため、菜食主義(ビーガン)やハラールには対応していないものもあります。
また、遺伝子組み換えの有無を原材料名に記載する必要があるのは、重量ベースで上位3位以内か、5%以上含まれる場合であるため、惣菜などに加工されると原材料の大豆が遺伝子組み換えか否かが判別できないといった問題点も指摘されているようです。
植物ミートの日本国内マーケットには、2015年頃から大手食品メーカー(マルコメ、日清食品、大塚食品、ケンコーマヨネーズ、不二製油、伊藤ハム米久ホールディングス、日本ハム、丸大食品、ニチレイフーズなど)も続々参入しています。また大手企業が出資する「DAIZ株式会社」(熊本市)、「株式会社SEE THE SUN」(森永製菓の新規事業から誕生)や「ネクストミーツ株式会社」(本社:東京都、研究室:長岡市)などのベンチャー的な企業もあり、今後も参入する企業が続くと思われます。
世界的には米国が先行しているようです。
NASDAQに上場した「ビヨンド・ミート(Beyond Meat)」や、ビル・ゲイツも出資している「インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)」などが注目されています。
ビヨンド・ミート社には、三井物産も出資しており、植物肉の日本上陸を計画していると言われています。
インポッシブル・フーズ社はスタンフォード大学の生化学分野の名誉教授であるパトリック・ブラウン氏が2011年に設立したベンチャー企業です。
同社製品は大豆など植物由来タンパク質からなる人工肉ですが、その特徴は肉のうまみ味成分である大豆レグヘモグロビンを、遺伝子組換した酵母を利用して生産していることです。
さて、植物ミートは何でできているのでしょうか?
その原料・成分や製法は各社各様で、詳細も公表されていませんが、その中で「ビヨンド・ミート(Beyond Meat)」の製品は原料・成分が公表されていますので、これをご紹介します。
ビヨンド・ミート社の製品は以下の通りです。
このうち「ビヨンド・バーガー」の成分が同社サイトで公表されていますので、これを見てみましょう。
[※ビヨンドバーガー成分表のURL:https://www.beyondmeat.com/products/the-beyond-burger/]
水、エンドウ豆分離タンパク質、キャノーラ油(圧搾)、精製ココナッツオイル、米タンパク質、天然香料、乾燥酵母、ココアバター、メチルセルロース。含有率1%以下:ジャガイモ澱粉、食塩、塩化カリウム、ビーツ抽出液(着色)、リンゴエキス、ザクロ濃縮液、ヒマワリレシチン、酢、レモン濃縮液、ビタミン・ミネラル類(硫酸亜鉛、ナイアシンアミド(ビタミンB3)、塩酸ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、パントテン酸カルシウム)
「ビヨンド・バーガー」の赤身はエンドウ豆と米のタンパク質で構成されています。
複数のタンパク質をブレンドすることによって必須アミノ酸バランスを向上させ、単一植物では難しいアミノ酸スコア100を実現しているとのことです。
脂質は、圧搾キャノーラ油とココナッツオイルとココアバターから構成されています。総脂肪と飽和脂肪を低く抑えながら、見た目も味も本物の牛肉に近づけています。「飽和脂肪酸の少なさ」をマーケティングの大きな戦略としているようです。心疾患のリスク増とも関係するトランス脂肪酸も気になるところですが、ビヨンド・ミートのキャノーラ油は連続圧搾法(Expeller-pressed)で、トランス脂肪酸は0gと表示されています。
また、生肉の色(ピンク)を再現するために、色素としてビーツ(Beets)と呼ばれるカブに似た赤紫色の植物から抽出した天然色素(着色料)を使用しているようです。
ます、「培養肉」とは、どのようなものでしょうか?
科学技術振興機構(JST)が運営するサイト「Science Portal」に掲載されている「楽しく悩んで、食の未来を変える ~「培養肉」研究の最前線~」というページでは、”「培養肉」とは、ウシなどの動物から取り出した少量の細胞を、動物の体外で増やしてつくる「本物の肉の代用品」のことだ。”と説明されています。
また、「世界で初めての培養肉バーガー」について、”2013年8月、イギリス・ロンドンで世界初の培養肉バーガーの試食会が開催された。(中略)この培養肉をつくったのは、オランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト教授。牛の幹細胞をシャーレで培養し、ミンチ状の肉をつくることに成功した。”と記載されています。
さらにこのページの中では、2019年3月に東京大学大学院 竹内昌治教授が開発した世界初の「サイコロステーキ状の培養肉」が紹介されています。
この培養肉の原理・技術について、竹内先生は「コラーゲンで細長い入れ物をつくり、その中で細胞を培養すると、細胞同士が縦方向に結びつきながら成長することが分かりました。これを横に並べていけば、繊維の向きが揃った細胞のシートをつくることができます。さらにこのシートを重ねていけば、3次元構造が再現できると考えました」と、説明しています。
培養肉は未だ開発段階であり、将来の技術と言えますが、米国企業がシンガポールで世界で初めて実用化したことが発表されています。
具体的な内容については、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター(国際農研、JIRCAS)のサイトに掲載されている「197. 培養肉の販売が世界で初めて承認される」というページでも紹介されており、
「シンガポールの規制当局(食品庁)が、米国企業(イートジャスト社)がバイオリアクターで培養する鶏肉の販売を承認したことは、食品業界にとって画期的な出来事です。(中略)イートジャスト社によると、生産ラインでは、生きている動物の生検から採取できる細胞を用いるため、屠殺を必要としません。成長に必要な栄養素は植物由来のものを用います。増殖培地に関しては、規制当局の承認プロセスが開始された時点では植物ベースの代替品が利用できなかったため、ウシ胎児血清を含む培地を使用していますが、これも次の生産ラインからは植物由来の血清を利用する予定です。」
と記載されています。
なお、イートジャスト社が販売を開始した、この培養肉を用いたチキンナゲットについては、2021年7月25日付の朝日新聞でも紹介されていました。
培養肉が一般に普及するのはまだ先のことと思われますが、ますます開発は進んでいくことが見込まれます。
代替肉の研究開発に携わる方は、国内外の論文や特許文献等を通じて技術動向をチェックしていきましょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)