《食品技術を学ぶ》乳酸菌/ビフィズス菌の基礎知識[分類・作用など]

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乳酸菌の基礎知識

ヨーグルトを日々利用されている方は多いと思います。
市販ヨーグルトのパッケージには、例えば「2つの菌「ガセリ菌SP株」と「ビフィズス菌SP株」を配合。」、「ビフィズス菌BB536配合」、「LB81乳酸菌」、「ブルガリア菌2038株とサーモフィラス菌1131株」などの表示があります。これらはご存じの通り、ヨーグルト製造に用いられる乳酸菌の株名で、各社各様の乳酸菌を使用しています。また、乳酸菌飲料の主役も乳酸菌です。

今回は乳酸菌の基礎知識ついて解説します。

1.乳酸菌とは?

(1)乳酸菌/ビフィズス菌の概要(分類など)

乳酸菌とは、分類学上の呼び名ではなく、発酵によって糖類から乳酸をつくる細菌の総称で、分類上の特定の菌種を指すものではありません。
乳酸菌は、ヒトや動物の体をはじめとした自然界に広く存在し、沢山の種類がありますが、通常は形態・発酵形式・発育条件などによって分類されます。
 

① 形態による乳酸菌の分類

  • 乳酸球菌:丸い球状の形をしています。
  • 乳酸桿菌:細長い棒状の形をしています。
  • ビフィズス菌:棒状の桿菌ですが、増殖するときに枝のように分かれY型になります。

 

② 発酵形式による乳酸菌の分類

  • ホモ型乳酸発酵:糖から乳酸のみを生成します。
  • ヘテロ型乳酸発酵:糖から乳酸と酢酸またはアルコール、炭酸ガスを生成します。

 

③ 発育条件による乳酸菌の分類

  • 通性嫌気性菌:空気(酸素)がある所でも増殖します。
  • 偏性嫌気性菌:空気(酸素)のある所では増殖しません。

 

④ 乳酸菌としてのその他の条件

  • グラム陽性(※細胞壁の構造の違いによって細菌を分類する手法である「グラム染色」により紺青色あるいは紫色に染色される)
  • 芽胞:なし、運動性:なし(鞭毛を持たない)
  • 消費ブドウ糖に対して50%以上の乳酸を生成
  • ナイアシン(B3)を必須要求

 

なお、ビフィズス菌も当初は乳酸菌に分類されていましたが、多くの点で性質が異なっていたため独立してビフィズス菌となりました(広義の乳酸菌)。
乳酸菌は腸内に棲む細菌であり、乳酸菌のうち乳酸桿菌は主に小腸(空腸、回腸)に棲みついていますが、ビフィズス菌は主に大腸(結腸、直腸)に棲みついています。大腸にはほとんど酸素が存在しないため、酸素を嫌うビフィズス菌が優勢です。

形態 属名 主な菌種名 発酵形式 酸素存在下での発育 生息
場所
用途
乳酸菌 球菌 ストレプトコッカス サーモフィルス ホモ型 する
(通性嫌気性)
ヒト・動物の腸管+発酵食品(乳製品、漬物など) ヨーグルト、乳酸菌飲料
エンテロコッカス フェカリス 医薬品、栄養補助食品、乳酸菌飲料
*腸内に存在する常在菌の一種。
ペディオコッカス ハロフィルス 醤油、味噌、漬物
テトラジェノコッカス
ラクトコッカス ラクティス 発酵バター、チーズ
ロイコノストック メセンテロイデス
サケイ
ヘテロ型 清酒、漬物
桿菌 ラクトバチルス ブルガリクス
ヘルベティカス
アシドフィルス
ガセリ
カゼイ
ホモ型 チーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、医薬品
ファーメンタム ヘテロ型 栄養補助食品
ビフィズス菌 ビフィドバクテリウム ロンガム
ブレ−ベ
ビフィダム
インファンティス
ヘテロ型 しない
(偏性嫌気性)
ヒト・動物の腸管 ヨーグルト、乳酸菌飲料、医薬品

 

(2)乳酸菌の歴史

乳酸菌は、古くから伝統的な発酵食品に利用されてきました。乳酸菌による乳酸発酵は、古くから広く利用されていました。乳酸発酵を利用した食品は、例えば、ヨーグルト(発酵乳)、乳酸菌飲料、チーズ、味噌、醤油、清酒、ワイン、パンなど東西を問わず世界中に広く分布しています。
しかし、乳酸菌の実体が解明されたのは近代になってからです。

① オランダのレーウェンフック(1632-1723)

簡単な顕微鏡を作り、腸内細菌を発見。野菜や乳の中に乳酸菌を観察したであろうと言われています。

② フランスの科学者パスツール(1822-1895)

発酵や腐敗が微生物によってなされ、微生物が他の生物と同じように増殖と死滅を伴うことを科学的に明らかにし、乳酸発酵の仕組みを解明しました。

③ ドイツのコッホ(1843-1910)

固形培地上に細菌の集落(コロニー)をつくらせる画期的な方法を確立し、この方法を用いて細菌を純粋分離しました。

④ フランスの細菌学者ティッシェー

1899年、健康な母乳児の糞便からビフィズス菌を発見しました。

⑤ オーストリアのモロー

1900年、アシドフィルス菌を発見しました。

⑥ ロシアのメチニコフ(1845-1916):免疫の研究でノーベル賞を受賞

「乳酸菌による不老長寿説」を提唱しました。この説は、ヨーグルトがヨーロッパに広がるきっかけをつくるとともに、発酵乳の栄養・生理学的な効果についての研究を促すきっかけにもなりました。
 

2.乳酸菌の利用

乳酸菌は、ヨーグルト、チーズ、味噌、醤油、清酒、鮒寿司やなれ寿司などの、ほとんどの発酵食品に存在し、保存性の向上、好ましい風味の形成に寄与しています。
乳酸菌を利用して食品の保存性を改善することを「バイオプリザベーション」と呼びます。
我々が乳酸菌を最も意識するのは、やはりヨーグルトでしょう。
 

(1)ヨーグルト

ミルクを乳酸発酵することにより、ヨーグルトができます。
ヨーグルトは法律的(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令))には「発酵乳」とされており、「乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの、またはこれらを凍結させたものをいう」と定義されています。
無脂乳固形分8.0%以上、生菌タイプのものであれば 乳酸菌数(または酵母数)が1mlあたり1000万以上と決められています。

なお、FAOとWHOによって定められたヨーグルトの厳密な定義によると、「ヨーグルトとは乳及び乳酸菌を原料とし、ブルガリア株(Lactobacillus bulgaricus)とサーモフィルス株(Streptococcus thermophilus)が大量に存在し、その発酵作用で作られた物」と定められています。

ヨーグルト製造に用いられる乳酸菌は、ブルガリア菌、サーモフィルス菌、ガセリ菌、アシドフィルス菌など、また乳酸菌飲料にはカゼイ菌が使われます。これらの菌の組み合わせや発酵温度などにより、製品の特長を出しています。

以下、参考として国内で市販されている主なヨーグルトで使用されている乳酸菌の菌株を例示します。(※ウィキペディアの「ヨーグルト」より抜粋)
 

メーカー  ヨーグルト 菌株
明治 ブルガリア ヨーグルト ラクトバチルス・デルブルエッキイー・ブルガリクス 2038
ストレプトコッカス・サーモフィルス 1131
LG21 ラクトバチルス・ガセリLG21
R-1 ラクトバチルス・デルブルエッキイー・ブルガリクス OLL 1073R-1
PA-3 ラクトバチルス ・ガセリ PA-3
森永乳業 ビヒダス ビフィドバクテリウム・ロングム BB536
雪印メグミルク ナチュレ ラクトバチルス・ガセリ SP
ビフィドバクテリウム・ロングム SP

 
ヨーグルト中の乳酸菌の働きは以下の通りです。

  • 保存性の向上:乳酸により他の菌の増殖を抑える
  • 風味の向上:乳酸や香気成分生成により風味を良くする
  • 整腸作用:腸内バランスを整え便通を改善する
  • 消化吸収の促進:乳糖分解、乳タンパク質の分解により消化吸収を促進する
  • 免疫力を高める:腸を介して免疫機能に働きかける

 

(2)清酒

清酒の伝統的な製法として「生酛(きもと)造り」が知られています。
この製法は、アルコールを生成する酵母を育てる「酛(酒母)」を水と米と米麹から手作業で造り上げる製法で、その工程で活躍するのが乳酸菌です。

「酛(酒母)」は発酵工程に入る前に、あらかじめ酵母を培養して大量に増殖させたものです。
生酛造りでは、蒸米、米麹、水を混ぜ合わせた後、6℃くらいの低温に保つことにより野生酵母などの汚染微生物の活動を抑えます。この期間にはまず硝酸還元菌が生育し、硝酸を還元して亜硝酸を生成します。

一方、低温増殖性の乳酸菌も活動を開始します。
先ず、球菌であるロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides) が生育を始め、その後、桿菌であるロイコノストック・サケイ(Lactobacillus sakei)が増殖することにより優占菌の遷移が起こることが知られています。そして乳酸菌がつくり出す乳酸と亜硝酸により野生酵母は淘汰されます。
このような乳酸酸性環境下で、乳酸に強い清酒酵母が増殖するとともにエタノールをつくり出します。
生酛で生育する乳酸菌はエタノールに弱いため死滅し、次第に清酒酵母のみが増殖します。
 

(3)醤油

醤油諸味中で主に働く耐塩性の乳酸菌はテトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)<ペディオコッカス・ハロフィルス(Pediococcus halophilus)>であり、「醤油乳酸菌」と呼ばれています。
この乳酸菌は品温の上昇と共に急速に増殖し、乳酸発酵後期になると諸味pHの低下に伴い自分が作った酸により死滅に向かい,代わって酵母が増殖しアルコール発酵が始まります。
乳酸菌がつくった乳酸は醤油の味の質に大きな影響を与えます。
 

3.乳酸菌の生理作用

乳酸菌のもつ主な機能性として、産生物質(乳酸や酢酸などの有機酸)による「消化管内フローラ改善作用」、菌体や菌体成分による「免疫力調節作用」、菌体や乳酸菌がつくる有効成分による「生活習慣病関連因子の正常化作用」があります。

(1)消化管内フローラ改善作用

  • 口腔内フローラの改善(歯周病の改善)
  • 胃内のピロリ菌の低減
  • 腸内フローラのバランス改善
  • 病気や食中毒の原因となる有害微生物の感染防止
  • 腸内の有害物質の低減(腸内環境の改善)
  • 便性の改善(便秘と下痢の両方の改善)

 

(2)免疫力の調節作用

  • 感染症の予防
  • 発がんリスクの低減
  • 過剰な免疫反応の抑制

 

(3)生活習慣病関連因子の正常化作用

  • 血中脂質に対する効果
  • 内臓脂肪に対する効果
  • 血圧に対する効果

以上、今回は乳酸菌/ビフィズス菌に関する基礎知識をご紹介しました。
研究開発に携わる方は、国内外の論文や特許文献などを通じて技術動向をチェックしていきましょう。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
 


<参考文献>

(1) 乳と乳製品のQ&A(一般社団法人 日本乳業協会)
https://nyukyou.jp/dairyqa/2107_065_493/
https://nyukyou.jp/dairyqa/2107_222_495/

(2) 乳酸菌の基礎知識(一般社団法人 全国発酵乳乳酸菌飲料協会)
https://www.nyusankin.or.jp/lactic/basics/

(3)公益財団法人 腸内細菌学会サイト「よくある質問」
https://bifidus-fund.jp/FAQ/FAQ_17.shtml
https://bifidus-fund.jp/FAQ/FAQ_05.shtml


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