最も水素を利用している産業は?製油所に期待される新たな役割とは

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最も水素を利用している産業は?

日本国内で販売されている水素の量は、2021年で約2.4億Nm3とされています1)
しかし、これよりはるかに大量の水素が国内で利用されています。
これはどういうことでしょうか?

1.水素の利用 その実態とは?

図1は、少し古い2014年の資料からの引用ですが2)、日本国内の産業別の水素利用量を示したものであり、合計で約146億Nm3です。
販売(外販)されている水素は全体の利用量のごく一部であって、大部分は各産業において自家消費されています。中でも石油精製の量は圧倒的です。

では石油精製では何に水素が利用されているのでしょうか?

 

日本国内の産業別の水素利用量
【図1 日本国内の産業別の水素利用量 ※引用2)

 

2.石油精製における水素の利用

石油精製というと、海外から輸入した原油を蒸留により沸点別に分別して製品化しているだけだとお考えの人もおられるようですが、それは大きな誤解です。ただ蒸留するだけでは、自動車やトラックが正常走行できる燃料にはなりませんし、大気汚染の抑制もできません。
不純物を除去し高性能化した後に、製品として石油会社の工場(製油所と呼ばれます)から出荷されています。この製油所で実施される代表的な処理が「水素化精製」です。

原油中には多種の不純物が含まれていますが、代表的な不純物として硫黄分窒素分があげられます。これらは図2に示す水素化精製反応によって製品から除去されます3)。この反応を行うために水素が必要になります。
水素化精製反応は、原料を必要な温度まで加熱し、高圧の水素を原料に加え、反応を効率的に行うための触媒を用いて実施されます。

 

水素化精製による脱硫黄と脱窒素の反応
【図2 水素化精製による脱硫黄と脱窒素の反応 ※引用3)

 

石油精製プロセスと水素化精製

図3は製油所における石油精製の典型的なフローを示したものであり、赤色で囲った装置はいずれも水素化精製装置です。水素化精製が大きな役割を果たしているのがお分かりいただけると思います。

 

製油所における石油精製の典型的なフロー
【図3 製油所における石油精製の典型的なフロー ※引用3)

 

水素化精製に必要な水素は、製油所内部で①副生または②製造した水素が使用されます。即ち水素化精製には①接触改質装置(図3上部の青色)で副生される水素を使用するのですが、それだけでは不足する分を②水素製造装置(図3下部の青色)で製造しています。

この水素製造ではCO2も併産されますが、水素製造量を必要最少に留めることにより、CO2量が抑制されています。

 

3.今後の製油所の役割

以上述べたのは従来の石油精製およびその中での水素化精製の役割ですが、温室効果ガス排出量削減という大きな課題に私たちが直面する中で、新たな役割が製油所に期待されています。

 

(1)ジェット燃料SAFの製造

2023年5月に経済産業省が、日本の空港で提供する航空燃料の10%をSAFSustainable Aviation Fuel持続可能な航空燃料)にすることを義務づける方針を示しました4)
SAFの原料としては使用済みの油脂(廃食油)、バイオエタノール、木質残渣等、種々のものが現在検討されていますが、当面は使用済み油脂を原料とせざるを得ない状況です。

では油脂をそのままジェット燃料に混合することになるのでしょうか?
NOです。それは絶対に不可です。
ここで油脂を燃料化する際の処理についておさらいしましょう。図4をご覧ください。

 

油脂を燃料化する際の処理法
【図4 油脂を燃料化する際の処理法(脂肪酸はすべてオレイン酸と仮定)】

 

A→Bのルートはメタノールでエステル交換する方法です。いわゆるバイオディーゼルの製造で使用されている方法です。生成物はメチルエステルであって炭化水素ではないことにご留意ください。

A→Cのルートは水素化反応、換言すれば水素化精製であり、生成物は炭化水素です。

零下50-60℃の成層圏も飛行する航空機では、極低温でもフィルター閉塞等の問題が生じないよう、航空燃料には厳しい規格が定められています。メチルエステルが含まれていると、この規格を満足できません。完全な炭化水素である必要があります。

従って、航空燃料では、A:油脂の混合などは論外であり、B:メチルエステルも使用することはできませんので、SAF製造にはA→Cのルートが必要になります。この工程で石油業界が培った水素化精製技術が効果を発揮します。また、従来の水素化精製装置を改造してSAF製造に転用することも可能です。

 

(2)水素の輸入・発送拠点としての製油所

再生可能エネルギーに由来する水素グリーン水素)の導入拡大が求められる中で、経済産業省は2022年に「日本は再エネ含む資源賦存量が国内需要に比べ小さく、長期的にも海外水素を輸入することになる見込み。」との見解を示しています5)
そのための海外水素の受入れ拠点は、 港・桟橋・タンク等の設備を有しており、大規模需要家(ガス火力・製鉄所等)と近接していることが必要になります。

製油所はこの海外水素受け入れ拠点としての条件を備えていると考えられます。
一例をあげると、国内石油最大手のENEOS(株)は、同社の製油所が図5に示す地点に立地しており、受け入れ拠点として有望だとしています6)

 

製油所と水素需要家の立地(ENEOS社の例)
【図5 製油所と水素需要家の立地(ENEOS社の例) ※引用6)

 

石油会社の製油所は重厚長大の旧来型工場の典型ですが、再生可能燃料への移行の流れの中で、社会の要請に合致した姿に変容していくと予想されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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