GLP-1受容体作動薬の基礎知識|作用・効果など要点解説
「GLP-1受容体作動薬」(以下、GLP-1RA)は、近年、II型糖尿病治療薬および肥満症治療薬として注目を集めています。これらの薬剤は、生体内のGLP-1(Glucagon-like peptide-1)ホルモンの作用を模倣または増強することで、血糖値のコントロールや体重減少などに効果を示します。オゼンピックやマンジャロなどの製品が臨床で広く使用され、その効果が認められています。
本稿では、GLP-1RAの基本的なメカニズム(作用機序)、主な効果、現在使用されている主要な薬剤、そして今後の展望について概説します。
目次
1.GLP-1とは
「GLP-1」(Glucagon-like peptide-1)は、主に腸管のL細胞で生成される重要なインクレチンホルモンです。
食物の摂取により、L細胞が刺激されるとGLP-1の分泌が促進されます1)。
「インクレチンホルモン」とは、静脈内グルコース投与と比較して、経口でのグルコース投与で、より高いインスリン分泌反応を示すホルモンを指し、GLP-1と後述するGIPの2種類が知られています。
GLP-1は、37残基のGLP-1(1-37)のプロタンパク質が、翻訳後プロセシングによりN末端が切断され、30または31残基のGLP-1 (7-37)およびGLP-1 (7-36) アミドとして血中に分泌されます。
これらが膵臓、中枢神経および消化器などに存在するGLP-1受容体に作用します2)、3)。
GLP-1の効果
GLP-1の主な効果は以下のとおりです。その概要を図1に示します。
① インスリンの分泌促進
GLP-1は、膵臓β細胞に作用し、血糖値が上昇すると、インスリンの分泌を促進します。
これにより、血糖値を下げる効果があります4)。
② グルカゴンの分泌抑制
GLP-1は、膵臓α細胞に作用し、血糖値が低い場合に分泌されるグルカゴンの分泌を抑制します。
グルカゴンは血糖値を上昇させる作用があるため、この抑制により血糖値の安定が図られます5)。
③ 胃の排出遅延
GLP-1は、胃の運動を遅らせ、食物の胃からの排出を遅くします。その結果として、腸での糖の吸収遅延が生じます。
これにより、急激な血糖値の上昇を防ぎ、満腹感を長持ちさせ、血糖の安定や体重増加を抑制する効果があります1)。
④ 食欲の抑制 ほか
GLP-1は、中枢神経(視床下部など)に作用して食欲を抑制することで体重増加を抑制する効果があります6)。
その他に、心血管系や腎臓などに対する保護的な効果が知られています。
【図1 GLP-1の分泌と主な臓器に対する効果】
2.GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)とは
「GLP-1RA」とは、GLP-1のようにGLP-1受容体を活性化する能力を持つ医薬品を指します。
天然のGLP-1は、血中での半減期が約2分と短く、そのまま投与してもすぐに分解されてしまうため、長い半減期を持ち、GLP-1受容体への活性化能が高いGLP-1RAの開発が行われてきました7)。
これまでに上市されたGLP-1RAは、II型糖尿病治療薬と肥満症治療薬です。
主なGLP-1受容体作動薬一覧
主なII型糖尿病治療薬の一覧を表1に、主な肥満症治療薬の一覧を表2に示します。
【表1 II型糖尿病治療薬と特徴】
商品総称名 | 有効成分 | 半減期 | 血糖コントロール効果 |
バイエッタ | エキセナチド | 2.4時間 | + |
ビクトーザ | リラグルチド | 13時間 | ++ |
トルリシティ | デュラグルチド | 4.7日 | +++ |
オゼンピック | セマグルチド | 7日 | ++++ |
マンジャロ | チルゼパド | 5日 | +++++ |
【表2 主な肥満症治療薬と特徴】
商品総称名 | 有効成分 | 半減期 | 体重減少効果 |
サクセンダ* | リラグルチド | 13時間 | + |
ウゴービ | セマグルチド | 7日 | ++ |
ゼップバウンド* | チルゼパド | 5日 | +++ |
(Yao H, et al: BMJ, 384. 2024を基に作成)
3.GLP-1/GIP受容体二重作動薬とは
「GIP」とは”Gastric inhibitory peptide“(胃抑制ペプチド)または”Glucose-dependent insulinotropic peptide“(グルコース依存性インスリン分泌性ペプチド)とも呼ばれるインクレチンホルモンです。
GIPは、膵臓、白色脂肪組織および中枢神経などに存在するGIP受容体に作用し、インスリン分泌促進、脂質代謝の改善、および食欲の抑制などの効果を持ちます。
特に、GLP-1/GIP受容体の二重作動によって、GLP-1単体での作動に比べて、優れた効果をもたらします9)。現在、唯一承認されているGLP-1/GIP受容体二重作動薬であるマンジャロとゼップバウンドは、表1及び2に示すように、血糖コントロール及び体重減少において最も強い効果があることが報告されています 。
4.GLP-1受容体作動薬の今後の動向に注目!
現在、臨床試験段階のGLP-1RAとして、低分子医薬のオルフォルグリプロン(イーライリリー社)及びダヌグリプロン(ファイザー社)、ペプチド医薬のGLP-1/GLP-1/グルカゴン受容体三重作動薬のレタトルチド(イーライリリー社)及びGLP-1RAと併用するアミリン受容体作動薬カグリリンチド(ノボノルディスク社)などの臨床試験が進められており、さらなる展開が期待されています10)。
これらの新しい薬剤の開発により、より効果的で個別化された治療法の確立が期待され、II型糖尿病や肥満症の管理において新たな可能性が開かれつつあります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 K・K)
[※関連記事:GLP-1受容体作動薬の開発競争と特許の攻防についてはこちら]
《引用文献、参考文献》
- 1) Astrup A: Eur J Clin Nutr, 78: 551-556.
- 2) Marathe CS, et al: Peptides, 44: 75-86. 2013
- 3) Suzuki A, et al: Proc Natl Acad Sci U S A, 100(9): 5034-5039. 2003
- 4) Mojsov S, et al: J Clin Invest, 79(2): 616-619. 1987
- 5) Kim Y, et al: Diabetes, 68(1): 34-44. 2019
- 6) Kabahizi A, et al: Br J Pharmacol, 179(4): 600-624. 2022.
- 7) Yu M, et al: Adv Drug Deliv Rev, 130: 113-130. 2018
- 8) Yao H, et al: BMJ, 384. 2024
- 9) Samms RJ, et al: Trends Endocrinol Metab, 31(6): 410-421. 2020
- 10) Melson E, et al: Int J Obes (Lond). 2024