【技術者のための法律講座】製造業社員が押さえておくべき「下請法」の基礎知識
このコラムの読者は、おそらく技術者・研究者か技術に関連がある部署で仕事をされている方と思います。
会社の事業内容・規模、担当業務、職歴などによって、「下請法」になじみのある方も、そうでない方もおられるでしょう。
今回は、知らなかったでは済まされない「下請法」の基本知識を出来るだけわかりやすく解説してみます。
下請法とは?
それでは「基本の基」から。
下請法は、正式な法律名を「下請代金支払遅延等防止法」(昭和31年法律第120号)といい、1956年(昭和31)に制定された、1条~12条からなる法律です(その内容は多少難しいですが)。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=331AC0000000120
先ず法律の「目的」を見てみましょう。
「この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。」(第1条(目的))
簡単にいえば、下請取引の公正化及び下請事業者の利益を保護することを目的とした法律と言えるでしょう。
次いで、法律の概要を辞典等で確認してみましょう。
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「独占禁止法(独禁法)により規制される優越的地位の濫用規定を下請取引に特化させた特別法であり、公正取引委員会(公取委)が所管し中小企業庁とともに執行にあたる。」 「資本金の多寡に着目し、取引関係における親事業者の優越的地位を認める規定である。取引の内容としては、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託(建設業については建設業法により規制される)が対象となる。」
(出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) 「下請法」からの抜粋)
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「下請法では、発注後に下請代金を不当に減額したり、値下げを図ろうとしたり、あるいは、親事業者の社内事務手続の遅れなどを理由として代金支払いを遅らせることなどが、禁止されている。」
(出典 新語時事用語辞典「下請法」からの抜粋)
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「下請法により、書面の交付、下請代金の支払い期日の明確化、遅延利息の支払いなどが義務づけられた。また下請代金の減額、買いたたき、割引困難な手形の交付、不当な給付内容の変更・やり直しなどの禁止事項も盛り込まれた。」
(出典 ASCII.jpデジタル用語辞典「下請法」からの抜粋)
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「発注時に業務内容・金額・支払期日などを明記した書面の作成を義務付けられ、注文品の受領拒否や返品、下請代金の支払い遅延・減額などは禁止されている。下請法の対象となる取引・親事業者・下請事業者は、事業者の資本金規模や取引の内容に応じて定義されている。」
(出典 小学館 デジタル大辞泉「下請法」からの抜粋)
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「親業者には、成果物の受領拒否や下請代金の減額、親事業者のサービスや商品を購入させることや利用強制、支払延期など11項目におよぶ行為が禁止されている。親事業者に違法性の意識がなくても、また、たとえ下請事業者の了解を得ていても、禁止事項に触れると下請法に違反することになる。」
(出典 大塚商会 IT用語辞典「下請法」からの抜粋)
何回か改正されていますが、2003年の改正(2004年4月より適用)で下請法の規制の対象が「情報成果物作成委託」(例えばデザイン制作、データベースのプログラム、Web制作、番組制作など)、役務(運送、ビルメンテナンス)の提供や金型の製造などにも拡大された経緯があるようです。
「親事業者」「下請事業者」とは?
下請法では、「親事業者」と「下請事業者」を、取引の内容ごとに、事業者の資本金規模で区分しています(第2条第1項~第8項)。
この事業者の定義を公正取引委員会のウェブサイトで見てみましょう。
(1)物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
(2)情報成果物作成・役務提供委託を行う場合((1)の情報成果物・役務提供委託を除く。)
※上記(1)と(2)の取引内容の相違については、下請取引適正化推進講習会テキスト(平成30年11月)の4ページに具体的に記載されています。
ここでは、上記テキストからそのまま引用します。
(1)の場合
- 物品の製造委託・修理委託
- 情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る。)
- 役務提供委託(運送,物品の倉庫における保管及び情報処理に限る。)
(2)の場合
- 情報成果物作成委託(プログラムの作成を除く。)
- 役務提供委託(運送,物品の倉庫における保管及び情報処理を除く。)
対象となる取引
下請法の規制対象となる取引は、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」と、大きく4つの取引内容に大別され、委託される内容によっても条件が定められています。
以下、中小企業庁のウェブサイト「下請法ポイント解説」から要点を抜粋してご紹介します。
(1)製造委託
物品を販売し、または製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを細かく指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいいます。ここでいう「物品」とは動産のことを意味しており、家屋などの建築物は対象に含まれません。
製造委託には次の4つのタイプ(その1~その4)があります。
<製造委託 その1>
物品の販売を行っている事業者が、その物品や部品などの製造を他の事業者に委託する場合。
- (例1)自動車メーカーが、自動車の部品の製造を部品メーカーに委託する場合。
- (例2)電機メーカーが、電気製品の部品製造に必要な金型の製造を金型メーカーに委託する場合。
<製造委託 その2>
物品の製造を請け負っている事業者が、その物品や部品などの製造を他の事業者に委託する場合。
- (例)精密機器メーカーが、受注生産する精密機械に用いる部品の製造を部品メーカーに委託する場合。
<製造委託 その3>
物品の修理を行っている事業者が、その物品の修理に必要な部品又は原材料の製造を他の事業者に委託する場合。
- (例)家電メーカーが、販売した製品の修理用部品の製造を部品メーカーに委託する場合。
<製造委託 その4>
自社で使用・消費する物品を社内で製造している事業者が、その物品や部品などの製造を他の事業者に委託する場合。
- (例)製品運送用の梱包材を自社で製造している精密機器メーカーが、その梱包材の製造を資材メーカーに委託する場合。
(2)修理委託
物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。
修理委託となるのは、修理を請け負った物品、自社で修理している物品の修理を委託する場合です。修理委託には次の2つのタイプ(その1、その2)があります。
<修理委託 その1>
物品の修理を業として請け負っている事業者が、修理行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合。
- (例)自動車ディーラーが、請け負った自動車の修理作業を修理会社に委託する場合。
<修理委託 その2>
自社で使用する物品を自社で修理している事業者が、その物品の修理行為の一部を他の事業者に委託する場合。
- (例)自社工場の設備等を社内で修理している工作機器メーカーが、その設備の修理作業を修理会社に委託する場合。
(3)情報成果物作成委託
ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。
情報成果物の代表的な例としては、次のものを挙げることができ、物品の付属品・内蔵部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。
情報成果物とは、次のものをいいます。
- プログラム(例:TVゲームソフト、会計ソフトなど)
- 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの(例:アニメなど)
- 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの(例:設計図、ポスターのデザインなど)
情報成果物作成委託には次の3つのタイプ(その1~その3)があります。
<情報成果物作成委託 その1>
情報成果物を業として提供している事業者が、その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合。
- (例)ソフトウェア・メーカーが、ゲームソフトや汎用アプリケーションソフトの開発をソフトウェア・メーカーに委託する場合。
<情報成果物作成委託 その2>
情報成果物の作成(例:CMの制作)を業として請け負っている事業者(例:広告会社)が、その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者(例:CM制作会社)に委託する場合。
<情報成果物作成委託 その3>
自社で使用する情報成果物の作成を業として行っている場合に、その作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合。
- (例)家電メーカーが、内部のシステム部門で作成する自社用経理ソフトの作成の一部をソフトウェア・メーカーに委託する場合。
(4)役務提供委託
運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託(再委託)することをいいます。ただし、建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、役務には含まれません。
- (例)自動車メーカーが、販売した自動車の保証期間内のメンテナンス作業を自動車整備会社に委託する場合。
親事業者の義務・禁止事項の概要
下請法では親事業者の義務と禁止事項が具体的に規定されています。
そのアウトラインは、公正取引委員会のウェブサイトの以下の図を参照すると分かりやすいでしょう。
<親事業者の4つの義務>
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyagimu.html
4つの義務の具体的事項については上記ウェブサイトに記載されていますので、そちらを参照してください。ここでは「遅延利息の支払義務(第4条の2)」についてのみ、抜粋してご紹介します。
「親事業者は,下請代金をその支払期日までに支払わなかったときは,下請事業者に対し,物品等を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について、その日数に応じ当該未払金額に年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払う義務があります。」
<親事業者の禁止行為>
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyakinsi.html
親事業者には以下の11項目の禁止事項が課せられており、たとえ下請事業者の了解を得ていても、また、親事業者に違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときには、下請法に違反することになります。
上記ウェブサイトにはイラストで分かりやすく説明されています。
- 受領拒否の禁止(第4条第1項第1号)
- 下請代金の支払遅延の禁止(第4条第1項第2号)
- 下請代金の減額(第4条第1項第3号)
- 返品の禁止(第4条第1項第4号)
- 買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)
- 購入・利用強制の禁止(第4条第1項第6号)
- 報復措置の禁止(第4条第1項第7号)
- 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条第2項第1号)
- 割引困難な手形の交付の禁止(第4条第2項第2号)
- 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(第4条第2項第4号)
製造業との関連性が高いQ&A(公正取引委員会のサイトより)
最後に、公正取引委員会サイトの「よくある質問コーナー(下請法)」から、製造業との関連性が特に高いと思われる質問と回答を抜粋して、そのまま転載いたします。
※詳しい解説については、「下請取引適正化推進講習会テキスト」を参照してください。
1 下請法の適用範囲について
(1)全般
(親子会社等)
Q3 親子会社間や兄弟会社の取引にも、本法が適用されるか。
A. 親子会社間等の取引であっても本法の適用が除外されるものではないが、親会社と当該親会社が総株主の議決権の50%超を所有する子会社との取引や、同一の親会社がいずれも総株主の議決権の50%超を所有している子会社間の取引など、実質的に同一会社内での取引とみられる場合は、従前から、運用上問題としていない。
(2)製造委託
(規格品・標準品)
Q6 規格品,標準品を購入する場合,製造委託に該当するか。
A. 規格品、標準品を購入することは、原則として、事業者が仕様、内容等を指定していないため本法上の「委託」にならず、製造委託に該当しない。
しかし、規格品、標準品であっても事業者が仕様等を指定して他の事業者にその製造を依頼すれば「委託」に該当する。
例えば、規格品の製造の依頼に際し、依頼者の刻印を打つ、ラベルを貼付する、社名を印刷する、又は、規格品の針金、パイプ鋼材等を自社の仕様に合わせて一定の長さ、幅に切断するというような作業を行わせることなどがこれに当たる。
(試作品)Q7 試作品の製造を委託することは、製造委託に該当するか。
A. 商品化することを前提にしており、最終商品と同等のレベルにあるような商品化の前段階にある試作品の製品の製造を委託する場合には,製造委託(類型1)に該当する。
また、研究開発の段階等で商品化に至らない試作品の製造を委託する場合は、自家使用物品の製造委託として、貴社が研究開発段階の試作品製造を業として行っていれば、製造委託(類型4)に該当する。
4 受領拒否の禁止(4条1項1号)
(下請事業者が見込み作成したものの受領拒否)
Q23 下請事業者が、正式な発注に基づかず見込みで作成してしまった場合には、その受領を拒んでも問題ないか。
A. 発注していないものについて受領を拒むことは問題ない。
ただし、正式な発注にもかかわらず、3条書面を作成せずに、口頭発注にて下請事業者に一定数量を作成させて受領を拒むことは、書面の交付義務違反にとどまらず、受領拒否にも該当する。
5 支払遅延の禁止(4条1項2号)
(下請事業者からの要請による遅延)
Q25 下請事業者から当月納入分を翌月納入分として扱ってほしいと頼まれ、下請代金も翌月納入されたものとみなして支払ったが、支払遅延として問題となるか。
A. 下請事業者から依頼があっても、又は、親事業者と下請事業者との間で合意があったとしても、下請代金は受領日から起算して60日以内に定めた支払期日までに支払わなければならない。
6 下請代金の減額の禁止(4条1項3号)
(新単価の適用)
Q30 親事業者は、毎年上期(4月~9月)及び下期(10月~3月)の2回単価改定を行い、各期首に提供される役務から新単価を適用しているが、下請事業者との単価改定交渉が長引き、各期の半ばくらいの時点で合意することがある。下請事業者とは各期首に提供される役務から新単価を適用するという合意が成立しており、期首から適用しても問題ないか。
A. 新単価が適用できるのは親事業者と下請事業者との協議により単価改定が行われた時点以降に発注する分からである。
したがって、この場合は新単価決定に係る合意日よりも前に既に発注した分に新単価を適用するわけであるから、新単価が旧単価より引き下げられているのであれば、下請代金の減額(遡及適用)となる。
各期首から新単価を適用するのであれば、各期首に提供される役務が発注される時点までに新単価を決定しておくことが必要となる
新単価適用時期について下請事業者と合意が成立したとしても、下請代金の減額として本法違反となる。
7 返品の禁止(4条1項4号)
(不良品)
Q34 当社が受入検査をした結果、下請事業者からの納入品が不良品であった場合、いつまでなら返品できるか。
A. 親事業者が受入検査を行い、不良品とされたものについては、受領後速やかに返品する場合に限り認められるため、受領後しばらく放置した後に返品すれば本法違反となる。
また、親事業者が受入検査を行い、一旦合格品として取り扱ったもののうち、直ちに発見することができない瑕疵があったものについては、受領後6か月以内(一般消費者に6か月を超える保証期間を定めている場合は最長1年)であれば返品することができるが、直ちに発見することができる瑕疵があったものについては、返品すると本法違反となる。
8 買いたたきの禁止(4条1項5号)
(低い単価での発注)
Q35 親事業者が、製品を国内にも海外にも販売しており、海外では国内よりも安い販売価格でないと売上げが伸びないため、海外向け製品に用いる部品を国内向け製品に用いる部品よりも低い単価で発注することとしたいが問題ないか。
A. 海外向けに限らず、国内においても、合理的な理由がないにもかかわらず、特定の販売先に対して安く販売するという理由で下請事業者が納入する同一の部品について、他の販売先向けの製品に用いる部品よりも低い単価を定めるのであれば買いたたきに該当するおそれがある。
12 不当な経済上の利用の提供要請の禁止(4条2項3号)
(金型の保管)
Q42 部品の製造を委託している下請事業者に対し、当社が所有する金型の保管を委託しているが、不当な経済上の利益の提供要請に該当するか。
A. 金型の製造を委託した後、親事業者が所有する当該金型を下請事業者に預けて、部品等の製造を委託している場合に、部品等の製造を大量に発注する時期を終えた後、親事業者が下請事業者に対し部品の発注を長期間行わない事態となることがある。
このような場合に、親事業者が自己のために、その金型を下請事業者に無償で保管させると、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある。
(不採用デザインの知的財産権)Q44 デザインの作成委託において、当初の発注内容は下請事業者に複数のデザインを提出させ、その中から1つを採用し親事業者に知的財産権を譲渡させるというものであったが、納品後、採用デザインだけではなく不採用デザインの知的財産権も譲渡させることは問題ないか。
A. 当初の発注内容にない不採用デザインの譲渡を下請事業者に無償で要求することは、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある。
この場合、親事業者と下請事業者は双方よく話し合いの上、不採用デザインの知的財産権に係る譲渡対価を決定する必要がある。
(金型の図面)Q45 金型の納品に当たり、製造の過程で下請事業者が作成した金型の図面を無償で提供させることは不当な経済上の利益の提供要請に該当するか。
A.金型の製造委託を行った際に、3条書面上の給付の内容に金型の図面が含まれていないにもかかわらず、金型の納入に併せて当該図面を納品するよう要請することは不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある。
金型と併せてその図面を提供させたいという場合には、別途対価を支払って買い取るか、又はあらかじめ発注内容には金型の図面を含むことを明らかにし、当該図面を含んだ対価を下請事業者との十分な協議の上で設定して発注する必要がある。
(日本アイアール株式会社 A・A)