3分でわかる技術の超キホン エンドトキシンとは?(リムルス試験、測定・検出法の整理)
「エンドトキシン」という言葉について、医療、医薬品、医療機器、その他健康産業関係の方はよく耳にされていると思いますが、他の分野の方はほとんどご存知ないのではないでしょうか?
エンドトキシン(Endotoxin)とは?
内毒素とも呼ばれ、化学的実体は、大腸菌、サルモネラ菌などの、ある種の細菌(グラム陰性菌)の細胞壁成分であるリポ多糖(Lipopolysaccharide, LPS)で、生活環境のどこにでも存在する代表的な発熱性物質(パイロジェン(pyrogen))です。エンドトキシンが血液中に入ると発熱、敗血症性ショック、多臓器不全、頻脈等などの作用が起こることから、医薬品や医療機器、特に注射剤、輸液、透析液などの生体内へ直接導入される液体や、注射器、人工臓器、透析膜などの医療機器の製造においては、厳重な管理が必要となります。
[参考文献:「発熱原」、『生物学辞典』、第4版、岩波書店 参照]
LPSを子宮頸がんワクチンのアジュバントとして使用するという例もありますが、医薬品や医療機器からエンドトキシンを除去したり、エンドトキシンが含まれないことを確認することが、より重要と言えるでしょう。
特に、細菌を用いて製造した医薬品(遺伝子組換タンパク質、遺伝子治療に用いるDNAなど)ではエンドトキシンを完全に除去することが不可欠です。
以下、ここではエンドトキシンの測定(検出)に焦点を当ててご説明したいと思います。
エンドトキシン試験/リムルス試験
医薬品中のパイロジェンの検出は、かつてはウサギに投与して発熱を検査するウサギ発熱性試験が用いられていましたが、近年では、カブトガニの血球成分がエンドトキシンにより凝固することを利用したリムルス試験で置き換えられています。
リムルス試験によるエンドトキシン試験は、日本薬局方(JP)、米国薬局方(USP)および欧州薬局方(EP)に記載されおり、3薬局方において基本的な考え方や操作方法は同じです。
リムルス試験の原理
リムルス試験は、カブトガニ(Horseshoe Crab、学名:米国産Limulus polyphemus 又は日本産 Tachypleus tridentatus)の血球抽出成分より調製されたライセート(Limulus amebocyte lysate;LAL)試薬(リムルス試薬とも呼ばれる)を用いて、グラム陰性菌由来のエンドトキシンを検出又は定量する方法です。
ライセートとエンドトキシンの反応機構(カスケード反応)は以下に示したとおりで、C因子(Factor C) がエンドトキシンにより活性化し活性化C因子 に、B因子(Factor B)が活性化B因子に順次連鎖的に活性化し、最終的に 天然の酵素基質コアギュローゲン(Coagulogen) が コアギュリン(Coagulin)に加水分解されてゲル化が起こります。
これを利用し、試験管中で試料と反応させたリムルス試薬がゲル化するかどうかを目視で観察する半定量法(ゲル化転倒法)が最初に開発され、現在では定量的に測定可能なゲル化法も利用されています。
また、このゲル化は濁度増加をともなうために比濁法による測定も行われています。
さらに、合成基質(ペプチド-pNA)を共存させ pNA(p-ニトロアニリン)が遊離して黄色に着色する発色合成基質法(比色法)による測定も行われています。
なお、リムルステストは真菌(カビ、酵母、キノコ)の細胞壁成分であるβ-グルカンでも陽性を示します。
そこでエンドトキシン特異的方法が開発され、敗血症の補助的診断法として用いられています。
また、β-グルカンに反応することを利用してβ-グルカンの測定法にも利用されています。
余談ですが、カブトガニは姿を変えずに2億年以上も生き続けていることから、「生きる化石」ともいわれる生物ですが、医療のためとはいえ、このような貴重な生物を捕獲して血液を採取して良いのか、と心配される方も多いと思います。
しかし、心配は無用です。カブトガニからの血液採取は以下のような方法で行われています。
先ず、生きたまま体を洗浄し、体を折りたたんで台に固定、次にステンレス鋼の針を使って青い血液を採取、採血量は、カブトガニの体内血液の30%にあたります。
その際、3%程度の個体は死んでしまいますが、その他は捕獲した場所から少し離れた海へリリースされます。
つまり、カブトガニの献血によってリムルス試薬は製造されているのです。
また、近年、上記のカスケードに関わる各因子を遺伝子組換えで製造する技術も実用化され、将来カブトガニを利用する必要がなくなる日も近いようです。
エンドトキシン試験の特許調査をするなら?
リムルス試験によるエンドトキシン試験に関する特許調査をするなら、先ず以下のような分類(FI)をチェックしてみましょう。
リムルス試験によるエンドトキシン試験に関する主なFIはG01N33/579(カブトガニ細胞溶解産物を含むもの)です。また、上記カスケード反応は、タンパク質分解酵素反応ですので、C12Q1/37(ペプチダーゼまたはプロテイナーゼを含むもの)も関係するFIです。
ただし、このFIにはタンパク質分解酵素反応を利用する他の多くの測定に関する公報も含まれていますので、FI単独で使用しないで、キーワードと組み合わせた方が良いと思います。
上記2分類のみを用いて検索した結果は以下の通りです。(2018年5月10日現在。日本特許庁J-PlatPatによる検索結果)
- ①G01N33/579/FI ⇒ヒット件数 252件
- ②C12Q1/37/FI ⇒ヒット件数 2034件
なお、エンドトキシン試験に関するFタームは2G045DA25(生物学的材料の調査,分析⇒対象成分(有機物)(DA00)⇒・エンドトキシン)ですが、このFタームだけでは不十分なようです。
- ③2G045DA25/FT ⇒ヒット件数 71件
一方、キーワード検索はどうでしょうか?
試しに、以下の関係するキーワードを請求項に含む公報を検索してみました。その結果は以下の通りです。
上記のキーワードだけによる検索では、おそらくリムルス試験によるエンドトキシン試験だけでなく、医薬品原料からのエンドトキシン除去、エンドトキシン(LPS)そのものの生理活性に関わるもの、医薬品の作用メカニズムにLPSが関わるもの、エンドトキシン吸着材、水処理等、目的としない公報が多数含まれているようですので、FI等の分類で絞った方が良さそうです。
そこで、上記キーワードをFIのサブクラスレベルで絞り、①のFIと③のFタームの検索結果を加えてみました。
[G01N33/579/FI]+[2G045DA25/FT]+[エンドトキシン/CL+endotoxin/CL+内毒素/CL+Limulus/CL+リムルス/CL+リムラス/CL+polyphemus/CL+ポリフェムス/CL+Tachypleus/CL+タキプレウス/CL+tridentatus/CL+トリデンタタス/CL+トリデンタツス/CL+カブトガニ/CL+LAL試薬/CL+[amebocyte/CL*lysate/CL]+[アメボサイト/CL*ライセート/CL]]*[C12Q/FI+G01N/FI] ⇒ヒット件数 657件リムルス試験によるエンドトキシン試験に関する検索としては、上記の検索が妥当な線かもしれません。
皆さまもぜひ特許検索を試してみてください、
(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
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