ドラッグデリバリーシステム(DDS)が注目される理由とは? メリットや活用例などを解説
医薬品開発においてドラッグデリバリーシステム(DDS)が提唱されてから半世紀以上になります。
DDSは、これまでも様々な開発が行われ、発展してきました。
近年、患者のQOL(quality of life/生活の質)向上が求められるようになり、さらに注目を集めています。
本コラム記事では、DDSが注目される理由、メリット、活用などをご紹介します。
DDSにこれまで関わることがなかった方も、ぜひ、最後まで目を通してみてください。
目次
1.ドラッグデリバリーシステム(DDS)ってどんな技術?
「ドラッグデリバリーシステム」(Drug Delivery System / DDS)は、日本語で「薬物送達システム」と訳される、製剤技術の一つです。
- 適切な場所
- 適切な量
- 適切な時間
DDSは、上記をモットーに、必要な薬効成分が、疾患部位に正確に届き、適切な時間のみ作用するよう調整されます。薬効成分の分布を制御し最適化することで、治療効果を最大限に高めつつ、副作用を最小限に抑える技術です。
[※関連コラム:3分でわかる技術の超キホン ドラッグデリバリーシステム(DDS)とは? はこちら]
2.ドラッグデリバリーシステム(DDS)が注目を集める理由
近年、DDSが改めて注目を集めています。
その背景には以下のような事情があります。
- 新薬開発のリスク増大
- 高分子量生理活性物質の登場
- 特許切れ大型医薬品の増加
それぞれについて簡単に解説します。
(1)新薬開発のリスク増大
世界的にみても、近年、新薬の承認には安全性などの観点から、大規模な臨床試験の実施が求められるようになっています。そのため、新薬開発には、多額の研究開発費用が必要となります。
DDSは、このようなハイリスク・ハイリターンを避け、開発リスクを極力軽減し、創薬の成功確率を高められる技術として、注目が集まっています。
(2)高分子量生理活性物質の登場
近年、バイオテクノロジーの進展に伴い、従来の低分子化合物や核酸医薬品など、新たな医薬品が開発されています。
これら高分子生理活性物質を安定させて標的部位へ届ける手段として、DDSが注目されています。
(3)特許切れ大型医薬品の増加
降圧剤や糖尿病治療薬などで、大型医薬品の特許切れが大きな話題となったことは記憶に新しいのではないでしょうか。
DDSは特許切れに伴う売上高減少に備えた有効な手段として注目を集めており、様々なDDSの開発が進められています。
3.ドラッグデリバリーシステム(DDS)の特長・メリット
DDSは、患者のQOL向上に欠かせない技術です。その主な特長をご紹介します。
(1)副作用を抑えられる
多くの医薬品には副作用がありますが、DDS技術により副作用を減らす効果が期待できます。
DDS技術は、薬効成分を体内に広げず、疾患部位で的確に作用させることが可能です。
標的部位以外への薬剤の影響を極限までなくし、副作用を最小限に抑えることができます。
(2)薬剤の投与量を減少できる
薬効成分が疾患部位に効率よく届くため、必要最小限の投与量で最大限の効果が期待できます。
日に何度も投薬したり、大量の薬剤を摂取することは、患者の身体だけでなく、精神的にも大きな負担になります。
DDSは、投薬回数や1回の投薬量を抑えることができるため、患者の負担軽減効果が期待できます。
4.ドラッグデリバリーシステム(DDS)の活用例
DDSは、冒頭でも述べたとおり歴史のある概念で、現在に至るまで様々な技術が開発されています。
DDSの中でもより広く知られている分子DDSと、最新のナノテクノロジーを活用したナノDDSをご紹介します。
(1)分子DDS
分子DDSは、以前から活用されている、薬物代謝を活用し、薬剤の欠点を補うタイプの医薬品です。
主な分子DDSに次のものがあります。
- プロドラッグ
- アンテドラッグ/ソフトドラッグ
① プロドラッグ
プロドラッグは、副作用の軽減や吸収改善などを目的に、薬剤の構造を変えて、体内で薬効を示す構造に変換された薬剤です。薬効を示す薬剤に別の分子を付加し、薬効を示さない構造で投与します。投与後、体内の酵素などで付加した分子が外れると薬効を示します。
歴史のあるDDSの一つで、溶解性、吸収性、膜透過性、安定性など、薬剤の欠点を改善するための分子修飾法として、今も多くの薬剤で活用されています。
[※関連コラム: 3分でわかる技術の超キホン プロドラッグとは? はこちら]
② アンテドラッグ/ソフトドラッグ
アンテドラッグ/ソフトドラッグは、標的部位で薬剤が薬理効果を示した後、速やかに不活性化されるよう設計された薬剤です。
副作用のない安全性の高い薬剤として、局所投与用のステロイド剤などで活用されています。
[※関連コラム: 3分でわかる技術の超キホン アンテドラッグ/ソフトドラッグとは? はこちら]
(2)ナノDDS
ナノテクノロジーを活用した「ナノDDS」は、DDS技術の中でも長年注目されてきました。
現在、カプセル状のリン脂質などの微粒子に薬剤を内包したリポソーム製剤が実用化されています。
ナノDDSは、ナノレベルサイズの輸送用分子に薬剤を内包し、外部から制御して標的部位まで輸送する技術です。特に、ナノレベルの分子で特定の遺伝子を輸送し、特定の部位での遺伝子発現を制御する核酸医薬品には欠かせない技術として、核酸医薬品開発の観点からも注目が集まっています。
[※関連コラム:3分でわかる技術の超キホン 「ナノDDS」は何が凄いのか? はこちら]
5.ドラッグデリバリーシステム(DDS)の活用
DDS技術は、新医薬品の開発だけではなく、既存薬の改良に活用されている技術です。
また、副作用や製剤上の理由で開発を断念せざるを得なかった薬物を、DDSを活用することで実用化できることもあります。
新たな医薬品開発が難しくなっている昨今、DDSは非常に可能性を秘めた技術の一つと言って過言ではないでしょう。
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(アイアール技術者教育研究所 S・N)
《引用文献、参考文献》
- [1]【DDSの現状と展開】第1回 「DDSとは何か?」|薬事日報ウェブサイト
- [2]【DDSの現状と展開】第2回 「DDSの3大テクノロジー」|薬事日報ウェブサイト
- [3]【DDSの現状と展開】第3回 「DDSと医薬開発システム」|薬事日報ウェブサイト
- [4]ナノテクノロジー×ドラッグデリバリーシステム「ナノDDS」のいま | AnswersNews