《初心者向け》バッテリーマネジメントシステム(BMS)の機能・構成・活用例を解説!
バッテリーマネジメントシステム(BMS)は、リチウムイオン電池などの二次電池を使う際に不可欠な存在です。バッテリーを安全に扱うためだけでなく、寿命を延ばしたり、エネルギーの安定供給に貢献したりといった役割があります。しかし、BMSと聞いてなぜ必要なのか、具体的な構成要素やどんな分野で使われているかをすぐに思い浮かぶ人は少ないかもしれません。
本記事では、BMSの概要と役割、構成要素、活用事例など基礎知識をわかりやすく解説します。
目次
1.バッテリーマネジメントシステム(BMS)とは?
「バッテリーマネジメントシステム」(BMS:Battery Management System)とは、リチウムイオン電池をはじめとする二次電池パックの安全性・性能・寿命の最大化を目的に、電池の状態監視や制御を行う電子システムのことです。
経済産業省の調査によると、二次電池などの蓄電池市場は2030年には約40兆円、2050年には約100兆円の規模に拡大する見込みと考えられています1)。そのため、電気自動車(EV)・家庭用蓄電池・ポータブル電源・産業用設備など、さまざまな分野で二次電池を制御するBMSの重要性が高まっています。
【図1 バッテリーマネジメントシステムの概要】
エネルギー密度が高く利便性の良いリチウムイオン電池ですが、取り扱いを誤ると発火や、感電といった危険があります。リチウムイオン電池を安全に使用するために、BMSが重要な役割を果たします。
2.なぜBMSが必要なのか?
二次電池の使用には不可欠なBMSですが、そもそもなぜ必要なのでしょうか。
以下にBMSが必要な理由を詳しく解説します。
バッテリーを安全に使用するため
BMSを使用する最も重要な理由は、バッテリーを安全に使用するためです。
リチウムイオン電池などの二次電池は高いエネルギー密度と利便性を持つ一方で、過充電や過放電などが原因となる発煙・発火・爆発などの重大事故リスクを常に抱えています。そのため、設計や運用のわずかな誤りが大事故の原因となるのです。またバッテリーの劣化や異常状態を早期発見できない場合、長期利用時にも安全面で大きなリスクが生じます。
これらのリスクを最小限に抑えるために、BMSの導入は不可欠です。
バッテリーの寿命を延ばすため
BMSの必要性の一つとして、バッテリーの寿命を延ばすための役割があります。これはBMSがバッテリーの状態を細かく監視し、充放電の適切な制御や劣化要因の抑制を行うことで、バッテリーの性能低下を遅らせ、長期間の使用を可能にすることを指します。
リチウムイオン電池などの二次電池の寿命は、過充電や過放電、温度異常、セル間の不均衡など、さまざまな要因に影響されます。これらが適切に管理されないと電池の劣化が早まり、使用可能なサイクル数や容量が大幅に減少してしまいます。
BMSは、過充電・過放電の防止やセル(単位電池)間のバランス調整、温度管理により、バッテリーの寿命を延ばすことに貢献しています。
エネルギーを安定的に供給するため
BMSは、エネルギーを安定的に供給するためにも必要です。バッテリーセルごとの状態の微妙な違いを精密に監視・制御し、バッテリーパック全体を最適かつ安全に運用することで継続的な電力供給を可能にしています。
具体的には、BMSがセルバランシング(セル間の充電バラツキの平均化)を実行し、全セルが同じペースでエネルギーを蓄え放出できるように調整します。また過充電や過放電、過電流、過熱などの異常状態を検知し、充放電を制御・遮断することで、バッテリーの劣化や事故を防ぎます。
このように、BMSはセルごとの状態ばらつきを均一化し、過充放電や異常を防ぐことでバッテリーを最適に運用し、電力供給の安定性と信頼性を確保しています。
3.BMSの機能
リチウムイオン電池などの二次電池を安全に使用するために、BMSにはいくつかの役割があります。
以下にBMSの機能・役割を詳しく解説します。
(1)過剰な充電や放電からバッテリーを保護
BMSには二次電池の過剰な充電や放電からバッテリーを守る役割があります。過剰な充電が起こると電池内部の化学反応が異常に進み、最悪の場合は発火や爆発が起こりかねません。また過剰な放電が進むと電池内部にダメージが入り、容量低下や性能劣化を引き起こす可能性があります。
このようなリスクを低減させるために、BMSでは以下のような仕組みが備わっています。
- 電子スイッチを用い、過電圧になりそうなセルを回路から遮断する
- 使用時に電池の電圧が下限に近づくと放電経路を遮断し、さらなる放電を防止する
- 過大な電流が流れないように監視し、必要時には遮断する
過剰な充電や放電を回避することで、安全性の確保とバッテリーの長寿命化を実現しています。
(2)充電バラツキの平均化
BMSは、バッテリーパック内のセルごとの充電状態のバラツキを平均化し、全体の性能と寿命を最大化する重要な役割を担います。
バッテリーパックは通常、複数のセルを直列につないで構成されます。しかし、個々のセルはわずかな製造バラツキや経年劣化、温度差などによってほんの少しずつ容量や充放電特性が変わってきます。
セル電圧にバラツキが出ると、一部のセルが先に満充電または過放電状態になります。その結果、全体のバッテリー容量が本来の定格よりも低下するだけでなく、過充電や過放電による劣化・故障リスクが高まります。
【図2 セルバランシング】
セル電圧などのバラツキを継続的に監視・補正し、全セルの状態を均一に保つことで、バッテリーの長寿命化や安全性の確保につながります。
(3)セルの電圧や温度の監視
BMSは、セルごとの電圧や温度をリアルタイムで監視することで、電池全体の安全性・信頼性・長寿命化を実現する役割を担っています。リチウムイオン電池などの二次電池は、過充電や過放電、過熱による発煙・発火・劣化リスクが存在します。そのため、セル1つ1つの状態を的確に把握し、異常を即座に検知・対策することが不可欠です。
電圧監視は、各セルの電圧を高精度なセンサーで測定し、所定の安全範囲を外れた瞬間にシステムが検知する仕組みとなっています。
また温度監視は、各セル、あるいはセル周辺に配置した温度センサーで過熱や急な温度変化を監視し、温度が危険域に達した場合には充放電の制限や停止、冷却ファン制御などを行います。
このように、セルの電圧や温度の監視は、バッテリーパック全体の安全性・性能・寿命を守る最も重要な機能のひとつです。
(※セル電圧・セル温度の測定方法については、別コラム「リチウムイオンバッテリの特徴とバッテリマネジメントシステム(BMS)の仕組み」で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。)
4.BMSの構成要素
BMSは、電池パックの安全性・信頼性・長寿命化を実現するために複数の重要な構成要素で成り立っています。ここでは、BMSの構成を理解しやすいように、電気自動車(EV)のシステムを図3に示します。
【図3 バッテリーマネジメントシステムの構成要素】
BMSには主に以下の要素が備わっています。
- セル監視用ユニット: 各セルの電圧・電流・温度をリアルタイムでセンシングし、異常値が検知された際のアラート発報や制御信号を出力します。
- マイクロコントローラ: 各種センサーからのデータを集約し、充放電管理や保護制御などを実行します。
- セルバランサー: バッテリーパック内セル間の電圧差を調整し、パック全体の性能維持、長寿命化を図る役割を担っています。
- 保護回路: 万が一過充電や過放電、温度異常などが発生したときにバッテリー接続を瞬時に遮断するために搭載されています。
これらの構成要素が一体となり、BMSは安全・高効率・高信頼なバッテリー運用を実現しています
5.BMSの活用事例
BMSはリチウムイオン電池などの二次電池が用いられている場所に広く活用されています。
以下でBMSの活用事例を紹介します。
(1)電気自動車(EV)
電気自動車の心臓部ともいえるリチウムイオンバッテリーを、安全・効率的・長寿命に使うために不可欠なのがBMSです。具体的なEVでのBMS活用事例としては、テスラや日産リーフなどが挙げられます。
テスラでは、高度なBMSが全セルの詳細データを随時クラウド経由でアップロードし、AI解析を活用した劣化予測や制御最適化を実現しています2)。
また日産リーフでは、バッテリーパックの温度管理やセルバランス、残量表示など基本的なBMS機能はもちろん、急速充電や寒冷地利用にあわせた最適な充放電管理も行っています3)。
最近のEVでは、BMSがAI・クラウド連携に対応し、常時制御アルゴリズムを進化させることで、現実の走行条件に最適化したバッテリー制御ができます。これにより、急速充電時の劣化抑制や大容量パック化への対応なども進んでいるのです。
(2)家庭用エネルギー貯蔵システム
家庭用エネルギー貯蔵システムにおけるBMSは、太陽光発電と連携し、効率よく安全に電気を貯めて使うための役割を担っています。
例えば、太陽光発電と家庭用蓄電池の連携例では、日中に余った電力を蓄電池に貯めて、夕方や夜間の自家消費に活用します。BMSが充放電のタイミングや蓄電量の安全制御を担い、電力の自給自足率を高めてくれるのです。
またEMSやスマートデバイスと連動して電気の使い方を最適化してくれるので、コスト削減や効率的なエネルギー利用につながります。このように、太陽光発電によって発生した電気を安全に効率的に活用するための重要な役割を果たしています。
(3)産業用ロボット
産業用ロボットにおけるBMSは、工場や物流倉庫などで稼働するロボットに搭載されるバッテリーを見守っています。
産業用ロボットは長時間・高負荷稼働が多いため、セルごとのばらつきが生じやすい弱点があります。この弱点をBMSによるセルバランス機能でセル間の充電状態を均一化し、バッテリー全体のパフォーマンスと寿命を維持できるのです。
ほかにも、工場の高温環境や高速動作時にバッテリーが過熱しやすい中、BMSは適切な温度管理と負荷分散を実現してくれます。産業用ロボットにおいて活躍しているBMSは、単なる電池の見張り役にとどまらず、ロボットの長時間自律稼働、メンテナンスレス、安全性確保などを支える役割を担っているのです。
6.まとめ
本記事ではバッテリーマネジメントシステム(BMS)の概要から役割、構成要素、活用事例をわかりやすくまとめました。BMSはリチウムイオン電池などの二次電池を扱う上で欠かせないシステムになっています。本記事の内容を参考にBMSの基礎に触れ、業務に活かしていきましょう。
より専門的な知識を習得したい場合は、専門セミナーの受講をおすすめします。
当サイトでもリチウムイオン電池やBMSに関するさまざまなセミナーを紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
(日本アイアール株式会社 MTGR)
《引用文献、参考文献》
- 1) 経済産業省 ニュースリリース2023年12月 参考資料(蓄電池)
https://www.meti.go.jp/press/2023/12/20231222005/20231222005-06.pdf - 2) テスラジャパン橋本社長が自ら解き明かす! 充電やバッテリーにまつわる「5つの誤解」2025.03.10
https://tocj.jp/ownersfile/2454/ - 3) Monolithic Power systems 電気自動車におけるBMSの実装
https://www.monolithicpower.com/jp/learning/mpscholar/battery-management-systems/case-studies-in-bms/bms-implementation-in-electric-vehicles?srsltid=AfmBOoqLlp4Chkuf5RNnK7zjn63BMsBV5uA5lZttB3mnJOccD-6u-K3n