3分でわかる技術の超キホン 光通信の光源に使われる半導体レーザ(LD)の材料選定
今回は、光通信の光源として使われる半導体レーザ(LD)の材料選定について説明します。
1.材料選定の条件はpn接合・直接遷移・バンドギャップ
光ファイバ通信用として使用可能な半導体レーザを作製するためには、以下の3つの条件を満たす半導体材料が必要になります。
- pn接合が形成できること(※1)
- 直接遷移型半導体であること(※2)
- 所望の波長に対応するバンドギャップをもつこと
(※1) pn接合の前提知識についてはこちらのページをご参照ください。
(※2) 直接遷移型半導体の解説はこちらのコラムをご覧下さい。
これらの条件を満たす半導体材料は、三元または四元系の混晶半導体になりますが、三元系の場合はバンドギャップと格子定数が同時に変化してしまいます。
そのため、主に光通信用デバイス材料としては、四元系の混晶半導体であるInGaAsPが使われています。
2.InGaAlAs
表1に元素の周期表の一部を示します。
表では最上段に長周期型の族を記載しています。
12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ |
B | C | N | O | |
Al | Si | P | S | |
Zn | Ga | Ge | As | Se |
Cd | In | Sn | Sb | Te |
Hg | Tl | Pb | Bi | Po |
【表1 元素の周期表(一部)】
光通信用としてよく用いられる半導体は、Ⅲ-Ⅴ族の化合物半導体を中心とするものです。
GaAs中心とInP中心とし、それらの近隣の元素であるAl、In、P、Sbを混晶半導体にした材料が用いられています
例として、InGaAsPについて説明します。
四元系の混晶半導体であるInGaAsPは、InAs、GaAs、InP、GaPの4つのⅢ-Ⅴ化合物から成る混晶半導体です。
混晶組成を特定する場合には、次のように表記されます。
InxGa1-xAs1-yPy(0≦x≦1、0≦y≦1)
ここで、x、yは混晶組成になります。
では、上記の3条件についてみていきましょう。
(1)pn接合が形成できること
pn接合を形成する際には、基板となる半導体材料に、薄膜pn接合をエピタキシャル成長させて作ります。
そのため、良好な薄膜結晶が成長するには、基板半導体と材料の格子定数が極めて近いことが望まれます。
したがって、材料を選択するときには格子定数も考慮する必要があります。
(2)直接遷移型半導体であること
例えばInxGa1-xAs1-yPyの場合、ほとんどの組成は直接遷移型半導体になりますが、x、yの値によっては間接遷移型半導体となる場合もあります。
(3)所望の波長に対応するバンドギャップをもつこと
四元系の混晶半導体では、バンドギャップと格子定数を独立に変化させることができます。
InxGa1-xAs1-yPyでは、2つの変数xとyを1から0の範囲で変化させることにより、基板との格子整合条件下でバンドギャップなどの物性を制御できます。
バンドギャップを変化させることで、理論上は波長を560~3440nm程度まで変えることができます。
しかし、実用上は基板としてInPを用いて結晶成長させるため、InPとInxGa1-xAs1-yPyの格子定数が整合するxとyの値にする必要があるため、可変波長範囲は900~1700nmとなります。
この波長帯は、光ファイバ通信における光損失(吸収損失)が小さい波長帯(※3) です。
そのため、光通信用デバイス材料としてInxGa1-xAs1-yPyが重宝されています。
(※3) 光損失(吸収損失)の解説はこちらをご参照ください。
(日本アイアール株式会社 N・S)