手術支援ロボット「ダヴィンチ」の基礎知識
「ダヴィンチ」(da Vinci)は、ニュースでもときどき取り上げられてる手術支援を行うロボットです。
外科手術を刷新したといわれてますが、そのダヴィンチの特許が近々切れることから、日本での開発も加速しているようです。
目次
1.ダヴィンチの日本での適用
日本では09年に医療機器として承認された手術支援ロボットは、12年に前立腺がん全摘手術、16年に腎臓がん手術に保険適用されていましたが、日本では、ダヴィンチは1台約2憶5000万円と高額であったことから、保険適用の拡大が待望されていました。
今年になって、肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、膀胱がんなどで保険適用が追加承認されました。これで、主要な固形がんはほぼ全てがカバーされることになりました。
日本ロボット外科学会によれば、国内の症例数は15年に1万3000件(累計で3万件)に上り、前年比36%もの増加となっています。
2.ダヴィンチの開発経緯
ダヴィンチは元々、戦時の遠隔医療用に開発されたロボットでした。
アメリカ陸軍とスタンフォード研究所(SRI)が種々の研究を行い、それらの技術が大学やベンチャー企業に移譲され、市場から資金を調達して製品化がされました。
遠隔手術の研究もその一つで、成果を引き継いだ1社が外科手術用機器を製造するインテュイティブ・サージカル社でした。
「ダヴィンチ」初号機は、当初はがん手術用ではなく心臓手術用として製品化されたようです。
2000年にFDA(アメリカ食品医薬品局)から承認を受け、日本では上述の通り、2009年に厚生労働省から医療機器として承認されています。
3.ダヴィンチのメリット
- ロボット手術は患者にとっては、開腹手術に比べて手術創(傷口)が小さく、出血も少ない、手術時間が短くなる、麻酔の使用も少なくてすむ等々のメリットがあります。さらに、術後の回復が早くなり、入院日数も少なくなるというQOL(生活の質)上のメリットがあり、その結果医療費負担も軽減されます。特に高齢者には歓迎されています。
- 従来の内視鏡は2次元画像が主流だったのに対して、3次元画像モニターを搭載していて高精細な視覚情報が得られ、より深部の手術を可能としています。また、手ぶれ防止機能があり、手術者の細かな手の震えで血管を傷つけてしまうミスも防げます。関節の自由度は高く、人間の手首より広い可動域があり、さらに、座って操作するので疲れにくく、外科医としての職業的な寿命を延ばすとも言われています。
4.ダヴィンチのデメリット
- 一番は何といっても、機器の維持コストが非常に高いことが挙げられます。維持費用は年間で2000万円かかるとされています。米国や韓国はセンター方式で、1施設の手術が集中し、件数をこなすことができるので、早期の減価償却に繋げることができます。一方日本は、各施設が医療機器を持って、手術を行うため、この減価償却が難しく、結果として入院費用が高くなってしまいます。
- 人工知能(AI)を搭載した自律的なロボットではないため、手術者がダヴィンチ手術の技術を取得しなくてはなりません。慣れるまで経験を積む必要があり、執刀医は100例以上のロボット支援下手術を行わないと治療成績で開腹手術を上回れないとされています。日本で担当できる執刀医(「ダヴィンチ・パイロット」)は全国に2000人足らずしかいない状況です。
5.ダヴィンチの現状
手術支援ロボットは、日本を含む世界中の市場を、1社がほぼ独占している状況です。
米国のベンチャー企業であったインテュイティブサージカル社の「ダヴィンチ」は、2000年に米食品医薬品局(FDA)に承認され、世界で4000台超、国内では約250台導入が導入されており、インテュイティブ・サージカルによると、2016年の第1四半期以来、12~18%の2ケタ成長を続けているとのことです。
6.ダヴィンチと特許
ダヴィンチの欠点を補うべく手術支援ロボットの開発が行われていますが、ダヴィンチには多くの特許があり、特にワイヤーによる鉗子先端の動きなどは、ほぼ特許で押さえている状況でした。
しかし、2015年以降、重要な部分であるワイヤーの特許切れを皮切りに、周辺の特許も期限切れを迎え、来年2019年に大部分の技術の特許が切れるようです。
特許切れによって、日本企業の参入が期待されています。
7.日本の開発状況
東京工業大学発のベンチャー企業であるリバーフィールド社は、空気圧による制御技術を応用して、手術者に力覚が伝わる技術を搭載した手術支援ロボットを開発しており、20年の実用化を目指しています。
また、メディカロイド社は、内視鏡や手術器具がしなやかに曲がり奥まで届くアームを備えたロボットを開発中で、こちらも20年に医療機器として承認されることを目標としています。
保険適用拡大により普及が後押しされることで、ダヴィンチに続く手術支援ロボットの開発が一挙に進むことも予想され、低価格で性能の良い国産の手術支援ロボットが広まることが望まれていますが、一方で指導者不足も新たな問題点となることが危惧されています。
8.手術支援ロボットに関する文献・特許をしてみると?
2018年9月の段階で、文献データベース”J-GLOBAL”で「手術支援ロボット」というキーワードで検索してみると、文献が442件ヒットしました。有用性、開発関連、将来展望などの文献が多いようです。
また、日本特許庁の特許データベース”J-PlatPat”で、検索対象範囲を”請求の範囲”として「手術支援ロボット」で調べると、8件しかヒットしませんでした。
そこで、検索対象範囲を”全文”にする一方、なるべくノイズが増えないように近傍演算(近接演算)を使い、
論理式を (手術,10N,(支援,10N,ロボット))/tx として検索してみたところ601件の該当がありました。
いくつか見てみると、部品やシステムの特許が目立ち、特許分類(FI)としてはA61B[診断;手術;個人識別]が多いようです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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