化学

炭化ケイ素繊維とは?炭素繊維よりもタフ?構造・特性・製法の違いを比較解説

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炭素繊維と炭化ケイ素繊維

炭素繊維は、皆さんもよくご存じの材料ではないでしょうか。実は、この炭素繊維と名称がよく似ていながら、より高温環境に強い特性を持つ「炭化ケイ素繊維」という材料が存在し、近年注目を集めています。
本記事では、炭素繊維と炭化ケイ素繊維にはどのような違いがあるのかを、わかりやすく解説します。

1.炭素繊維と炭化ケイ素繊維の構造・物性比較

表1に炭素繊維と炭化ケイ素繊維の構造および物性の比較を示します1)

 

【表1 炭素繊維と炭化ケイ素繊維の構造と物性】
炭素繊維と炭化ケイ素繊維の構造と物性

 

(1)結晶構造と基本特性の違い

まず炭素繊維は炭素のみからなるのに対して、炭化ケイ素繊維は炭素とケイ素が基本的に1:1の組成です。
また、炭素繊維がsp2結合を有し二次元のグラファイト構造を持つのに対して、炭化ケイ素繊維はsp3結合からなり、3次元のダイヤモンド型結晶構造を持ちます。すなわち、炭化ケイ素繊維は炭素繊維中の半分の炭素を単にケイ素に置き換えたものではなく、結晶構造が異なります。

炭素繊維が黒色なのは皆さんご存じかと思います。炭化ケイ素の色相は不純物や欠陥構造に依存しますので、一定ではありません。無色透明に近いものから黒色のものまで存在します。炭素繊維は密度が1.7~2.0 g/cm³と軽量であることが特徴ですが、炭化ケイ素繊維の密度は3.1~3.2 g/cm³であり、やや重いのが特徴です。これはケイ素元素の寄与によるものです。機械的特性(引張強度、引張弾性率)の点では、両者は概ね同程度の性能を示します。

両者はプラスチック・セラミック・金属等と組み合わせた複合材料用の補強繊維として使用されるという点で共通しています。

 

(2)耐熱性と電気特性の違い

炭素繊維は主にプラスチックとの複合材料として、身近なテニスラケットやゴルフシャフトから産業用の風力発電用ブレードまで、既に幅広い分野で利用されている優れた素材です。
しかし、この材料にも欠点があります。炭素繊維の大きなデメリットは空気中での耐熱性が不足していることです。炭素繊維は不活性ガス中では1,000℃以上の高温に耐えられますが、空気中では300~400℃程度までしか耐えられません。これは炭素のみからなるという組成に起因する本質的な弱点であり、解決は困難です。

これに対して炭化ケイ素繊維は空気中でも1,200~1,400℃の高温に耐えられます。従って、炭化ケイ素繊維とセラミックス材料との複合材料は、航空機のエンジン部等の炭素繊維系複合材料には不適な分野でも使用できます。これは炭素繊維と炭化ケイ素繊維の実用上の最大の相違点であり、炭化ケイ素繊維への期待が最も高い点です。

電気的特性の点では、炭素繊維が導電体であるのに対して炭化ケイ素繊維は半導体~絶縁体ですので、導電性が好ましくない分野でも炭化ケイ素繊維は利用できます。

 

2.炭化ケイ素繊維の製法

では両繊維はどのようにして製造されるのでしょうか。炭素繊維の代表的な製法を図1-1に、炭化ケイ素繊維の代表的な製法を図1-2に示します。
原料からまず前駆体をつくり、これを紡糸して前駆体繊維を得た後に、さらに不融化・焼成処理により製品繊維とするという流れは両者で共通しています。

炭素繊維の原料は主にアクリロニトリルであり、これを重合することにより前駆体であるポリアクリロニトリル(PAN)としています。すなわち、炭素繊維はアクリル繊維の製造技術を応用して発展した材料という側面があります。日本の3社(東レ、帝人、三菱ケミカルグループ)が世界の生産をリードしています。

これに対して炭化ケイ素繊維の原料はジクロロシラン系モノマーであり、脱塩素反応を経て前駆体のポリカルボシランとします。なお図1-2の製法は東北大の矢島博士が開発した国産技術であり、日本カーボンやUBEなどの企業によって商業生産が行われています。

 

炭素繊維の代表的製造法
【図1-1 炭素繊維の代表的製造法】

 

炭化ケイ素繊維の代表的製造法
【図1-2 炭化ケイ素繊維の代表的製造法】

 

3.炭化ケイ素繊維の市場

炭素繊維は既に大きな市場を形成しています。2021年時点で世界の生産量は約7万トン/年2)、価格は3,600~4,000円/kg3)と推定されています。

一方、炭化ケイ素繊維は現時点では生産量がまだ少なく、また価格が非常に高いとされています。空気中での高温耐性という優れた特性への期待が大きい一方で、市場規模については信頼できる推定値がほとんど報告されていないのが実情です。今後炭素繊維並みの市場を確立するには大幅なコストダウンが必要とみられます。

 

4.炭化ケイ素繊維のコストダウンに向けた取り組み

これまでに以下のようなコスト低減の検討が報告されています。

  • 前駆体であるポリカルボシランを改良する検討4)
  • 熱可塑性樹脂をブレンドして紡糸を容易にする検討5)
  • 紡糸・熱処理プロセスの連続化6)
  • 分解条件の低温化の検討4)

日本発の炭化ケイ素繊維が、これらの検討により、将来的には新たな基幹材料技術へと発展することが期待されています。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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