V2Gの仕組み・メリット・課題をわかりやすく解説-EV時代のスマートグリッド中核技術

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V2Gの解説

電気自動車(EV)の普及が急速に進むなか、その存在は単なる“移動手段”を超えつつあります。かつてはガソリンを消費して走るだけだった車が、いまや電力を蓄え、家庭や社会へと供給する「エネルギー資源」へと進化しているのです。
この変化の中心にあるのが「V2GVehicle to Grid)」という新しい仕組みです。V2Gは、EVに搭載されたバッテリーを電力系統(グリッド)とつなぎ、電気を双方向にやり取りする技術です。これにより、EVは“走る蓄電池”として電力システムの一部となり、再生可能エネルギーの有効利用や電力の安定供給、さらには災害時の非常電源としても活用できるようになります。

本記事では、V2Gとは何かという基本的な意味から、実証の動向、V2Hとの違い、導入における課題、そしてスマートグリッドとの関係までをわかりやすく解説します。

1.V2Gとは

V2G」とは “Vehicle to Grid” の略称で、日本語では「車から電力系統へ」という意味を持ちます。
図1に示すように、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)に搭載されたバッテリーを、単なる移動手段の電源としてではなく、電力系統(グリッド)の一部として活用しようとする技術です。

 

V2Gの構成
【図1 V2Gの構成】

 

これまでEVは「充電するだけ」の存在でしたが、V2Gでは「充電と放電の双方向通信」を実現する点が特徴です。具体的には、電力需要が低い時間帯に車両へ充電し、需要が高いピーク時には車両から電力をグリッドへ供給することで、需給バランスの安定化や再生可能エネルギーの有効活用を図ります。(図2)

 

電力グリッドにおける車両の給電と放電
【図2 電力グリッドにおける車両の給電と放電】

 

2.再生可能エネルギーと電力システムの変化

再生可能エネルギーの導入が進む中で、電力供給は不安定化という新たな課題に直面しています。太陽光発電や風力発電は天候に左右されやすく、発電量が予測しづらいのが特徴です。そのため、電力系統における需給調整の柔軟性が求められています。

ここで注目されているのが「分散型電源」の概念です。家庭用太陽光発電や蓄電池に加え、EVが大量に普及すれば、これらが新たな“動く蓄電池”として機能し得ます。V2Gは、EVを分散エネルギーリソース(DER:Distributed Energy Resource)として統合し、スマートグリッドの一要素として活用する技術的枠組みといえます。

 

3.V2Gの仕組みと技術的構成

V2Gを実現するには、単にEVと充電器を接続するだけでは不十分です。双方向のエネルギー制御と通信を行うため、以下の要素技術が必要になります。

  • 双方向充電器(Bi-directional Charger):
    通常の充電器は「給電のみ」だが、V2G対応型は「充放電双方向」に対応。これによりEVバッテリーから電力系統へ電気を戻すことが可能。
  • エネルギーマネジメントシステムEMS):
    充放電のタイミングや量を制御するシステム。電力価格や系統需要、バッテリー残量などのデータをもとに最適化。
  • 通信プロトコル
    EVと電力網の間でデータを安全かつ高速にやり取りするための通信規格。(例:ISO 15118など)

このように、V2Gは「車両」「充電設備」「電力インフラ」「通信ネットワーク」という複数の要素が連携する複合技術です。(図3)

 

V2Gシステムの技術構成
【図3 V2Gシステムの技術構成】

 

4.スマートグリッドとの関係

V2Gは、スマートグリッドの中核技術の一つとして位置づけられています。
スマートグリッド」とは、通信技術を活用して電力の流れを最適に制御する次世代電力ネットワークのことです。
この中でV2Gは「モビリティを持つ蓄電池」として、家庭・企業・発電所を結ぶエネルギーフローの柔軟性を飛躍的に高めます。
また、AIやIoTを組み合わせた需給予測・自動制御が進めば、地域全体での最適エネルギーマネジメントが可能になります。V2Gは単なるEV技術ではなく、社会インフラ全体を変革する可能性を持つ技術です。

 

5.V2Hとの違い ― 家庭用電力との連携

V2Gとよく混同される概念に「V2HVehicle to Home)」があります。
両者の違いを明確に理解することが重要です。

 

V2G V2H
意味 Vehicle to Grid(車から電力系統へ) Vehicle to Home(車から家庭へ)
目的 電力系統全体の安定化、需給調整 停電時の家庭電源確保、電気代節約
主な利用環境 事業所・地域エネルギー網 一般家庭
関与主体 電力会社、送配電事業者 家庭、個人
 

V2Hは主に家庭用蓄電池の代替として使われ、停電対策や電気代節約に有効です。
一方、V2Gは電力インフラ全体に関わる仕組みであり、より広域的・社会的な意義を持っています。

 

6.世界および日本でのV2G実証

V2G技術の実用化に向け、世界各地で「実証実験」が進められています。

 

(1)欧州の取り組み

欧州では再エネ普及とEV化が急速に進んでおり、特にデンマークやオランダでは商用V2Gプロジェクトが先行しています。
デンマークのコペンハーゲン大学が行った実証では、EVを電力系統へ接続し、周波数調整市場で収益を得るモデルが成立しました。1台あたり年間数万円規模の収益を上げた例もあり、経済性の評価が進んでいます。

 

(2)日本での実証

日本国内でもV2G技術の実証が進んでおり、九州電力・電力中央研究所・日産自動車・三菱自動車工業・三菱電機の5社による共同実証事業が2018~2020年度に実施され、EVの系統需給調整への活用可能性が検証されています。また、東京電力グループもV2G関連の系統連携試験を行っています。
EVを集約制御(アグリゲーション、aggregation)して電力需給を調整する試みが進み、災害時の非常電源としての有効性も確認されています。特に「ニチコンV2G充電器」などが実用段階に入りつつあります。

 

7.V2Gがもたらすメリット

V2G(Vehicle to Grid)技術の最大の魅力は、EVを動く蓄電池として社会インフラに組み込める点にあります。V2Gのメリットをまとめると図4のようになります。

 

V2Gがもたらすメリット
【図4 V2Gがもたらすメリット】

 

ここでは、電力システム・経済・環境・社会の4つの観点から、V2Gがもたらす主な利点を詳しく見ていきましょう。

 

(1)電力系統の安定化と再生可能エネルギーの普及促進

電力需要は時間帯によって大きく変動し、発電量と消費量のバランス維持が重要です。V2Gはこの電力の需給調整において極めて有効です。

  • ピークシフトとピークカット
    昼間の電力需要ピーク時にEVから電力系統へ放電し、夜間や余剰電力が多い時間帯に充電することで、負荷平準化(ピークシフト)を実現します。この効果により、火力発電の稼働を減らし、発電コスト・CO₂排出を削減できます。
  • 再エネの変動吸収
    太陽光や風力のような変動電源は発電量が不安定ですが、EV群を蓄電リソースとして統合管理すれば、発電の“揺らぎ”を吸収可能です。たとえば太陽光が余る昼間にEVへ充電し、夜間に放電する仕組みを導入すれば、再エネの自家消費率を高め、電力系統安定に寄与します。
  • アグリゲーション(集約制御、aggregation)による需給調整力の向上
    数百~数千台のEVをネットワークで統合制御することで、発電所に匹敵する電力調整力を提供できます。欧州では既に、V2G車両が周波数調整市場(Frequency Regulation)に参加し、実際に収益を上げる事例も報告されています。

 

(2)EVオーナーへの経済的メリット

V2Gは、EV利用者に新たな経済的インセンティブをもたらす仕組みとしても注目されています。

  • 電力取引による報酬(アービトラージ、Arbitrage):
    電気料金の安い深夜に充電し、需要の高い昼間に売電する時間差取引により、差額収益を得ることが可能です。欧州や北米では、1台あたり年間数万円相当の報酬を得た事例もあります。
  • 電力市場への参加
    EVオーナーは、アグリゲーター(電力集約事業者、aggregator)を介して需給調整市場や容量市場に参加できるようになりつつあります。日本でも、東京電力・中部電力などがV2G実証で市場連携を検証しています。
  • 電気料金削減・再エネ利用促進
    家庭や事業所での自家消費型V2Gを活用すれば、電気料金のピーク部分を削減でき、再エネ由来電力の利用比率も高められます。

 

(3)災害時・停電時のレジリエンス(回復力)強化

日本のように自然災害が多い国では、V2Gの非常用電源機能が重要な役割を果たします。

  • 緊急時の電力供給源
    たとえば40kWhバッテリー搭載車の場合、家庭の平均電力使用量(1日約10kWh)を基準にすると、約4日分の電力を供給できます。停電時でも冷蔵庫や照明、通信機器を維持でき、避難所や病院での活用も期待されています。
  • 地域防災インフラとしての展開
    自治体では、災害時にEVを「移動型電源」として地域施設へ派遣する計画も進んでいます。実際、2023年の台風被害時には、EVを活用した緊急電源供給が複数自治体で実施され、V2Gの有効性が確認されています。

 

(4)環境負荷の低減とカーボンニュートラルの推進

V2Gは、電力システム全体の効率を高めることで、環境負荷低減とカーボンニュートラルの実現に幅広く貢献します。

  • 再エネ活用の最大化
    発電・消費の時間差を埋めることで、再生可能エネルギーの廃棄(出力制限)を減らせます。特に太陽光発電の余剰電力をEVに一時蓄電することで、クリーンエネルギーの有効利用が進みます。
  • 発電設備の最適化
    電力需要のピークが下がることで、ピーク時専用の火力発電設備(いわゆるピーカー発電所)を削減できます。結果として、発電インフラ全体の効率化とCO₂排出削減につながります。
  • EV普及の環境価値強化
    EVは走行時に排出ガスを出しませんが、V2G機能を組み合わせることで「走るだけでなく、社会全体の脱炭素に貢献する」存在となり、カーボンニュートラル社会実現への寄与度が格段に高まります。

 

(5)企業・自治体における新たなビジネス機会

V2Gは単なる技術ではなく、新たなエネルギーエコシステムを生み出す基盤でもあります。

  • フリート車両の活用最適化
    企業が保有する社用車や配送EVをV2G対応化することで、車両稼働の合間に蓄電・売電を行い、「稼働していない時間を収益化」できます。物流・自治体・建設業などで注目されています。
  • 地域マイクログリッドとの連携
    地域エネルギー事業では、V2G対応EVを分散電源として組み込み、災害時に自立運転できる“ローカルグリッド”の構築を目指す動きが広がっています。
  • カーボンクレジット取引への応用
    EV蓄電を通じてCO₂排出削減効果を算出し、カーボンクレジットとして取引する枠組みも検討されています。今後、企業のESG評価*1)やRE100*2)対応の一環としてV2G活用が進む可能性があります。

     
    *1) ESG評価:企業が環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)において、いかに持続可能な経営を行っているかの評価
    *2) RE100:企業が使用する電力を100%再生可能エネルギーとすることを目指す国際的イニシアチブ

 

(6)社会的メリットと電力民主化

V2Gの普及は、電力のあり方を「供給されるもの」から「共有するもの」へと変えるきっかけになります。これまで電力は大規模発電所から一方的に供給されてきましたが、V2Gによって、電気自動車を持つ人々が自ら電力の供給や調整に関わることが可能になります。つまり、誰もが電力システムの一員として、社会全体のエネルギーを支える存在になるのです。

この仕組みは、電力を消費するだけでなく生み出すプロシューマー(生産者兼消費者、prosumer)の考え方を広げます。V2Gを活用すれば、個人や地域が自らの電力を管理・共有でき、より柔軟で自立したエネルギー社会を築くことができます。

また、災害時には地域のEVが電力を融通し合うことで、停電時の支援やエネルギーの地産地消が可能になります。こうした仕組みが進めば、中央集権的だった電力供給から脱し、地域単位で支え合う「電力民主化」の流れが広がるでしょう。

 

V2Gのメリットの本質

V2Gがもたらすメリットは、単なる技術的利便性にとどまりません。
それは、電力システム・環境・経済・社会を横断する構造的な変革の原動力です。
EVが普及するほどその効果は加速度的に増し、個人と社会が一体となってエネルギーを最適に使う未来が近づいています。

 

8.V2Gの課題と今後の展望

一方で、V2Gの課題をまとめると図5のようになります。

 

V2Gの課題
【図5 V2Gの課題】

 

各課題について、今後の展望を説明します。

 

技術的課題

  • バッテリー劣化問題: 充放電サイクル・回数が増えることで、EVバッテリーの寿命が短くなる懸念があります。これに対しては最適制御技術やバッテリーマネジメントシステム(BMS)の高度化が必要です。
  • 通信・制御の標準化: ISO 15118やCHAdeMO V2Xなどの規格統一が進行中ですが、世界的な統一には時間を要します。

 

経済的・制度的課題

  • ビジネスモデルの未確立: V2Gサービスによる収益性がまだ限定的であり、EV所有者への明確なインセンティブ設計(報酬的なしくみ)が求められます。
  • 制度・法規制の整備不足: 電力取引や再エネ接続に関する規制緩和、系統アクセスルールの見直しが課題です。

 

社会的・インフラ課題

  • 普及インフラの整備: 双方向充電器はコストが高く、一般普及には価格低減と設置支援が不可欠です。
  • 利用者の意識変革: 車を「走る蓄電池」として活用する文化がまだ浸透していません。

 

9.おわりに

V2Gとは、電気自動車を単なる移動手段から「社会的エネルギーリソース」へと進化させる仕組みです。実証段階を経て、徐々に商用化の兆しが見え始めています。課題は多いものの、スマートグリッド化の進展、再生可能エネルギーの拡大、防災インフラの強化という観点からも、V2Gは次世代エネルギー社会の要となる技術です。
今後は、国や自治体、企業が連携し、技術標準化・制度整備・普及促進を進めることで、真の「EVと電力網の共生社会」が実現していくでしょう。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)


《引用文献、参考文献》


 

 

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