実験計画法「直交表実験」の基本をわかりやすく解説

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実験風景 実験

実験を行う際には、効率よく実験を進め、結果を適切に解析できることが必要です。
実験を適切に計画・実行することで、より少ない費用と時間で有効な結果が得られるようになります。

連載コラム「これならわかる実験計画法入門」の直交表編では、実験計画法や直交配列表(以下では「直交表」と呼びます)について、ある程度の基本知識を持っている方を対象に、「架空の実験についてデータの分析ステップを詳しく説明する」と言う形で直交表を用いた実験の進め方を全2回でわかりやすく説明します。

今回はその前編として、直交表実験の基本をおさらいします。

1.直交表実験のメリット

実験では最初に、効果があるかどうか判然としない多数の因子について効果の有無を調べ、効果がありそうな因子に絞り込んだのち、最適水準の決定など詳細な検討を行うというのはよくあることです。
因子同士の組み合わせの効果(交互作用)が全くないと確信できるのであれば、組み合わせの影響を見る必要がないので、他の因子の水準を固定し、各々の因子の水準を振る実験をすればよく、例えば 2水準7因子では表1で、AとBの2水準で、行(縦方向)に実験No.を振り、列(横方向)に7つの因子1~7を割り付けた場合、実験No.は8通り、つまり8回の実験で足ります。誤差を考慮して、各条件で実験を2回繰り返したとしても16回で済みます。

 

【表1 1因子のみ水準を変える実験】
1因子のみ水準を変える実験

 

しかし、交互作用があるかもしれない多数の因子を取り上げて、因子のすべての組み合わせで影響を見ようとする要因配置実験では、2水準7因子でも、 27=128通りと大変な数の実験が必要です。
そこで、一部の因子については交互作用も考慮し、かつ実験回数も減らせる効率的な方法が、直交表を用いた部分配置実験です。

※要因配置実験・部分配置実験の基礎知識については下記コラムもご参照ください。

 

2.直交表の基本(直交表の性質)

表2は実用的で使いやすい「L8直交表」と呼ばれるもので、列(横方向)の[1]~[7]には因子を割り付け、行(縦方向)のNo.1~8は実験番号を振ります。
この直交表は2水準の実験で利用されるもので、表の中の数字はそれぞれの実験において、各因子の水準が1であるか2であるかを示しています。

 

【表2 L8直交表】
L8直交表

 

どの2列を選んでも、(1,1)(1,2)(2,1)(2,2)と言う組み合わせが2回ずつ出てくることを確認して下さい。
具体的に見てみましょう。
[1]列と[6]列を見比べると、(1,1)が2回(赤線でマーク)、(1,2)も2回(青線でマーク)、(2,1)も2回(緑線でマーク)、(2,2)も2回(黄線でマーク)出てくることがわかります。他のどの2列の組み合わせでも同じようになっていることを、ご自身で確認してみて下さい。

この直交表の性質は、次のように言うこともできます。
1つの列の各水準の中に、他の列の各水準がすべて同数回ずつ現れる。
そのため、1つの因子に注目して、水準1の4つの実験結果の平均と、水準2の4つの実験結果の平均を比べれば、他の因子の効果が相殺され、注目した因子の効果がわかります。

これも具体的に見てみましょう。
表3の、因子[1]が赤線で囲んだように水準1である実験では、因子[1]以外の因子はすべて水準1、2が2回ずつ出てきますので、4回の実験の平均を取れば因子[1]の影響だけが残ります。因子[1]が青線で囲んだように水準2である実験でも同様です。

 

【表3 L8直交表の特徴】
L8直交表の特徴

 

従って、実験1~4の平均値と実験5~8の平均値の差が、因子[1]の主効果であるということになります。

L8直交表を例に、直交表の性質をもう少し詳しく見ていきましょう。
検討すべき因子(2水準)の間に交互作用がない、あるいは無視できるほど小さいとわかっていれば、 L8直交表には7つまで因子を割り付けられます。7つの因子に対して8回の実験ですから、実は他の因子の水準を固定し、各々の因子の水準を振る、表4のような実験をする場合と回数は同じです。

しかし、この方法では水準間のばらつきと誤差によるばらつきが分離できません。
例えば、表4のようなデータが得られた場合、「本当はすべての条件でゼロに近いはずであり、2行目(実験番号2)の結果がたまたま誤差が大きくて1に近いデータになった」のか、「因子1の水準を2にしたことの効果によって1に近いデータになった」のかの区別がつきません。

 

【表4 実験ごとに一つの因子のみ水準を変える実験】
実験ごとに一つの因子のみ水準を変える実験

 

これに対して、直交表を用いた実験ではどの因子についても水準1について4回、水準2についても4回の実験を行って平均を取っています。
例えば、直交表実験で表5のような結果が得られた時に、因子[1]の水準が1の時だけ、たまたま4回ともゼロに近いデータが得られ、水準が2の時だけたまたま4回とも1に近いデータが得られると考えるのは相当無理があります。

 

【表5 L8直交表を用いて各因子の水準を設定した実験】
L8直交表を用いて各因子の水準を設定した実験

 

このことをもう少しもっともらしく、定量的に示す方法が分散分析で、水準間のばらつきと誤差によるばらつきを比較することによって、水準による差が有意であるかどうか判定できます。
誤差によるばらつきを求めるためには、因子を割り付けない列を設け、その列の分散を計算するのが一般的です。「誤差因子を割り付ける」と言い、このような列を「誤差列」と呼びます。

 

3.交互作用がある場合

先程は因子間に交互作用がないものとして説明しましたが、因子間に交互作用がある場合はどうなるでしょうか?
因子[1]と因子[2]の間に交互作用があるとします。その時、3列目に交互作用の影響が出ますので、他の因子が3列目に割り付けられている場合、3列目に割り付けられた因子の主効果と因子[1] [2]の交互作用が分離できなくなります(交絡)。表6で確認してみましょう。

 

【表6 交互作用の影響が出る列】
交互作用の影響が出る列

 

3列目が水準1の場合、 1列目と2列目の水準の組み合わせは(1,1) (2,2)がそれぞれ2回しか出てこず、3列目が水準2の場合、1列目と2列目の水準の組み合わせは(1,2) (2,1)がそれぞれ2回しか出てきませんので、組み合わせによる違い(交互作用)がある場合、影響を消すことができません。
4~7列目では、水準1、水準2ともに 1列目と2列目の水準の組み合わせ、(1,1) (2,2) (1,2) (2,1)が1回ずつすべて含まれますのでその影響が相殺されることを確認しましょう。
上では、因子[1]と [2]の間に交互作用がある場合を考えましたが、他の因子の間の交互作用についても、考慮する必要があります。

 

【表7 成分の行を含んだ直交表】
成分の行を含んだ直交表

 

その時に役に立つのが直交表の「成分」の行で、成分記号の積を持つ列が2列の交互作用が現れる列になります。
積をとる際には、a2=b2=c2=1として計算します。
例えば、1列と2列の積はa×bですから3列に交互作用が現れ、3列と5列の交互作用はab×acですのでbcすなわち6列に現れます。
成分記号は、直交表とともに実験計画法の文献などに記載されています。

このように取り上げる因子の間に交互作用があると想定される場合には、因子の主効果と他の因子間の交互作用が同じ列に出てきて分離できなくなること(交絡)を避けるため、すべての列に因子を割り付けることはできません。L8直交表の場合、四つの主効果と二つの交互作用を割り付けることができます。

 

4.直交表への因子の割付

直交表への因子、交互作用の割付をする方法として、成分記号を使う方法のほかに、線点図があります。
点が因子を、点同士を結ぶ線が交互作用を表しており、直交表への割付が視覚的にわかりやすくなっています。
L8の線点図には下のような2通りの形があります。
表7の成分記号と見比べてみて下さい。

 

線点図1

1列と2列の交互作用が3列、1列と4列の交互作用が5列、2列と4列の交互作用が6列に現れ、7列は独立した点となります。

 

線点図1
【図1 線点図1】

 

線点図2

1列と2列の交互作用が3列、1列と4列の交互作用が5列、1列と6列の交互作用が7列に現れ、2、4、6列の間には交互作用がありません。

 

線点図2
【図2 線点図2】

 

線点図の実際の使い方を考えてみましょう。

線点図1は、4つの因子のうち3つの間には交互作用を考える必要があり、残りの一つについては、他の因子と交互作用がなさそうだという場合の実験に適した割付け方法を示しています。

線点図2は、4つの因子があって、そのうちの一つは他の3つの因子と交互作用がありそうですが、他の3つの因子同士には交互作用がなさそうだという場合の実験に適した割付け方法を示しています。

L8の線点図としては、この二つが典型的なものですが、他の直交表についても線点図が用意されており、実験計画法の文献などに記載されています。

 

次回(後編)では、直交表実験の具体的な進め方について仮想事例(架空の実験)で解説します。

 

(日本アイアール株式会社 H・N)

 

 

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