ステンレス鋼 300系と400系の違いと使い分け《成分・特徴など比較解説》
鉄鋼材料に関する記事【炭素鋼 vs ステンレス鋼】特徴の違いを比較解説!選び方のポイントがわかる の解説で、ステンレス鋼の種類は、アルファベット記号SUSの後に300番台、400番台、600番台の数字をつけて表すということをご紹介しました。
今回は、ステンレス鋼の中でも一般的に使用されることの多い400系(400シリーズ)と300系(300シリーズ)について解説します。400系と300系の一番の違いはニッケル(Ni)を含むか否かですが、その他の相違点やそれぞれの特徴・用途、使い分けのポイントを説明していきます。
(※ステンレス鋼の基礎知識は「ステンレス鋼とは?種類・特徴・用途等を解説」を併せてご参照ください)
目次
1.400系ステンレス鋼(Fe-Cr系ステンレス鋼)
400系(400シリーズ、400番台)のステンレス鋼は、ニッケル(Ni)を含んでいないため「Fe-Cr系」と呼ばれます。400系ステンレス鋼は、さらに炭素(C)量と金属組織の違いにより、フェライト系とマルテンサイト系とに分類されます。
(1)フェライト系ステンレス鋼
C量が少ない(0.1%以下)場合、Fe-Cr系ステンレス鋼は1000℃前後に加熱することによりフェライト組織(α相)となるため、「フェライト系ステンレス鋼」と呼ばれます。
焼き入れによる硬化は期待できません。そのため加熱後の熱処理としては焼きなましを行います。
[※関連記事:3分でわかる 鉄鋼の組織と熱処理による状態変化|Fe-C状態図、熱処理の種類などを整理 ]
SUS430
フェライト系ステンレス鋼の代表的な鋼種として18Cr系の「SUS430」があります。
SUS430は耐食性、加工性に比較的優れている点が特徴です。Niを含まないので300系ステンレス鋼に対して価格的な優位性もあり、汎用的な耐食用途に用いられます。
(2)マルテンサイト系ステンレス鋼
C量が多い(0.1~0.75%)場合、加熱により面心立方結晶構造のオーステナイト組織(γ相)となり、焼き入れにより体心正方結晶構造のマルテンサイト組織に変態するため「マルテンサイト系ステンレス鋼」と呼ばれます。焼き入れしたままの状態では、非常に硬くて脆いため機械部品として使用することが出来ないので、焼き入れ焼き戻しによって機械的性質を整えます。
マルテンサイト系ステンレス鋼は、高い強度と耐摩耗性を有するという特徴があるため、ある程度耐食性を要求される用途における構造用機械部品として使用されます。
代表的な鋼種として13Cr系の「SUS410」、18Cr系の「SUS440」などがあります。
なお、400系ステンレス鋼は磁性を有するので磁石につきます。
線膨張係数は、炭素鋼とほぼ同一です。
2.300系ステンレス鋼(Fe-Cr-Ni系ステンレス鋼)
Crに加えて、一定程度のニッケル(Ni)を含有するステンレス鋼が300系(300シリーズ、300番台)です。
300系すなわち「Fe-Cr-Ni系ステンレス鋼」は、さらに金属結晶構造の違いにより、「オーステナイト系ステンレス鋼」と「オーステナイト‐フェライト系ステンレス鋼」の2つに分類されます。
(1)オーステナイト系ステンレス鋼
オーステナイト系ステンレス鋼は一般的に耐食性がFe-Cr系ステンレス鋼より優れています。
また、高温域での強度や低温靭性の面でも優れており高温材料、低温材料として使用することが可能です。
主なオーステナイト系ステンレス鋼の種類を見ていきましょう。
SUS304
オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な鋼種として「SUS304」があります。「18-8ステンレス」という呼び名でもよく耳にすると思います。
SUS304は18Cr-8Niを含有することから、この名で呼ばれることが多くあります。食器、流しなど家庭用にも幅広く使用されています。
SUS303
SUS303は18Cr-8Niという点では、SUS304とほぼ同等です。
大きな違いは鋼の5大元素のうちの不純物であるリン(P)と硫黄(S)を多く含有している点です。
SUS304のこれら元素含有量が0.045~0.030以下という低さであるのに対し、SUS303は0.20~0.15以下と一桁多くなっています。このためSUSU304と比較して、耐食性や溶接性の点で劣ります。一方、切削性の点ではSUS304よりも優れています。
SUS316
SUS316は、モリブデン(Mo)を2.0~3.0%添加することにより耐食性を向上させた鋼種です。
Moを添加することにより、Cr酸化物である不働態被膜の自己修復性が高まり、特に孔食(部分腐食)に対する耐性が向上します。
SUS304L、SUSU316L
SUS304L、SUSU316Lは、SUS304とSUS316の炭素(C)量を低減することにより、耐粒界腐食性を改善した鋼種で、溶接性も向上します。
(2)オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)
フェライト組織(α相)とオーステナイト組織(γ相)が概ね50%ずつの割合となるように組成を調整し、常温状態において安定した金属組織構造を有するステンレス鋼であり、二相ステンレス鋼(DSS:Duplex Stainless Steel)とも呼ばれます。
二相ステンレス鋼の大きなメリットは、耐孔食性、耐隙間腐食性、耐応力腐食割れ性に優れている点です。オーステナイト系ステンレス鋼よりもCrとMoの含有量を高め、さらに窒素(N)を添加することで、優れた耐食性を実現しています。オーステナイト系ステンレス鋼よりも引張強さと耐力が高い高強度材料です。さらに高価なNiの含有量が低いことから、コスト面においてもオーステナイト系ステンレス鋼よりも有利です。
ただし、高温になると金属組織が不安定となり、300℃以上の高温で使用するのには適さないというデメリットもあります。また、溶接などに際しては入熱条件・冷却条件の適切な施工管理が求められます。
オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼の代表的な鋼種として「SUS329J4L」(25Cr-7Ni-3Mo-N)があります。
3.400系と300系の違い(比較表まとめ)
400系・300系ステンレス鋼の成分や特徴を対比すると下表のようになります。
【表1 400系300系ステンレス鋼の対比】
系列 |
400系 |
300系 |
||
組織 | フェライト | マルテンサイト | オーステナイト | オーステナイト・フェライト(二層) |
綱種(例) | SUS430 | SUS410 SUS440 |
SUS304 SUS316 |
SUS329J4L |
成分構成 (Fe以外) |
18Cr | 13Cr 18Cr |
18Cr-8Ni 18Cr-12Ni-2Mo |
25Cr-7Ni-3Mo-N |
耐食性 (相対定性評価) |
☆☆ | ☆(410) ☆☆(440) |
☆☆☆(304) ☆☆☆☆(316) |
☆☆☆☆☆ |
磁性 | 有り | 有り | 無し | 有り |
熱伝導率 (W/m℃) |
26.4 | 24~26 | 16.7 (炭素鋼の約1/5) |
20.9 |
線膨張係数 (x10-6/℃) |
11.0 (炭素鋼と同等) |
10~11.5 (炭素鋼と同等) |
16.2~17.3 (炭素鋼の約1.7倍) |
10.5 (炭素鋼と同等) |
特徴 | 耐食性 可 加工性 経済性 |
高強度 耐摩耗性 |
耐食性 良 高温強度 低温靭性 |
高い耐食性 優 高強度 溶接要注意 |
以上、400系と300系のステンレス鋼の相違点と特徴について簡単に解説しました。両者の相違点と特徴を理解した上で、機械部品の用途や使用環境などに応じて適切に使い分けるようにしましょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)