3分でわかる技術の超キホン ピロリ菌とは?
「ピロリ菌」みなさん一度は耳にしたことがあると思います。
慢性胃炎や胃癌にも関係していると聞くとなんだかぞっとしますが・・・。
最近では、イタリア・オーストリア国境の氷河で発見されたミイラ(通称・アイスマン)の胃からピロリ菌が発見されたことが話題になっていました。古くから人間と共存(?)していたんですね。
目次
ピロリ菌とは?
正式にはヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori) です。
ヒトなどの胃の粘膜に生息するらせん型のグラム陰性微好気性細菌です。
本体の長さは4ミクロン、ゆるやかに右巻きにねじれています。細長いべん毛が4~8本ついていて、くるくる回し(1秒間に100回転くらい)ながら活発に動きまわることができます。
「ヘリコバクター」の「ヘリコ」は「らせん形」を意味する「ヘリコイド」からきた言葉で、「ピロリ」は、胃の幽門「ピロリス」から由来します。
ピロリ菌が活動するのに最適なpHは6~7ですが、pH1~2の胃の中でピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を出し、この酵素でアンモニアを生じさせ、局所的に胃酸を中和することによって胃の中で生息しています。
ピロリ菌は、「微好気培養技術」という特殊な培地と培養法が必要なため1980年代になってやっと発見されました。
ピロリ菌を発見したオーストラリアの病理学者、ロビン・ウォレンと、消化器病医のバリー・マーシャルは2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
マーシャルは培養したらせん菌を飲み込んで、自分の胃に胃炎が起こるかどうかを調べました。
10日目に胃の組織を取って調べると、急性胃炎がおこっており、そこにはあのらせん菌が存在していました。これでピロリ菌が胃炎を起こすことが証明されました。
ピロリ菌の種類
ピロリ菌には「CagA(キャグエー)」という毒素を作るタイプと作らないタイプがあります。
さらに毒素を作るタイプは、遺伝子配列の違いにより「東アジア型」と「欧米型」に分かれます。
日本人のピロリ菌は、90%以上が「CagAを作るタイプ」で「東アジア型」とされています。
このタイプが実は・・・
ピロリ菌と病気
ピロリ菌は、胃の表層を覆う粘液の中に住みつく菌で、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌等々の病気に深く関っていることが明らかにされてきました。
ピロリ菌に感染しても、初期のうちは特徴的な自覚症状がないことがほとんどですが、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、さらには胃がんなどが起きると、胃のむかつき、胃の痛み、吐き気などの自覚症状が認められるようになります。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍は、ピロリ菌感染者の10~15%程度が発症するといわれています。
また、ピロリ菌に感染し数十年の経過を経ると、3~5%程度が胃がんを発症するといわれています。
ピロリ菌と胃癌との関係
CagAを作るピロリ菌は、胃の表面の上皮細胞に毒素CagAを注入します。
CagAに感染した細胞は異常増殖して繰り返し炎症を起こし、胃癌へと発展していきます。
すなわち、CagAが胃上皮細胞内の分子と結合し、がん化を促進していることが知られています
欧米型ピロリ菌感染による胃炎は、がん化せず、十二指腸潰瘍になりやすいという違いがあります。
一方、日本人のピロリ菌は欧米のピロリ菌に比べると胃がんを発症しやすい性質を持っています。
実際、日本人の胃癌の発生率は世界の中でも高く、死亡率も高くなっています。
なお、このCagAは、エクソソームとして血液を通して全身に運ばれ、心疾患や血液疾患、神経疾患など胃以外でも疾患を発症させる可能性があるともいわれています。
ピロリ菌の感染源
主な感染原は経口感染とされています。大人になってからの日常生活・食生活ではピロリ菌の感染は起こらないと考えられており、ピロリ菌はほとんどが幼児期に感染すると言われています。
世界人口の40-50%程度が保菌者だと考えられており、日本は60歳代以上の方の60%以上が感染しているとの報告もあります。
ピロリ菌の検査
便中抗原測定、尿素呼気試験、組織鏡検法等々でピロリ菌の感染有無を調べることができます。
尿素呼気試験は、炭素を含んだ尿素の錠剤を服用し、吐く息(呼気)を採取して二酸化炭素を調べる方法です。
また、血液検査で、ピロリ菌に対する血清抗体を測定する方法もあり、最も簡単な検査です。
また、上部消化管内視鏡(胃カメラ)で胃の粘膜を採取し、検査することができます。
ピロリ菌の除菌
日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、ピロリ菌に関連する疾患の治療および予防のため、ピロリ菌感染者のすべてに除菌療法を受けることを強く勧めています。
除菌療法としては、胃酸分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)と2種類の抗菌薬を1週間服用することによって行います。除菌率は70~90%で、再発の可能性は2~3%とされています。
除菌をすることにより、胃・十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病などに対してピロリ菌除菌が有効であることがわかっており、潰瘍の再発や胃癌発生のリスクを抑えることが期待できます。
一次除菌の効果が出なかった場合は、別の薬に変えて再び除菌を行う二次除菌が行われますが、この二次除菌までは保険を使うことができます。
ピロリ菌に関する文献や特許を調べてみると?
(※いずれも2018年6月時点での検索結果です。)
JSTの文献データベース「J-GLOBAL」で文献を調べてみると・・・
「ヘリコバクターピロリ 薬」のキーワードで
600件以上の関連文献があることがわかります。
日本特許庁のデータベース「J-PlatPat」でざっくり特許を調べてみると・・
- 請求の範囲: ヘリコバクターピロリ
- 請求の範囲: 除菌 殺菌 除去 駆除
というキーワードのAND検索で29件の該当がありました。
主にヘリコバクターピロリ菌の駆除剤、除菌剤、感染症治療剤等が出てきます。
また、対応する主な特許分類(FI)は「A61K39/106 ビブリオ;カンピロバクター」のようです。
このFIで検索すると、288件ヒットしました。この分類の中からは「ピロリ菌感染を治療するための新規の方法」「ヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチン用ペプチド」「ヘリコバクター ピロリを阻害する方法」「ヘリコバクター ピロリ抗原」といった名称の特許が検出されました。
どのような特許なのか、気になった方はぜひ調べてみましょう!
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
☆ピロリ菌関連など、バイオ・医薬品分野の特許調査サービスは日本アイアールまでお気軽にお問い合わせください。