3分でわかる トランス脂肪酸の化学|分子構造・生成の仕組み・低減技術を解説

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トランス脂肪酸

マーガリンなどの食品に含まれるトランス脂肪酸について、「体に良くない」という話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
では、そもそもトランス脂肪酸とはどのような物質で、なぜ油脂の加工過程で生成されるのでしょうか。
また、健康への影響を抑えるために、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

本記事では、トランス脂肪酸の分子構造や生成の仕組みを中心に、健康への影響や食品中のトランス脂肪酸を減らすための技術・取り組みについて、わかりやすく解説します。

 

1.トランス脂肪酸とは

脂肪酸は、油脂(食用油)を構成している有機酸の総称です。
脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別され、不飽和脂肪酸はさらにシス型とトランス型に分けられます。

表1はこれら3種の構造と性状を比較したものです。

 

【表1 油脂中の脂肪酸の構造と性状(C18脂肪酸で例示)】
油脂中の脂肪酸の構造と性状(C18脂肪酸で例示)

 

飽和と不飽和は炭素間の二重結合の有無で区分します。炭素間二重結合が無ければ飽和、あれば不飽和です。
同じ不飽和の中でも、二重結合の位置を起点に「く」の字型に屈曲しているものが「シス」、ほぼ直線的なものが「トランス」と呼ばれます。

飽和脂肪酸は直線構造を有し結晶性が高いために融点が高く、室温で固形のものが多いのが特徴です。
これに対し屈曲構造のシスは融点が低く、室温で液状のものが多くなっています。
トランスは完全な直線構造ではありませんが、それに近いので、同じ炭素数・二重結合数のシス型に比べて融点が高い傾向があります。

飽和とシスは天然に存在します。トランスも牛や羊などの反芻動物の体内で自然に生成されますが、油脂の加工過程でも人工的に生成されます。

 

2.トランス脂肪酸の生成と体内での挙動

通常の天然油脂は飽和脂肪酸とシス脂肪酸などを含む混合物であり、植物油の多くは室温で液状です。
従って、マーガリン等の固形製品とするために、固形化する必要があります。

飽和脂肪酸は一般に融点が高いため、油脂中のシス脂肪酸を飽和脂肪酸に転換してその割合を増やせば、油脂を固形化することができます。
この転換に図1で示す水素化反応が使用されてきました。

 

マーガリン等の生産工程
【図1 マーガリン等の生産工程】

 

部分水素添加反応で問題なのは、その過程で、トランス脂肪酸が副生することです。
触媒や反応条件の調整により副生をある程度制御することは出来ますが、完全に排除するのは困難です。
即ち、トランス脂肪酸は部分水素添加反応によって人工的な副生物として生成します。

このトランス脂肪酸が存在すると体内でどんな問題が起こるのでしょうか。
表2は3種脂肪酸の体内での挙動をまとめたものです。

 

【表2 体内での脂肪酸の挙動】
体内での脂肪酸の挙動

 

まず飽和脂肪酸は体内でエネルギー源として利用されます。次に、シス脂肪酸もエネルギー源として利用されるほか、細胞膜を構成する脂質に取り込まれ、その柔軟性を保つ働きがあります。

ではトランス脂肪酸はどうでしょうか。
トランス脂肪酸も体内で吸収・代謝されますが、シス脂肪酸とは異なる影響を及ぼすことが知られています。
特に、過剰に摂取すると、悪玉(LDL)コレステロールの増加や善玉(HDL)コレステロールの減少を引き起こし、冠動脈疾患のリスクを高めることが分かっています。

トランス脂肪酸のこの挙動をどう見るべきでしょうか。
トランス脂肪酸は天然にも存在しますが、油脂の加工技術の発達によって食品中に多く含まれるようになりました。その過剰摂取が健康に悪影響を及ぼすことが、これまでの研究で明らかになっています。

 

3.トランス脂肪酸を巡る現状

WHO(世界保健機関)は「成人および子供における飽和脂肪酸およびトランス脂肪酸の摂取に関するWHOガイドライン」の中で、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%以下に減らすことを強く勧告し、さらに1%未満に減らすことを提案しています。また、工業的に製造されたトランス脂肪酸を食品供給から排除する取り組みも推進しています1)。

日本では、内閣府の食品安全委員会から「食品に含まれるトランス脂肪酸」という報告が出ています2)。
その2012年の評価では、日本人の大多数はトランス脂肪酸の摂取量がWHOの目標値であるエネルギー比1%未満(平均約0.3%)であって、健康への影響を評価できるレベルを下回っているので、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるとの見解が示されています。ただし、脂質に偏った食生活を送る人は、摂取量が目標値を超える可能性があるため、注意が必要とされています。

日本では食品中のトランス脂肪酸量に関する規制はありません。しかし、日本の食品メーカーは、従来の部分水素添加法に代えて、エステル交換法や分別法などを採用することにより、自主的に製品中のトランス脂肪酸量の低減に努めています。表3は農林水産省による調査結果をまとめたものです3)。近年大きく低下していることが分かります。

 

【表3 食品中のトランス脂肪酸量に関する農水省調査結果】
食品中のトランス脂肪酸量に関する農水省調査結果(マーガリンとショートニング)

 

4.おわりに

今回はトランス脂肪酸の分子構造や生成の仕組み、健康への影響、食品中の含有量を減らすための取り組みについて解説しました。
日本では、通常の食生活におけるトランス脂肪酸の摂取量は比較的少なく、健康への影響は小さいと考えられていますが、脂質に偏った食生活には注意が必要です。

本記事が、トランス脂肪酸について正しく理解する一助となれば幸いです。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

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