3分でわかる技術の超キホン 昆虫成長制御剤(IGR: Insect Growth Regulator)とは
目次
昆虫成長制御剤(IGR)とは?
昆虫成長制御剤(IGR)は、昆虫の変態や脱皮をコントロールしているホルモンのバランスを狂わせることによって、昆虫の脱皮や羽化を阻害し、その結果として死に至らせるという殺虫剤です。 すぐには効くわけではないので、家庭用には向いていませんが、農薬として使われています。
IGRの特徴
他の殺虫剤と違って、即効性はありません。効果を発揮するまで時間がかかりますが、長く効くという利点があります。
昆虫に特有の生理的機能に作用する殺虫剤なので、人間や家畜などの哺乳類への毒性はほとんど問題にならないことが大きな特徴です。魚類に対する毒性も比較的低いことから、沼や池、河川でも使用可能です。
昆虫などに対する作用も分類群ごとに異なるような選択性を持ち、蜂やクモ類などの天敵に対する悪影響が少ないものが多いことから、天敵を活用した総合的害虫管理体系の構築において有効に利用できる殺虫剤として期待されています。
害虫・効果の例
蚊・ハエ・ユスリカ・ブユの終齢幼虫時(蛹の1つ手前)にメトプレンという薬剤を使うと羽化を阻害し、死に至らせます。
クワシロカイガラムシは、お茶の木に寄生して、吸汁する害虫です。茶の芽伸びが悪くなるだけでなく、最悪の場合にはお茶の木が枯れてしまうこともあります。ふ化したクワシロカイガラムシ幼虫に、ピリプロキシフェンという薬剤を接触させることにより、主に初齢から2齢幼虫への変態時期に生育を停止させることにより死に至らせます。
ピリプロキシフェンは、チャバネゴキブリの羽化阻害も示します。
ジフルベンズロンやビストリフルロンは、卵からふ化した後の1齢幼虫からいずれの幼虫時期にも有効な脱皮阻害作用(表皮形成阻害)を示します。
IGRの分類
昆虫成長制御剤は、脱皮を阻害するキチン合成阻害剤、脱皮を促進する脱皮ホルモン活性化合物、変態に影響する幼若ホルモン様物質(ジュベノイド)に大きく分類されます。
1・キチン合成阻害剤
昆虫の皮膚は真皮とクチクラ層というものから成り立っています。クチクラ層はキチンとタンパクが主体で、固い成分はキチンによるものです。
このキチンの合成を阻害することにより、幼虫の脱皮・発育の進行に異常を起こして死亡させる薬剤です。代表的なキチン合成阻害剤としては、ベンゾイルウレア系化合物が知られています。
2・ホルモンに関する薬剤
昆虫の脱皮には脱皮ホルモンが、変態には幼若ホルモンが関与しています。
(1)脱皮ホルモン
脱皮ホルモン(エクジステロイド)は昆虫における唯一のステロイドホルモンとして知られていますが、昆虫体内での生合成はブラックボックスになっています。ほとんどの昆虫で、蛹化は幼若ホルモン(JH)血中濃度が低い状態で脱皮ホルモンが高まるとことにより誘導され、JH濃度が高いときに脱皮ホルモンが分泌されると幼虫脱皮が誘導されていますが、まだ不明な点も多くあります。
バキュロウィルスは、EGTという酵素を分泌して感染した昆虫の脱皮・変態を阻害します。この酵素は脱皮ホルモンに糖を付加して不活性化させることが知られています。これらの脱皮ホルモン不活性化酵素は、昆虫の脱皮・変態の制御にも利用できる可能性があります。
(2)幼若ホルモン様物質
幼若ホルモンがあると昆虫は蛹になれず、やがて死に至ります。これらのホルモンを利用し、脱皮や変態に異常を起こさせ死亡させる薬剤がいくつか知られています。
メトプレン、ピリプロキシフェンは、幼若ホルモン結合部位受容体に結合し、幼若ホルモンの作用を模倣することにより、変態前の幼虫に処理することで変態を撹乱して阻止します。完全変態するカ、ハエ等の駆除に使用されています。ただし、不完全変態の昆虫には効果はありません。
ちなみに、幼若ホルモン(Juvenile hormone)は、炭化水素化合物の1種であるセスキテルペノイドで、ホルモンとして機能します。
昆虫の成長だけでなく、生殖や休眠など様々な生理現象に関わっていますが、それぞれの現象における作用の分子メカニズムは未知な部分が多くあります。幼若ホルモンは、昆虫固有のホルモンであり、また種(目)間で化学構造の差があることから、種特異性を持った新たな農薬のターゲットとして注目されています。
主な薬剤
- メトプレン配合
- ミディ水和剤(ジフルベンズロン)
- ミリン発泡錠(ジフルベンズロン)
- スミラブ粒剤(ピリプロキシフェン)
昆虫幼若ホルモン類似薬であるメトプレンの作用により、蚊やハエの変態を抑制し、成虫の出現を抑えます。
摂食したユスリカ・チョウバエの幼虫は脱皮に失敗して死亡します。幼虫の全令期に微量で有効な薬剤です。
低毒性の脱皮阻害剤です。錠剤を害虫の生息する水域に投入するだけで簡単に駆除できます。
羽化阻害効果により害虫が成虫になるのを抑制します。徐放性粒剤のため1~3カ月の残効性があります。
昆虫成長制御剤について文献・特許を検索してみると?
(※いずれも2018年11月時点における検索結果です)
文献調査:JSTの化学文献データベース”J-GLOBAL”で検索してみると・・・
キーワード「昆虫成長制御剤」(同義語を含めて)で540件ヒットしました。(「昆虫成長制御剤」のみでは70件)
昆虫成長制御剤による殺虫効果、分析法、新規開発等々の文献が散見されました。
特許調査:特許庁のデータベース”J-PlatPat”で検索してみると・・・
請求の範囲「昆虫成長制御剤 昆虫成長調整剤 昆虫成長調節剤」で124件がヒットしました。
昆虫成長制御剤の組成物、製剤、防虫方法等々の特許が多く見受けられました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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