空飛ぶ車(eVTOL等)に適用される技術分野と課題を整理!

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空飛ぶ車

いわゆる「空飛ぶ車」の実用化のためにはいくつかの課題がありますが、その一つとして規制・法整備があります。フェイルセーフを含めたシステムの開発においては、規制や法律へ適合する開発が必要となります。

これらを考える端緒として、今回は空飛ぶ車に適用される技術分野について考えてみたいと思います。

空飛ぶ車に適用される技術分野

空飛ぶクルマに適用される技術分野を図1にまとめました。
実際に、どの技術分野の適用が行われるのかは、空飛ぶ車の基本コンセプトにより変わってきます。

 

空飛ぶ車に適用される技術分野
【図1 空飛ぶ車に適用される技術分野】

 

以下より、各技術分野について、規制・法整備やシステム開発を念頭において考えていきたいと思います。

 

(1)モビリティ(Mobility)

2023年から「東京モーターショー」は、「ジャパンモビリティショー」に名称を変えました。
「モビリティ」(Mobility)は、交通分野では移動機構を表します。

水陸両用車は、水上と陸上を移動するモビリティですが、空飛ぶ車は、陸上と空中を移動するモビリティです。空飛ぶ車の陸上移動機能については、公道も走るのか、離着場内だけの移動なのか、あるいはヘリコプターのように基本的に陸上移動を行わないか、といったコンセプト設定における選択肢があります。

自動車関連でモビリティという言葉を使っている例として、「Maas」(Mobility as a Service)という言葉があります。これは車を所有せずに、使いたい時、料金を払って利用するサービスシステムを意味します。
空飛ぶ車も、所有せず利用だけする形態、さらに空飛ぶ車を含めた複数のモビリティの乗り継ぎ利用する形態が考えられます。

空飛ぶ車は、モビリティという言葉を使って、「AAM」(Advanced Air Mobility)とも呼ばれています。

 

(2)車

車には一般的な乗用車、商用車以外にもフォークリフトやブルドーザーなどを含む産業用車もあります。農業用トラクタなどの産業用車も含めて道路を走る車両に対しては、道路運送車両法道路交通法などが適用されます。

一方、空飛ぶ車が公道を走るタイプでなければ、飛行機やヘリコプターのように空を飛ぶための法規が適用されることになります。空飛ぶ車に対しては、空を飛ぶものへのどの法規を同様に適用し、どの法規を簡略化して適用するのかという法整備の検討が行われています。

自動車においては、排ガス規制など試験方法も含めて世界標準化する動きがあります。これはグローバルビジネスを展開する際の障壁の軽減や、法規制に適合するためのシステム開発費負担の軽減に繋がります。空飛ぶ車においても同様に法規制を世界標準化する活動が必要です。

 

(3)飛行機

空飛ぶ車は飛行機の特性をもち、飛行機に対応している技術・方法や規制などが法規制整備の検討対象になります。これらには機体のみでなく発着場操縦ライセンス(免許)に関するものも含みます。

空飛ぶ車をそのタイプから飛行機と回転翼機に分け、これらに対応する空飛ぶ車のための法整備が検討されています。例えば、安全性の基準である耐空性基準です。

空飛ぶ車の運転範囲が拡大し、運転数が増加した際には、現在の航空機と同じように航空管制が必要となります。空飛ぶ車の運転空域を航空機と分けることはもちろんですが、空飛ぶ車の飛ぶ低高度空域をさらにレーン分けするという考えもあります。その場合にはレーン違反の取り締まりも必要になるでしょうか。

空飛ぶタクシーというビジネスモデルでは、利用者は操縦を運転手(パイロット)に任せます。
この形態では、空飛ぶ車の運転ライセンス法整備の負担を軽減できます。空飛ぶ車は、ヘリコプターより運転(操縦)が簡単になることを前提にしていますので、ライセンス取得の必要技能/知識レベルは、タクシードライバーとヘリコプターパイロットの間ぐらいに設定することが可能でしょうか。

将来、空飛ぶ車のリモート制御自動運転が導入されれば、運転手なしで緊急対応添乗員のみ同乗という形態も考えられます。この場合にも、安全な商業形態としての認可制度のようなものは必要です。

 

(4)垂直離着陸

かつての空飛ぶ車のイメージ映像では、陸上を走っていた車が離陸していくようなものがありましたが、実用化が近づくにつれて、ドローンが大きくなって人が乗れるような構成が多くなりました。

人の乗らないドローンは、飛行機型無人兵器とともに「UAV」(Unmanned Aerial Vehicle)と呼ばれます。貨物だけ運ぶ空飛ぶ車はUAVです。

オスプレイのように飛行機でも垂直離着陸ができるものがありますが、垂直離着陸タイプの空飛ぶ車は、「eVTOL」(electric Vertical Take-Off and Landing)と呼ばれます。ヘリコプターに比べて軽量コンパクトで運行が安価で、電気動力を使うことが基本的特徴となります。eVTOLで構成がシンプルにできるということは、機体コストを低減できるとともに、自動化や無人運転手化への開発負担が軽減されることを意味します。

 

(5)ロボット

日本では、鉄腕アトムの影響で、ロボットというと人型ロボットが連想されますが、欧米では、産業用ロボットのように、自動で作業を行う機械をロボットと呼ぶことが一般的だと思います。

産業用ロボットでも、プログラムで決められた動きだけをするものから、より自律的に作業を行うものへと進化しています。自律制御型ロボットでは、認知→判断→動きの制御というステップを自律的に実行します。

運転が無人化された空飛ぶ車は、人や物を安全に目的地へ運ぶという作業を自律的に行うロボットです。
工場などで物の搬送作業を行う「AGV」(Automatic Guided Vehicle)とよばれる無人搬送車も自律化が進んでいます。人を乗せず荷物だけ搬送する空飛ぶ車は、「空飛ぶAGV」あるいは「無人空飛ぶトラック」とも言うことができます。

 

(6)自動運転

現在の自動車の自動運転レベルは、図2のように定義されています。

 

自動運転のレベル
【図2 自動運転のレベル】

 

簡単になったセスナ機を運転するような感覚で空飛ぶ車を自分で運転することは楽しいことですが、対応しなければならないシーンの複雑さを考えると、高いレベルの自動運転に頼らざるを得ません。

先進車における4つのコア技術を「CASE」と呼びます。
Connected (コネクティッド技術)、Autonomous(自動運転技術)、Shared & Services (シェアリングサービス)、Electric & Electrified (電動化技術)です。

これらの技術は空飛ぶ車の実用化に繋がっていく技術ですが、電動化技術の中で、バッテリーの小型軽量化と効率向上は空飛ぶ車でも特に重要です。カメラやLiDAR(Light Detection And Ranging、光を用いた検出と測距)などのセンサーによる環境検出技術の進化も求められます。

自動車においても、「場所の限定がない」レベル5を達成するために、フェイルセーフシステムを含む多くの課題に対応する開発が行われています。空飛ぶ車でも、まずは場所を限定したエリアと空中で経験をつんで、段階的に適用範囲を拡大していくという歩みになります。

[※関連コラム:【センサのお話】自動車産業のキーワード”CASE”とは? はこちら]

 

(7)リモート制御

建設用重機の自動運転ではリモート制御の無人操縦を行います。さらに発展させ、例えば、重機がLiDARなどのセンサを用いて、工事前の地形と目標工事地形を認識し、自律的に作業を行うという無人自律作業を行うことが可能になっています。工事作業現場で、種類の異なる作業機が協調しながら作業を行うことができます。

将来の空飛ぶ車の交通社会では、パイロット(運転手)を伴うもの、リモート制御のもの、そして完全自律制御のものが混在するような姿になるのでしょうか。
少なくとも、多種のものの交通の流れや気象の変化などの予測情報を受け取って乗り物を制御することが必要で、この場合にはCASE技術のうちのC(コネクティッド技術)が活躍します。例えば、地上ステーション、空飛ぶ車、そして人工衛星がネットワークで繋がれて光通信で情報のやりとりを行うというような技術です。

 

(8)スマートシティ

かつてアニメや映画で、空中を飛ぶ多くの乗り物が行きかう様子が描かれていましたが、将来の空飛ぶ車社会も三次元の交通構造と管制・制御システムが必要となります。これは既に検討と実証実験が進められているスマートシティの考えに空中交通システムを融合していくものとなります。
地上ではトラックの隊列走行制御が開発されていますが、将来、空中でカルガモ親子のような空飛ぶ車の隊列飛行が見られるような日が来るかもしれません。

 

空飛ぶ車社会を築いていくための段階的進歩においては、より早い段階でより多くの課題に気が付き、同時進行型の活動を行うことが必要になると考えられます。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
 

 

 

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