3分でわかる フッ素樹脂とC-F結合 [特徴/技術課題など]

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C-F結合:その特徴

ポリテトラフルオロエチレン(通称 テフロン)をはじめとするフッ素樹脂は、耐熱性や耐溶剤性等の高い耐性を有する樹脂として広く知られています。この特徴はフッ素樹脂のC-F結合に由来するものです。

本稿ではC-F結合に焦点をあてて解説します。

 

1.C-F結合の特徴[C-H結合等との比較]

表1はC-F結合の性状を他のC-X結合と比較したものです1)

まずC-F結合は、487kJ/molという非常に高い結合エネルギーを有しています。他ハロゲン元素のC-X結合だけではなく、C-H結合やC-C結合(エタン分子)よりもはるかに高い値です。これがC-F結合の最も顕著な特徴と言えます。
さらに結合距離は、C-H結合よりは少し大きいものの、他ハロゲン元素のC-X結合よりも小さく、分極率αはC-H結合とほぼ同等の低い値を示します。

即ちC-F結合は非常に大きな結合エネルギー短い結合距離低い分極率を特徴とする結合であり、これらがフッ素樹脂の高い耐性の要因です。

これらC-F結合の特徴は、当然ながら、フッ素原子の特異性に起因しています。
フッ素は全元素中で最大の電気陰性度を有し、そのファンデルワールス半径は他ハロゲン元素よりもずっと小さくて水素に近い値です。

 

【表1 C-F結合と他のC-X結合との比較1)
C-F結合と他のC-X結合との比較

 

2.C-F結合の分解

C-F結合はフッ素樹脂以外の有機フッ素化合物中にも含まれており、その機能により私たちの生活を豊かにしてくれています。有用性は明確です。しかし課題もあります。

フッ素樹脂や有機フッ素化合物からフッ素のみを除去して他の部分を再利用するケースを想定して下さい。その際には、使用時とは逆に、C-F結合の結合エネルギーが非常に高くて容易には分解しないことが処理の障害になります。
このため、図1のイメージ図に示すように、有機フッ素化合物からフッ素のみを選択的に除去する方法の開発に多くの機関が取り組んでいます。

 

有機フッ素化合物からのフッ素のみの選択的除去
【図1 有機フッ素化合物からのフッ素のみの選択的除去】

 

一例を挙げると名古屋工業大学の柴田哲男教授らが図2に示す興味深い結果を報告しています2)

 

名古屋工業大学によるフッ素の選択的除去
【図2 名古屋工業大学によるフッ素の選択的除去2)

 

3.《猛毒に注意》天然物中のC-F結合

フッ素樹脂は言うまでもなく合成樹脂です。天然には存在しません。
では天然物中にC-F結合は存在しないのでしょうか?

C-F結合は天然物には例が少ないのですが、これまでにC-F結合を含む天然物が30種ほど見つかっています3)

最も有名なのがモノフルオロ酢酸(FCH2COOH)でしょう。
この化合物は猛毒です。モノフルオロ酢酸を含む植物が主にアフリカ、オーストラリア、南米に分布し、家畜の突然死を引き起こしていると報告されています4)
この毒性は、表1で示したように,フッ素原子のサイズが小さくて水素に近いために、酢酸と間違えてクエン酸回路に取り込まれるためだと理解されています3)

 

C-F結合の長所・短所を正しく把握し、より有効な利用法を見出していくことが重要と思われます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1) 里川孝臣, 「機能性含ふっ素高分子」, 日刊工業新聞社(1982)
     山辺正顕他, 「含フッ素機能性材料,」 有機合成化学協会誌45(6),526-535(1987)
     化学便覧 基礎編 改定6版. 807-808(2021) 他
  • 2) Jun Zhou etc., Catalyst-free carbosilylation of alkenes using silyl boronates and organic fluorides via selective C-F bond activation, Nature Communications 12, No3749 (2021)
    https://www.nature.com/articles/s41467-021-24031-w
  • 3) 東京化成工業株式会社(Webサイト)「化学よもやま話 ~身近な元素の話~ 天然有機フッ素化合物」
    https://www.tcichemicals.com/JP/ja/support-download/chemistry-clip/2013-10-08
  • 4) Stephen T. Lee etc., Monofluoroacetate-Containing Plants That Are Potentially Toxic to Livestock , J. Agric. Food Chem. 62(30), 7345–7354(2014)

 

 

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