3分でわかる 活性酸素の基礎知識|一重項酸素との関係は?

私たちが普段吸っている酸素とは性質の異なる、反応性の高い酸素関連物質として「活性酸素」という言葉をよく目にします。また、「一重項酸素」という特殊な酸素が体に良くないという話も聞きます。
これらはどのような物質なのでしょうか?活性酸素と一重項酸素は、どのような関係にあるのでしょうか?
1.活性酸素の区分
まず、私たちが普段「酸素」と呼んでいる酸素分子は、通常、最も安定な状態である「三重項酸素3O2」として存在しています。
「活性酸素」とは、三重項酸素よりも反応性が高い、酸素に由来する物質の総称です。酸素分子そのものの励起状態だけでなく、酸素を含むイオン、ラジカル、分子なども含まれます。
活性酸素は健康を害する側面が強調されがちですが、体内では免疫反応や細胞間の情報伝達などにも関与しており、必ずしも「悪者」だけではありません。活性酸素の実際の作用については既に多数の成書が出ていますので、そちらをご参照ください1)。
本記事では活性酸素の基本事項を解説します。
図1は活性酸素の大まかな区分を示したものです。

【図1 活性酸素の概略区分】
代表的なのは、酸素分子が電子を受け取ることで生じる、区分1のスーパーオキシド系列の活性酸素です。
三重項酸素3O2が還元され、電子が1個付加して生成するのが、「スーパーオキシド・O2–」です。スーパーオキシドは、不対電子をもつためラジカルとしての性質を示します。
さらに電子を受け取ると、形式的には「過酸化物イオンO22-」に相当する状態になります。生体内では、これに水素イオンが関与して過酸化水素H2O2として扱われることが多くあります。
過酸化水素などでは、金属イオンなどが関与してO-O結合が切れ、ヒドロキシラジカル・OHが生じることがあります。ヒドロキシラジカルは、活性酸素の中でも特に反応性が高い種です。
スーパーオキシド系列とは異なる機構で生成する活性酸素が、区分2の一重項酸素1O2です。たとえば、光を吸収した色素が酸素分子にエネルギーを渡すと、通常の三重項酸素3O2が励起され、一重項酸素1O2が生じることがあります。一重項酸素は「スーパーオキシドなどのラジカルとは別物」と考えられることがあります。確かに一重項酸素はラジカルではありませんが、反応性の高い酸素種であり、活性酸素の一種に分類されます。
区分3のその他の活性酸素については本記事では詳しく触れません。有機過酸化物など、ここで取り上げたもの以外にも反応性の高い酸素関連物質があります。ここでは、活性酸素には複数のタイプがあることだけ押さえておいてください。
2.酸素種の分子軌道
上述の説明だけでは各酸素種間の相違点が把握しにくいと思います。これらの違いは、酸素の分子軌道に注目するとイメージしやすくなります。
まず通常の酸素である三重項酸素3O2の分子軌道を図2に示します。

【図2 三重項酸素の分子軌道】
図2では、HOMO(最高被占軌道)に相当する、緑で着色した2つのπ*軌道にご注目下さい。三重項酸素では、この軌道に不対電子が1個ずつ入っています。
三重項酸素では、同一エネルギー準位の別々の軌道に、同じ向きのスピンをもつ電子が1個ずつ存在します。この点が非常に重要です。三重項酸素が常磁性であること、また不対電子を2個もつビラジカルであることを示しています。また、この電子配置は、三重項酸素がビラジカルでありながら、多くの有機分子とはすぐには反応しにくい理由にも関係しています。
図3は、活性酸素であるスーパーオキシド・O2–、過酸化物イオンO22-、一重項酸素1O2の3種の分子軌道を、三重項酸素と比較したものです。相違点を明確にするために、共通部分は一部省略してあります。

【図3 各種酸素における分子軌道の比較】
図3でもπ*軌道にご注目下さい。区分1では、電子が1個付加したスーパーオキシド・O2–がモノラジカルであること、電子が2個付加した過酸化物イオンO22-ではπ*軌道が電子で満たされていることが分かります。一方、区分2の一重項酸素1O2では、電子が新たに付加されるわけではありません。代表的な一重項酸素では、三重項酸素のように2つのπ*軌道に同じ向きのスピンをもつ電子が1個ずつ入るのではなく、1つのπ*軌道に反対向きのスピンをもつ電子が2個入った状態として表されます。
3.活性酸素の反応性が高い理由
次に、活性酸素の反応性が高い理由を考察してみましょう。表1は三重項酸素と三種の活性酸素に関するO-O間の結合距離と結合エネルギーをまとめたものです2)。
【表1 各種酸素におけるO-O間の結合距離と結合エネルギー】
| 通常酸素 | 活性酸素 | |||
| 区分1 | 区分2 | |||
| 3O2 三重項酸素 |
・O2– スーパーオキシド |
O22- 過酸化物イオン |
1O2 一重項酸素 |
|
| O-O間の 結合距離 ( Å) |
1.2074 | 1.28 | 1.49 | 1.2155 |
| O-O間の 結合エネルギー(kcal/mol) |
118 | 34 | 35 | 96 |
区分1の活性酸素ではスーパーオキシド・O2–、過酸化物イオンO22-の順で、還元が進行するにつれて、O-O間の結合距離が三重項酸素よりも長くなることが分かります。両者のO-O間の結合エネルギーは30kcal/mol台であり、三重項酸素の118kcal/molよりもはるかに小さい値となっています。これは、O-O結合が切れやすくなっていることを示しています。
これに対して区分2の一重項酸素1O2では、O-O間の結合距離は三重項酸素とほぼ同等です。しかし、電子配置が変化しているため、三重項酸素とは異なる反応性を示します。つまり、区分1のようにO-O結合が長く弱くなることで反応性が高まる場合と、一重項酸素のように電子配置の変化によって反応性が高まる場合とでは、反応性の由来が異なります。
活性酸素の人体への作用を理解するうえでは、今回紹介したような「酸素種ごとの違い」を押さえておくことが重要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) ・三石 巌, ガンは予防できる 活性酸素と、ガン予防の新段階, 阿部出版(2006)
・嵯峨井 勝, 酸化ストレスから身体をまもる 活性酸素から読み解く病気予防, 岩波書店(2010) - 2) 長 哲郎, 酸素の化学構造と活性化, 化学と生物15(6), 375-378(1977)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/15/6/15_6_375/_pdf/-char/ja

































