アフィニティークロマトグラフィーとは?抗体医薬品製造の重要技術を解説
本記事では、抗体医薬品の精製プロセスで特に重要となるアフィニティークロマトグラフィー工程の基礎知識を解説します。
目次
1.抗体医薬品の製造における精製プロセス
バイオ医薬品は一般的に、
- セルバンクの構築
- 細胞の培養
- 精製
- 製剤化
といったプロセスを経て製造されます。
【図1 バイオ医薬品の製造プロセス】
近年注目されているバイオ医薬品の主役として、抗体医薬品が挙げられます。抗体医薬品は、人間の体内に存在する抗体を医薬品へと応用したもので、副作用の少ない医薬品として注目されています。
抗体医薬品は主に動物細胞を用いて製造されます。培養後に細胞除去を行い、目的抗体が含まれた培養上清液を調製します。しかし、培養上清中には、細胞由来のタンパク質(Host Cell Protein:HCP)やDNAといった大量の不純物が含まれています。これらの不純物を除去するためには、ダウンストリームでの精製プロセスが非常に重要となります。
図2に、一般的な抗体医薬品の精製プロセスを示します。
【図2 抗体医薬品製造における精製プロセス】
第一工程は「キャプチャー工程」(回収工程、Capture Step)と呼ばれ、アフィニティークロマトグラフィーを用いることが一般的です。
2.アフィニティークロマトグラフィーとは
「アフィニティークロマトグラフィー」とは、特異的相互作用を持つ物質を利用した分離方法のことです。
アフィニティークロマトグラフィーの有名な例として、プロテインAクロマトグラフィーがあります。
プロテインAはStaphylococcus aureusが生産するタンパク質で、IgG型抗体のFc領域と強い親和性を持ちます。基材にプロテインAリガンドを固定化させたアフィニティー担体を用いることで、IgG抗体のみがリガンドに特異的に結合し、培養上清中に大量に含まれる不純物を除去することが出来ます。
図3に、アフィニティークロマトグラフィーの簡略図を示します。
【図3 アフィニティークロマトグラフィー】
- 洗浄:カラムに吸着していない不純物を中性条件下で洗浄する工程です。
- 溶出:目的抗体のみを溶出する工程です。一般的に、抗体が変性しないマイルドな酸性条件下で行われます。
- CIP:溶出条件で取り除くことが出来なかった物質を除去する工程です。強アルカリ溶液が用いられます。
3.アフィニティークロマトグラフィー担体に求められる性能
抗体医薬品を含むバイオ医薬品の製造では、製造コストが高いことが課題となっています。その要因の一つに精製工程が多いことが挙げられます。その中でも今回紹介したプロテインAアフィニティークロマトグラフィー担体は、非常に高価なものとして知られています。そのため、実際にバイオ医薬品の製造プロセスで用いられるアフィニティークロマトグラフィー担体には、次の3つの性能が求められています。
(1)高吸着容量であること
精製の第一工程であるアフィニティークロマトグラフィー工程では、大量の培養上清を処理しなくてはなりません。
高吸着容量のアフィニティー担体を使用することで、一度により多くの培養上清を処理することが出来るため、精製サイクルの回数を減らすことが出来ます。
(2)高流速処理が可能であること
精製工程にかかる時間を短縮するために、高流速処理が可能であることが求められます。
クロマトグラフィー基材の種類や粒子径、細孔径によっても性能は変化します。
(3)耐アルカリ性があること
カラム残存不純物を取り除くCIP工程には、一般的に高濃度のNaOH水溶液が用いられます。特に、天然のプロテインAには耐アルカリ性がないため、遺伝子組み換えによって耐アルカリ性を持たせることが求められます。耐アルカリ性を持たせることで、担体の寿命が延び、精製工程におけるコストを大幅に減らすことが出来ます。
以上、今回はバイオ医薬品の精製工程の中でも、アフィニティークロマトグラフィー工程について簡単に紹介いたしました。アフィニティークロマトグラフィー担体の種類は多種多様であり、リガンドや基材の調製方法は様々な特許が取られています。興味のある方は、ぜひ検索してみてください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)