なぜ実験計画法が必要なのか?《実験計画法の目的》
大学や公的研究機関ではもちろん、企業においても、製品開発・設計や生産の現場でコスト削減や納期の短縮が求められる中、実験の効率化は必要不可欠です。そこで、勘や経験だけに頼らず、実験を効率的に行うことを可能にする手法として、実験計画法が考え出され、発展してきました。
実験計画法は、統計学者のR・A・フィッシャーが1920年代に農場試験から着想した学問で、同じ条件での実験が困難な農業試験において合理的な試験法を探すことに端を発し、現在では医学・工学・社会調査・マーケティングなど幅広い分野で使用されています。
この連載コラムでは、「実験計画法なんて聞いたこともない、必要だと思ったことがない」あるいは「実験計画法という言葉は知っているけれど面倒くさそう」という認識の皆さんに実験計画法の基本的な考え方を説明して、「なるほど、実験計画法を使うってこういうことか」と思っていただけるように、ごく簡単な例に沿って「実験計画法の基礎の基礎」を説明していきます。
1.実験における条件設定の注意点
簡単な実験を例にして、実験を実施する上で気をつけるポイントについて考えていきましょう。
鰹節の開発販売のために、以下のような実験を検討しています。
- 鰹節製品の一番良い使い方を消費者に提示すること。
【方法】
- 鰹節のだしを取る際にいくつか条件を設定し、うまみと雑味のバランスが良い条件を、味覚の専門家に10段階で点数化して判断してもらう。
【実験条件の候補】
- だしを取る温度:75℃、85℃、95℃
- だしを取る時間:5分、10分
- 鰹節の製法:製法A、製法B
単一因子実験の問題
実験を計画する際に、1つの条件Aを固定して、他の条件Bの値を少しずつ変化させて最適な値を決め、決まった条件Bの値を固定した上で、次に条件Aの値を変化させ、最適な条件を探していくことがあるかと思います。このような実験を「単一因子実験」と言います。
単一因子実験にどのような問題があるか、 鰹節の実験で、温度と時間を例として用いて説明します。
仮に、温度と時間のすべての条件で専門家に評価してもらえば【表1】のような結果がでるものとします。
【表1】
(※表中の数字は、味のバランスの良さの指標、大きいほど良い。)
この場合、時間を5分に固定して、3つの温度(3水準という言い方をします)で実験すると、95℃が最大値になります。
【表2】
次に温度を95℃に固定して、時間を2水準で実験すると、10分が最大となり、よって最適条件は95℃・10分となり、正しい最適条件を見つけることができます。
【表3】
ところが【表4】のように、実際は高温で10分煮ると雑味がでてくるので、低温でじっくり煮る方が旨味が増え雑味が少なく、75℃・10分が最適条件であるという場合では、【表1】と同じ手法で実験したのでは、正しい結果に行きつかないのは明白です。
【表4】
(※表中の数字は、味のバランスの良さの指標、大きいほど良い。)
2.本当の最適条件を見つけるには
前項の単一因子実験では次のような問題点が考えられます。
- 組み合わせの効果が考慮されていないこと
- 良い結果が出ても、最適組み合わせであるという保証がないこと
実験計画を行う際には適切に条件を設定しないと、組み合わせの効果が考慮されず正しい結論に結びつかなかったり、無駄に実験回数が増える場合もあります。現象や結果には様々な原因が関与しており、その原因を知るための実験計画を勘や経験に頼るだけでは効率的な実験や客観的なデータの判断はできません。
そこで実験計画法を利用することで、「とりあえずやってみよう、なんとなく判断する」を、客観的で効率の良い実験に変えていきましょう。
3.実験計画法の目的
実験計画法は、
- どのような要因が特性に影響を及ぼすのか
- 要因をどのような値に設定するのが良いか
客観的に判断することが目的となり、そのために、
- 効率の良い実験方法の計画を行う
- 得られた実験データを適切に分析する
このステップを行う統計学的手法です。
今後の連載では、実験計画法について基本や原則を説明していきます。
次回は、実験計画法の必須用語を確認したうえで、因子や要因効果の考え方などを解説します。
(日本アイアール株式会社 H・N)