【半導体製造プロセス入門】半導体製造装置業界の現状は?《モアムーア/モアザンムーア》

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半導体産業

本連載も最終回となりました。
今までの「半導体製造装置の技術的な解説」とはアプローチを変えて、「半導体製造装置業界」について解説します。

1.半導体製造装置の市場規模

半導体製造装置の市場は、全世界で約12兆円(2021年時点)といわれています。このうち約8割~9割は前工程関連市場のようです。そして、海外の半導体メーカーが顧客としては存在感を増しており、日本で作られた製造装置は海外に輸出されていることが多いです。つまり、半導体製造装置産業は輸出産業の色彩が強いです。

シェアとしては、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本の半導体製造装置メーカーが市場のほとんどを握っています。また、ウエハーやレジストなどでは、日本の資材メーカーが大きなシェアを持っています。ステッパーなどでは、ヨーロッパの装置メーカー、真空装置ではアメリカの装置メーカーの存在感が大きいです。
これは、特に前工程の装置では、非常に高い技術が要求されているために、技術レベルの高い国でないと作ることができないからです。また、それぞれの地域や国の技術の特徴を生かして、工程別に国際分業しているともいえるでしょう。

一方、顧客としては、近年、台湾などのアジアの国が多くなっています。つまり、先進国で作られた装置を、台湾や、韓国、中国などの顧客が買って製造ラインを構築し、半導体デバイスを製造するということになります。これらの国は人件費や電気代が安く、製造ラインの運用に必要なコストを下げることができるからです。

なお、半導体の製造は半導体製造装置の価格や性能によって、大きな影響を受けます。そのため、半導体産業は装置産業でもあります。

また、製造ラインの価格が大変高価になります。デバイスメーカーとしては高額な設備投資を行うので、できるだけ早く投資の回収を行う必要があり、製造ラインを「一気に立ち上げ、一気に製造する」という戦略がとられます。
そうすると、一定のサイクルで半導体産業の景気が大きく変化することになり、これを「シリコンサイクル」といいます。
 

2.従来の半導体製造装置メーカーはデバイスメーカーの下請け?

半導体産業は技術革新によって成長してきました。
新しい技術が投入されて光源が短波長化すると、ステッパーの世代が新しくなります。そして、その最先端の世代の半導体製造装置を導入するたびにシリコンサイクルは変動を繰り返してきました。また、ウエハーが大口径化することでも、新しいシリコンサイクルに突入するということを繰り返してきました。

また、特に国内の場合、デバイスメーカーの系列に製造装置メーカーが入ることで、安定して製造装置を供給するような仕組みが作られてきました。

「系列取引」というと、最近では昔ほど聞かなくなりましたが、半導体製造装置のように要求される技術のレベルが高い製品に関しては、エンドユーザーとしての発注元との緊密な関係を構築できるという意味で、メリットがあるのです。また、製造装置メーカーとしては、デバイスメーカーが出資することで経営が安定するというメリットもあるのです。

ここで、半導体製造装置と半導体製造プロセスは、「ハードウェア」と「ソフトウェア」の関係が成り立ちます。系列取引が盛んで、装置メーカーとデバイスメーカーとの関係が緊密だったころは、ソフトウェアである製造プロセス技術はおもにデバイスメーカーが握っていました。装置メーカーはその製造プロセスを実現するために、デバイスメーカーの細かい要求に対応して装置を製造していました。いわば装置メーカーはデバイスメーカーの「下請け」だったといえるでしょう。

さらに、従来の半導体工場、特に前工程では、大規模な工場で短期間に大量のデバイスを製造することが行われてきました。したがって、製造装置も枚葉式ではなくバッチ式が主流でした。
また、デバイスの種類もオーダーメードしたものではなく、メモリ(D-RAM)やCPUなど、同じものが大量に販売される「汎用品」が主流でした。
 

3.パラダイムシフトの波(IT化によるデバイスメーカーからのニーズ)

近頃では、IT機器の性能が驚異的に高まっています。ITというとソフトウェアの技術ばかりが注目されますが、そのソフトウェアを実現するにはハードウェアの性能向上が欠かせません。ハードウェア、つまり半導体デバイスの性能向上がIT機器の性能向上を支えているのです。また、要求される性能の多様化に伴ってデバイスも様々なものが必要になってきています。

そのため、要求されるデバイスもかつてのような汎用品ではなく、SoCシステム・オン・チップ)などのカスタム品・セミカスタム品(特注品)が増えてきています。つまり、少品種大量生産ではなく、多品種少量生産がトレンドになってきているのです。一方、特注品の場合使われるシチュエーションが限定されていることから、あまり、動作速度や集積度の高さは汎用品ほど求められません。

もちろん、従来通りパソコンのCPUやメモリデバイスなどのような汎用品の需要もあります。汎用品に要求される性能は動作速度(クロック周波数)や集積度の高さなどがあり、これらの性能を満たすためにはより高い集積度を実現するのはもちろん、半導体製造プロセスの高度化をしなければなりません。加えて、できるだけ効率よく大量のデバイスを製造する必要もあります。

つまり、いま製造装置や製造ラインに求められる性能としては

  • 1)特注品の場合:多品種少量生産を意識して、柔軟な製造ができること
  • 2)汎用品の場合:少品種大量生産を意識して、効率よく大量の製造ができること

ということになります。
 

4.半導体産業の方向性(ムーアの法則)

半導体産業の成長の経験則として「ムーアの法則」というのがあります。
ムーアの法則は、1965年にパソコンのCPUを製造している米国インテル社の創業者であるゴードン・ムーアが述べた「集積回路上のトランジスタ数(集積度)は、2年ごとに倍になる」というものです。

ムーアの法則によれば、かなりスピード感を持って半導体製造装置や製造プロセスの開発を行う必要があります。従来の半導体産業はおおむねこのムーアの法則にそって成長を続けてきたといえるでしょう。
 

(1)モアムーア

汎用品では集積度をあげ高速化することが求められます。
少品種大量生産を意識する必要があることから、従来通りムーアの法則に沿った技術開発を行う必要があります。この流れを「モアムーア」と呼びます。つまり、最先端の技術開発を行って大規模な工場で効率よく大量のデバイスを製造するという流れです。

モアムーアの流れは、今までのビジネスモデルの延長線上にあるので、知見が豊富にあります。そのため技術の戦略がわかりやすく、とっつきやすいという特徴があります。反面、非常に大規模な設備投資を行う必要があるので、どのデバイスメーカーでもできるものではありません。かなり覚悟をもってビジネスを行う必要があります。実際、モアムーアの流れでビジネスを行っているのは、昔からのデバイスメーカーで、かつ大企業が主流です。
 

(2)モアザンムーア

モアムーアの流れでは、大規模で最先端の生産ラインが必要となり、設備投資が多額になります。また、デバイスの需要は多様化していることから、汎用品の製造だけでは採算が悪くなってきています。加えて、高い集積度や動作速度はすべてのデバイスに求められるわけではありません。

そこで、高い集積度を目指すモアムーアとは別に、動作速度の必要とされない用途特注品向けに特化しようというビジネスモデルが登場してきました。これを「モアザンムーア」の流れといいます。

モアザンムーアの流れでは、モアムーアのような大規模な製造ラインや工場は必要ありません。また、最先端の装置もあまり使わず、製造装置のタイプは枚様式が主流です。このため、装置コストを下げることができます。

また、モアザンムーアのビジネスモデルでは、営業(営業技術)が重要になります。顧客の細かく具体的なニーズを汲み出し、柔軟に対応する必要があるからです。場合によってはニーズから必要な技術開発を行う場合もあるでしょう。これは、モアムーアのような「まず技術ありき」ではないということになります。また、製造装置にも柔軟性が求められます。

このように、モアザンムーアの流れの中で、製造装置メーカーもそれに対応した製品を開発しています。つまり、モアムーアとモアザンムーアでは製造装置に求められる性能や、それを可能にする技術開発の方向性が異なっているといえます。

表1では、モアムーアとモアザンムーアを比較してまとめています。

モアムーアとモアザンムーアの比較
【表1 モアムーアとモアザンムーアの比較】

 

5.ウエハーサイズの変遷とこれから

ウエハーサイズは、大きければ大きいほど一度に処理できるチップ数が多くなり、コストの削減ができるとされています。また、同じ数ならチップの大きさを大きくすることができ、多くのトランジスタをチップの上に載せることができます。一方、ウエハーサイズを大きくすると、製造装置の設計を最初からやり直さなければならず、装置の価格が高くなり、製造ラインのイニシャルコストがかかるというデメリットもあります。

半導体産業が黎明期のころ(1960年代)は3インチ(1インチ:25.4mm)のウエハーが主流でした。それが4インチとなり5インチとなり、1980年代では150mm(6インチ)が主流となりました。そして、さらに200mm(8インチ)、300mm(12インチ)となり、近年では、450mm(18インチ)が実用化されつつあります。なお、ウエハーの大きさはその直径の大きさで表されます。また、150mmからはインチ表示ではなくミリメートル表示となっているのは、ウエハーの規格上の表記が変わったためです。

ただ、ここまで大口径化すると、ウエハーの搬送やプロセスの均一性の維持が難しくなるなどの問題が発生する可能性があります。450mmの装置を導入できるのはモアムーアのビジネスモデルを採用するメーカーで、かつ非常に大規模な半導体工場を有するメーカーに限られてしまいます。このようなデバイスメーカーは現状では世界で数社しかないといわれています。

また、モアザンムーアの流れでは、必ずしも最先端の技術を導入する必要はないことから、一世代、二世代前の資材や装置を使い、ローコストで製造を行うことも考えられます。このようなことから、2021年時点においてもウエハーサイズは当面300mmが主流となり、450mm化は少しずつ時間をかけてゆっくりと対応が進むと思われます。
 

6.「半導体不足」で業界に注目?

以上、半導体製造装置業界を取り巻く状況について解説してきました。
半導体不足
いわゆる新型コロナウイルスの流行が一因とされている昨今の半導体不足で、この業界に対する注目度が上がっていますが、注目度の割にはその実態がよく知られていない業界です。実態をよく知ると大変エキサイティングで面白いので、半導体産業に興味をもってくれる人が増えることを願っています。
本連載がその一助になれば幸いです。

 

(アイアール技術者教育研究所 F・S)

 

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