3分でわかる 酸化グラフェンとは何か?構造・特徴・用途、グラフェンとの違いなどを解説

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酸化グラフェンの基礎知識

グラフェン」(Graphene)は、ナノカーボン類を構成する新規有望材料として知られています。
このグラフェンの類縁物質に「酸化グラフェン」(Graphene Oxide, 略号GO)があります。

グラフェンと酸化グラフェンはどういう関係にあるのでしょうか?
また、両者にはどんな相違点があるのでしょうか?

本記事では、酸化グラフェンの基礎知識をできるだけ簡単に解説します。

 

1.酸化グラフェンとは?

酸化グラフェンの構造

グラフェンと酸化グラフェンの構造を図1に示します1)
その名の通り、酸化グラフェンはグラフェンを酸化した構造を有しています。ただ酸化グラフェンは、特定構造の単一の材料ではありません。酸化の程度および酸化方法により構造が変化しますので、実際には多種多様な酸化グラフェンが存在します。図1の酸化グラフェンはその一例とお考えください。

 

グラフェンおよび酸化グラフェンの構造
【図1 グラフェンおよび酸化グラフェンの構造1)

 

酸化グラフェンの特徴(グラフェンとの関係で果たす役割)

グラフェンは、多層構造を有するグラファイト(黒鉛)中の1層のシートと言えます。グラファイトを原料にしてシートとして製造することが出来ます。しかし、グラフェンは導電性等の優れた特性の一方で、以下の欠点(デメリット)を抱えています。

  • 欠点a) 製造時物理的な方法で直接剥離により製造するのは困難であり、生産性が低い
  • 欠点b) 使用時: グラフェンは凝集しやすいため水にも有機溶媒にも分散せず、分散状態で使用するのが困難である

[※関連記事:グラフェンの商業利用に向けた課題と開発動向 はこちら]

酸化グラフェンが果たす役割は、上記のグラフェンの欠点と密接な関係にあります。
即ち酸化グラフェンには下記の二つの側面があります。

① 欠点a)の解決
図2は グラフェン製造における酸化グラフェンの役割を示したものです。グラファイトからの直接剥離でグラフェンを製造するのは困難ですが、グラファイトを酸化後に剥離して酸化グラフェンを製造するのは比較的容易です。酸化グラフェンを完全に還元すればグラフェンとして回収することが出来ます。
酸化グラフェンは、グラフェンを効率的に得るための中間体として機能します。

 

グラフェン製造における酸化グラフェンの役割
【図2 グラフェン製造における酸化グラフェンの役割】

 

② 欠点b)の解決
凝集性が高いグラフェンを溶媒等に十分に分散させる方法として置換基の導入があります。非常に高い導電性や強度等の特性がある程度低下するのを受け入れて、取り扱い時の作業性を向上させることを目的とします。グラフェンに多数の酸素含有置換基が導入された酸化グラフェンはこの目的に適う材料であり、水に分散可能です。グラフェン製造の中間体ではなく、酸化グラフェンそのものとして使用します。言わばグラフェンの代替です。その観点からグラフェンと酸化グラフェンの物性を比較したのが表1です。

 

【表1 グラフェンと酸化グラフェンの物性比較】

物性 グラフェン 酸化グラフェン
組成 炭素Cのみ CHO(比率は酸化度で可変)
構造 SP2結合が100% 部分的にSP2結合を有するが欠陥あり
親和性 疎水性 親水性
分散性 水にも有機溶媒にも低い 水に高分散
導電性 非常に高い 低い(半導体~絶縁体:酸化度で可変)
熱伝導性 非常に高い 低い(酸化度で可変)
強度 非常に高い 低い(酸化度で可変)

 
表1に示したように,グラフェンの長所を部分的に残している点に酸化グラフェンの特徴がありますが、酸化の程度が高まるとグラフェンの長所がほとんど失われてしまいます。また、可能な限りグラフェンの物性に近づけることが望ましい用途も存在し得ます。その場合には、酸化グラフェンを部分的に還元してグラフェンに近い構造に戻した還元型酸化グラフェン(略号rGO)が検討に使用されています。

酸化グラフェンはサンプルを用いた検討が可能です。
日本では、(株)日本触媒が酸化グラフェン水分散体のサンプル提供を開始しています2)

 

2.酸化グラフェンの用途

上述の通り酸化グラフェンはグラフェン代替の材料として、グラフェンが検討されている下記分野への適用が可能です。

  1. キャパシター燃料電池等の電気化学デバイス
  2. 高分子とのハイブリッド複合材料

これらに関する詳細は成書をご参照下さい3)

これ以外に、酸化グラフェン独自の有望な用途が存在します。
これまでに述べた酸化グラフェンの特性を極めて有効に活かせる用途です。何だと思いますか?

その答えが“平面構造を有する強力なカップリング剤”です。
酸化グラフェンはある程度の大きさの平面構造を有する極薄の1枚のシートであり、表面に多数のカルボキシ基、水酸基、エポキシ基等の官能基を有しています。これにより強力なカップリング剤、あるいは結合剤を形成することが出来ます。図3をご覧ください。

 

カップリング剤としての酸化グラフェン
【図3 カップリング剤としての酸化グラフェン】

 

基質Aと基質Bをカップリングさせる必要がある状況を想定してください。図3ではAB共に板状基質ですが、一方が粒子あるいは化合物分子であっても構いません。
両者の間に酸酸化グラフェン(最薄で1層)を介在させます。そうすると、基質AとBがポリエチレンやテフロンのような高い疎水性を持たない限り、酸化グラフェンはその官能基により両方の基質と密着できます。酸化グラフェンはある程度の大きさの平面構造を有していますので、シランカップリング剤等の低分子カップリング剤よりも密着が強力になります。これに加えて、酸化グラフェンは最も薄い場合は1層ですので、極薄で透明なカップリングが可能になります。

(株)日本触媒は基質Bとして抗菌・抗ウイルス剤化合物を用い基材A上に定着させたケースを検討しています。抗菌・抗ウイルス剤を従来法で基板上に固定した際には長期の効果維持が困難であったのに対して、酸化グラフェン層を介在させると、酸化グラフェンが足場として機能して、水に濡れる環境でも洗い流させることなく抗菌・抗ウイルス効果を長期間発揮することが確認できたと報告されています2)

酸化グラフェンのこの強力なカップリング機能は、これ以外にも、既に医薬・歯科や化粧品など多くの分野で検討されています。近い将来の実用化が期待されます。

なお、酸化グラフェンは非毒性だとされていますが、長期の安全性確認がまだ不十分との指摘があります。安全性確認の進展も期待されます。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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