3分でわかる技術の超キホン エナンチオマーとは

3分でわかる技術の超キホン エナンチオマーとは

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「エナンチオマー」という言葉は、あまり聞きなれない方もいらっしゃると思いますが、アミノ酸や医薬品などなど・・・結構人の生活に密着しているものなんです。

 

エナンチオマーとは?

有機化合物の炭素にある4つの結合基がすべて異なる場合は、回転させても決して重なり合うことがなく、鏡像関係にあり、全く異なる物質(異性体)となります。化学構造式が同じでも、これら2つの異性体は互いに、エナンチオマー(対掌体、鏡像異性体)であるといいます。 エナンチオマーは、融点、沸点、密度などの物理化学的性質は同じですが、旋光性、相互作用が異なっています

エナンチオマーの区別は、いろいろな表示方法によってされます。RS表示は、不斉炭素に結合する原子(団)の空間配列(絶対配置)を示すのにもっとも良く使われる表示法です。R体、S体と表記されます。DL表示は糖やアミノ酸においてよく用いられます。ただし、RS表示とDL表示は関連性がありません。他にも表示方法としては、cis-trans表示等があります。

 

エナンチオマーの例

1)アミノ酸

天然にあるアミノ酸は、そのほとんどがL体であることはよく知られています。例えば、調味料としてよく知られているグルタミン酸ナトリウムは、L体を主成分としています。

 

2)医薬品

①レボフロキサシン

ニューキノロン系の合成抗菌薬で、最初はラセミ体であるオフロキサシンといて販売されました。レボフロキサシンは、ラセミ体のうち薬効のあるS体のみを含有した医薬品です。S体の活性は、R体の10倍~20倍程度あるとされています。また、S体であるレボフロキサンは、吐気、頭痛、不眠などの中枢系の副作用の発現が減少したとの報告もあります。

②エソメプラゾール(ネキシウム)

胃潰瘍や十二指腸潰瘍に効くプロトンポンプ阻害薬ですが、もともとは、ラセミ体であるオメプラゾールという薬を販売していましたが、その後ラセミ体の一方の光学異性体(S体)を取り出し、エソメプラゾールという新たな医薬品として販売したものです(ただし、エソメプラゾールはマグネシウム塩です)。

③サリドマイド

睡眠導入剤や乗り物酔い止めとして開発された薬ですが、その作用はR体にあり、そのエナンチオマーであるS体は催奇形性を有するものでした。その結果、サリドマイド(ラセミ体)を服用した妊婦から、奇形児が多数生まれたという薬害事件が起きました。(※関連情報:サリドマイドに関するページはこちら)

④ナプロキセン

鎮痛、解熱、抗炎症薬として用いられる非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) の一種であるナプロキセンのうち、S体は鎮痛・抗炎症作用を示すのに対し、R体は副作用があり、一方は薬として有用、もう一方は人に害を及ぼすという異なった作用を示します。

⑤インタクリン

持続型利尿薬であるインタクリンは一過性の尿酸排泄作用を示しますが、R体が利尿作用を示すのに対し、S体は利尿作用は弱いものの、高い尿酸分解/利尿活性比を示します。

⑥ワルファリン

血液凝固薬であるワルファリンは、ラセミ体として使用されている医薬品でありますが、薬効に影響しないと考えられるものの、R体とS体では体内動態、生物活性が異なることが知られています。

他にも医薬品には多くの例があります。

 

3)その他

①リモネン

発泡スチロールの溶剤としても注目されているリモネンですが、L(-)体はテレピン油の香りがするのに対して、D(+)体はオレンジの香りがします。匂いの受容体との作用(相互作用)が異なるためです。D体は柑橘類から採取されています。

②乳酸

天然にはL体が多く存在し、運動を行うと筋肉に蓄積する乳酸は、L体です。

ちなみに、乳酸菌は炭水化物を分解して乳酸を合成(乳酸発酵)しますが、属や菌種により生成するタイプ(L型、D型およびDL型)がほぼ決まっています。生分解性プラスチックとして注目されているポリ乳酸は、化学合成するとDL型となり、ポリマーの原料にすることができませんが、乳酸菌によって、ポリ乳酸用の純粋なL体あるいはD体を作る発酵生産が注目されています。

③エストロン

女性ホルモンとして知られるエストロンですが、女性ホルモンとして働くのは(+)体のほうで、(-)体にはホルモン活性はありません。

④アスパルテーム

甘味剤として知られているアスパルテームの異性体のうち、(S,S)体は砂糖の200倍の甘さを持っていますが、(R,R)体は逆に苦さを感じるとされます。まったく逆の作用があります。

 

以上のようにエナンチオマーは種々の分野で知られていますが、一方のエナンチオマーのみを得る手法が重要になってきます。その一つが不斉合成というものです。

 

不斉合成とは

不斉合成とは、片方のエナンチオマーを作り分ける化学合成方法をいいます。通常の化学合成法を用いる限り、生成物はほぼ1:1の混合物(ラセミ体)で得られます。すなわち、キラル化合物の2種類のエナンチオマーが等量混ざり合った混合物になってしまいます。しかし、不斉合成により、光学活性(キラル)のある物質が得られることになります。

 

ノーベル賞

2001年のノーベル化学は、野依良治・名古屋大大学院教授が受賞されましたが、その受賞理由は「キラル触媒による不斉反応の研究」でした。

炭素-炭素二重結合をもつ化合物(アルケン)に水素を付加させる反応(水素化反応)において、アルケンの表裏の一方からのみ水素を付加させることができれば、片方のエナンチオマーを作り出すことができることになります。野依教授はBINAPという化合物とルテニウムと組み合わせた不斉触媒により、高効率でアルケンの不斉水素化を行うことに成功しました。この技術を利用して、香料であるメントールや抗生物質のカルバペネムなどが工業生産されています。

このように不斉合成は有機化学の分野において重要な役割をしているのです。

 

エナンチオマーに関する文献・特許を調べてみると?

(※いずれも2018年11月におけるヒット件数です)

J-globe で文献検索を行うと

キーワード「エナンチオマー」では、3394件の文献がヒットしました。

  • 「エナンチオマー 不斉合成」とすると207件
  • 「エナンチオマー 相互作用」では298件  となりました。

表題をざっと見ると医薬品に関する文献が多くありました。

 

J-PlatPatで特許検索を行うと

請求の範囲「エナンチオマー」では、5773件の特許がヒットしました。

  • 請求の範囲「エナンチオマー and 不斉合成」とすると9件
  • 請求の範囲「エナンチオマー and 相互作用」では61件 となりました。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)

 

☆エナンチオマーなど、医薬・化学・バイオの特許調査・文献調査サービスについては、
日本アイアールまでお気軽にお問い合わせください。

 

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