ペロブスカイト太陽電池が注目される理由とは?構造と変換効率を結晶シリコン系との比較で解説
いま、ペロブスカイト太陽電池が注目されています。
結晶シリコン系太陽電池が圧倒的シェアを確保している状況で、今なぜペロブスカイトなのでしょうか?
1.今なぜペロブスカイト太陽電池なのか?
技術の説明は後回しにして結論を先に述べます。
ペロブスカイト太陽電池が世界中で注目されているのは、主に下記3点のメリットを備えているからです。
- 高効率:結晶シリコン系に迫る高い効率が期待できます。
- 低コスト:結晶シリコン系より大幅に低コストでの生産が可能です。
- 場所を選ばない:フィルム型で曲げられるので、窓等へも設置も可能です。
これらのメリットに加えて、以下の日本固有の事情もあります。
- 太陽電池の生産は2022年で94%が単結晶シリコンで、国別では78%が中国製であり、かつての生産大国日本は僅か0.1%にまで凋落しています。日本としては新型太陽電池でかつての地位を回復したいところです。
- 現在のペロブスカイト太陽電池のブームは、桐蔭横浜大の宮坂力教授らの独自研究が契機となっています。いわば国産技術です。
- 主要原料であるヨウ素の生産量で日本は世界2位であり、資源小国日本として珍しく原料確保で優位です。
2.ペロブスカイトとは何か?
ところで「ペロブスカイト」とは何なのでしょうか?
ペロブスカイトは図1に示す結晶構造を指します。
通常ABX3と表記されています。
元々はAの位置にCa、BにTi、XにOが配置された鉱物の名称でしたが、同じ構造を有する結晶性化合物一般に使用されています。
従って、太陽電池に限定される訳ではありません。
超伝導材料の分野でもペロブスカイト構造のものが開発されています。
太陽電池としては、Aの位置にCs+やCH3NH3+等、BにPb2+やSn2+、XにI–、Br–、Cl–等が配置された結晶が利用されています。
【図1 ペロブスカイト結晶構造 ABX3】
3.ペロブスカイト太陽電池の構造
次にペロブスカイト太陽電池の構造について説明します。
図2はその構造を結晶シリコン系太陽電池と比較した模式図です1)。
光吸収層として核心的機能を果たすペロブスカイト層を電子輸送層と正孔輸送層が挟み込む構造となっています。なお、図2では結晶シリコン系とほぼ同等のサイズで描いていますが、実際の厚みは大きく異なる点にご注意下さい。
結晶シリコン系は技術的に成熟しています2)。シリコン層はかつては数mmの厚さでしたが、技術改良により現在では150-200μmにまで薄くなりました。しかし、光を十分に吸収するためには、これ以上大幅に薄くするのは難しいとされています。
これに対してペロブスカイト層は、ペロブスカイトが光を効率よく吸収できるため、1μmにも満たない薄さです1)。この薄さにより、僅かな量の材料しか必要とせず低コスト化が可能になり、薄膜フィルム型太陽電池の製造に利用できることにもなります。
【図2 ペロブスカイト太陽電池の構造:結晶シリコン系との比較図(模式図)】
ペロブスカイト太陽電池のメリットを以下に具体的に説明します。
4.ペロブスカイト太陽電池の変換効率
ペロブスカイト太陽電池が高効率であるというメリットについて、まずその効率を確認しましょう。
図3はペロブスカイト系とシリコン系について、太陽電池の変換効率の最高値をまとめたものです3)。
検証済みのデータだけが収録されていますが、研究段階のものも含まれていますので、この効率の太陽電池が量産できることを保証するものではありません。
しかし、ペロブスカイト系の変換効率が近年著しく向上し、最高値ではシリコン系と同等の26%という高い水準に既に達していることが分かります。量産段階でもペロブスカイト系がシリコン系に迫る変換効率を示す可能性を示すデータです。
【図3 太陽電池の変換効率の最高値(研究段階を含む):ペロブスカイトと結晶シリコン】
なお、ペロブスカイト系とシリコン系を連結した太陽電池(「タンデム型」と呼ばれます)では30%を超える変換効率も報告されています1)。
次回のコラム「ペロブスカイト太陽電池の発電コストがすごい!設置場所を選ばないなどメリット多数」では、ペロブスカイト太陽電池の「高効率」以外のメリットについて解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 宮坂力, ペロブスカイト太陽電池, 共立出版(2024)
- 2) 田口幹朗,シリコン太陽電池―歴史,高性能化技術と展望―, えねるみくす96(2), 111-122(2017)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jieenermix/96/2/96_111/_article/-char/ja/ - 3) 米国 The National Renewable Energy Laboratory(NREL)のWEBサイト情報に基づいて作成
https://www.nrel.gov/pv/interactive-cell-efficiency.html