微細藻類による化学品生産の優位性は?《アスタキサンチンの例で考察》

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アスタキサンチン

微細藻類は、それ自体が健康食品として利用されることに加えて、機能性化学品の生産手段としてもその比重を高めつつあります。

微細藻類による化学品生産の強みは何でしょうか?
代表例として、アスタキサンチンを取り上げて考察します。

1.アスタキサンチンとは

アスタキサンチン」は、天然の赤色色素です1)
サーモン、オキアミ、ゆでたエビやカニ等の魚介類が赤やピンクの色を帯びているのは、体内にアスタキサンチンを含んでいるためです。これら魚介類では、アスタキサンチンを生産する微生物を餌として取り込むことにより、体内にアスタキサンチンを蓄積していきます。

アスタキサンチンはC40H52O4の化学式で表される化合物です。その構造を図1に示します。ただこの構造は一例でありアスタキサンチンの構造は一種類ではない点にご留意ください。
図中でOH基が結合した2か所(赤と緑)の立体構造が図1とは異なる異性体が存在します。
後述しますが、このことが重要な意味を持っています。

アスタキサンチンの構造
【図1 アスタキサンチンの構造】

 

アスタキサンチンの抗酸化作用

このアスタキサンチンに対する世界の認識が1982年に大きく変化しました。
日本水産学会春季大会でアスタキサンチンの一重項酸素消去活性と抗酸化作用が明らかにされたのです2)
これを契機にアスタキサンチンは、色素としてのみでなく、多くの健康増進効果をもたらす機能性化学品として注目されるようになり、現在に至っています。

抗酸化剤は他にも多数存在します。それらと比べてアスタキサンチンの抗酸化能はどの水準なのでしょうか?
表1をご覧下さい1)
表中で使用された抗酸化剤は市販試薬であり製法が不明です。後述のように、製法も抗酸化能に影響します。
よって表1の結果はラフな比較とお考え下さい。それでもアスタキサンチンが、ビタミンCやビタミンEよりも桁違いに高い、最高水準の抗酸化能を持つことが表1から分かります。

抗酸化速度の比較
【表1 抗酸化速度の比較】

 

2.アスタキサンチンの商業生産の状況

1980年代前半にスイスのロッシュ社によりアスタキサンチンの化学合成法が開発されました。この化学合成品は、90年代以降、養殖サーモン(そのままではピンクを呈せず無色)の色揚げ剤などの水産用途で使われています。現在、欧州のBASF社と DSM社が化学合成品を生産しています。
バイオ生産がこれに続きました。まず1990年代から微細藻類(ヘマトコッカス藻)の培養での生産検討が開始され、現在、多数のメーカーがこの藻で商業生産しています。これに加え、酵母(ファフィア酵母)やバクテリア(パラコッカス菌)でも生産されています。
 

3.アスタキサンチンの市場

現時点での世界のアスタキサンチン市場に関する情報を表2にまとめました3)
不明な項目が多数あり、また記載した数値も推定だとされています。
その中でも確実なのは以下の2点です。

  1. 生産法別では、生産量でも市場規模でも化学合成品が支配的である。
  2. 微細藻類品は非常に高価格で販売されており、一定の市場を確保している。

アスタキサンチンの市場(推定)
【表2 アスタキサンチンの市場(推定)】

 

4.アスタキサンチン:化学合成 vs 酵母 vs 微細藻類

微細藻類による化学品生産は、一般に、酵母やバクテリアを用いた他のバイオ生産に比べて生産速度が劣ると言われています。
更に、アスタキサンチンでは化学合成品が先行して上市されていました。
このような中で、微細藻類によるアスタキサンチンが市場で一定の地位を確保したことを、どのようにみればよいでしょうか?

この点について、少し古くなりますが、2013年に米国テネシー大学が化学合成・酵母・微細藻類の製法間での比較データを発表しています4)。その内容を表3に示します。

微細藻類法は、コスト面でも環境への影響でも化学合成法に大きく劣りますが、a)対人利用(健康食品)が可能なこと、b)抗酸化能が高いこと、この二つの優位性により一定の地位を得ているとテネシー大学は評価しています。

  • a)の補足:
    化学合成品には人体への有害性に懸念があります。今回(2022年4月)文献調査した限りでは、化学合成品の人体への影響はまだ報告されていません。
  • b)の補足:
    同じアスタキサンチンで抗酸化能に差があるのは、図1で触れたようにアスタキサンチンには異性体が存在し、異性体間で抗酸化能が異なるためです。化学合成法では抗酸化能が低い異性体も他の異性体と共に併産されてしまいます。

スタキサンチン:製法間比較
【表3 アスタキサンチン:製法間比較】

 

5.他の化学品生産への展開

微細藻類による化学品生産を検討する際には、アスタキサンチンの例で今回紹介した微細藻類生産の優位性を参考に進めていただければと思います。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
 


《参考文献・サイト》


 

 

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