環境技術

CCS(CO2回収・貯留技術)の基礎知識と主なプロジェクトを解説

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CCSの基礎知識

本記事では、CCS(CO2の回収と貯留)の基礎知識と、その代表的プロジェクトの概要、現況と今後の見通しに関して解説します。

1.CCSとは?

CCS」とは、”Carbon dioxide Capture and Storage“の頭文字をとったものであり、二酸化炭素(CO2)を大気中に放出せずに回収し、地中などに貯留に関する技術を指します。

主に発電所や工場などの大規模排出源から発生するCO2を対象とし、地球温暖化対策の一環として注目されています。

 

(1)CCSのプロセス

CCSのプロセスは、大きくは以下の3つに分けることができます。

  • 回収(Capture):CO2を排出ガスから分離・回収します。化学吸収法や膜分離法など、様々な技術が開発されています。(※詳しい解説は「CO2回収技術を徹底比較!吸収/吸着/膜分離による回収方法の原理、CCUSの位置付けを解説」をご参照ください)
  • 輸送(Transport):回収したCO2を圧縮し、パイプラインや船舶などで貯留地まで運びます。
  • 貯留(Storage):地下の深部にある岩盤層や枯渇した油田・ガス田にCO2を圧入し、安全に貯留します。

 

(2)CCSのメリットとデメリット(課題)

CO2の大気への放出を抑えて温室効果ガスの排出削減に寄与することができることに加え、貯留したCO2をEOR(石油増進回収)などに活用することで資源回収も促進されるといったメリットがあります。
(※関連記事:CCS、EOR、そして超臨界 はこちら)

その一方で、回収・輸送・貯留が高コストというデメリットや、貯留の安全性への懸念があること(貯留する地域の住民の理解が必要)など、様々な課題もあります。

 

2.CCSに関する主なプロジェクトの例

CCSの具体的なイメージをつかんでいただくために、代表的なプロジェクトの概要を紹介します。

 

(1)ノルウェーによるSleipner商業プロジェクト

Sleipnerは、ノルウェーのStatoil社が主体となり1996年に操業を開始した、世界初のCCS商業プロジェクトです1)。Statoil社は1991年に施行されたノルウェーの炭素税を回避するために操業したとされています。

“Sleipner”とは北海の天然ガスを産出する海域の名称です。Sleipnerの天然ガスには最大9%のCO2が含まれていますので、天然ガスの製品規格であるCO2含量2%以下を満たすにはCO2を分離回収する必要があり、その際の回収CO2を貯留するものです。

図1にその模式図を示します。
海底深部からのCO2含有天然ガスから、海上のガス処理設備にてモノエタノールアミンを利用した化学吸収法でCO2を回収し、これを厚さ800mの安定な頁岩(けつがん)層下部の砂岩塩水帯層に加圧注入しています。

SleipnerプロジェクトはCO2貯留100万トン/年の規模であり、操業開始以来現在まで安定操業を継続中です。
モニタリングも継続しており、これまでCO2のリークはないと報告されています。

 

Sleipner CCS商業プロジェクトの模式図
【図1 Sleipner CCS商業プロジェクトの模式図】

 

(2)日本の苫小牧での大規模実証試験

日本では経済産業省・NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)・日本CCS調査(株)の三者によるCCS大規模実証試験が2016年4月から2019年11月まで苫小牧で実施されました2)
出光興産(株)北海道製油所の水素製造設備から出るCO2含有廃ガスからCO2<を分離回収して貯留する試験でした。

図2にその模式図を示します。
廃ガスには約50%のCO2が含まれていますので、アミンを利用した化学吸収法でCO2を回収し、これが製油所近くの海域深部にある貯留層に加圧注入されました。
貯留には、①泥岩主体の厚さ約1000mの遮蔽層下部の砂岩層と②さらに深部の厚さ1200m遮蔽層の下部にある火山岩層の2層が使用されました。
両貯留層の孔隙は塩水で満たされています。

 

苫小牧でのCCS大規模実証試験の模式図
【図2 苫小牧でのCCS大規模実証試験の模式図】

 

苫小牧の大規模実証試験は10万/年のペースで、累積で30万トンを貯留して終了しました。
終了後はモニタリングを実施しており、これまでCO2のリークは確認されていないと報告されています。

 

3.世界のCCSプロジェクトの現況

世界のCCS能力の推移(過去10年)を図3に示します3)

 

世界のCCS能力の推移(過去10年間)
【図3 世界のCCS能力の推移(過去10年間)】

 

近年CCS能力が急速に高まっていることが分かります。世界でCCSの必要性が広く認識されてきていることが反映されています。
2024年の時点で、CCSは0.5億トン/年の規模で稼働中であり、開発中のものを含めた能力は4億トン/年に達しました。しかし、世界のCO2年間排出量が増加中であって2023年には390.2億トン/年となり、前年から7.7億トン/年も増加したことを踏まえると4)、CCSがCO2排出削減の有力手段と言える水準には達していないのが実情です。現状の望ましくは100倍、少なくとも数十倍規模の能力増強が必要とみられます。

 

4.CCSに関する日本国内の動きは?

世界各国のCCS能力増強の動きの中で日本でも、苫小牧での大規模実証試験の成果を踏まえて、CCS事業が本格化しつつあります。
日本政府は2023年3月に策定された「CCS長期ロードマップ」で、2030年までの事業開始を目標とし、同年までにCO2貯留量6〜12億トン/年の確保に目途をつけることを目指しています5)

また2024年5月に成立した「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」で、①「試掘・貯留」時の安全・適正管理や ②「輸送時」の安全・適正管理に関する法律を整備する一方、2024年10月からは、液化CO2実証船による苫小牧〜舞鶴間(約1000km)の⻑距離輸送実験を開始し、2026年度までに低温・低圧での安定した液化COO2輸送技術の確立を目指しています。

 
以上、今回はCCSの基礎知識と主なプロジェクトなどをご紹介しました。
次回はCCU(CO2の回収と有効利用)について解説します。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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